日立が「1兆円買収」した米ITトップを直撃 日本企業の“根本的課題”とは?

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2024年09月14日 12:11  ITmedia ビジネスオンライン

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GlobalLogicのニテッシュ・バンガ社長兼CEO

 日立製作所が約1兆円を投じて2021年に買収した米GlobalLogic。日本を代表する製造業の日立と、デジタルエンジニアリングやアジャイルによるアプリケーション開発に強みを持つGlobalLogicの合流は、顧客のデータから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するLumada事業を軸とした日立の成長に、着実な成果をもたらしている。


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 GlobalLogicを率いるのは、社長兼CEOのニテッシュ・バンガ氏。日立による買収後の2022年10月にCEOに就任し、2024年4月からは日立の執行役常務と、日立のデジタルエンジニアリングビジネスユニット(BU)のCEOも務める。来日した同氏に、日立との統合がシナジーをもたらした要因や、日本市場の展望について聞いた。


●日立とGlobalLogicの統合 成功した要因は?


 ニテッシュ・バンガ氏は5月、日立のデジタルシステム&サービスセクターの国内外の幹部やリーダーが集まる「Global Annual Kickoff Meeting」に参加するために来日した。海外のグループ会社から出席した約100人を含む、200人規模で開催されたこのイベントは、グローバルの経営陣と現場のリーダーが一堂に会し、「One Hitachi」のシナジーを確認する場として、日立が初めて開催したものだ。


 ITmedia ビジネスオンラインは、この来日に合わせてニテッシュ・バンガ氏に単独インビューを実施した。ニテッシュ・バンガ氏は、2021年に日立が約1兆円で買収した当時はGlobalLogicのCOOで、2022年10月からCEOを務めている。同氏は、異なるカルチャーを持つ両社が統合し、シナジーを生み出している要因を、企業の社会的な存在価値であるパーパスが共通しているからだと説明した。


 「統合が成功した要因の1点目は、両社のトップレベルでパーパスが合致していたからです。GlobalLogicの重要なパーパスは、テクノロジーを通じて、社会や人々の生活を守り、より豊かにさせることです。日立も次世代のプロダクトやプラットフォームの開発を通じて、社会イノベーションを起こしていくことを大きなパーパスにしています。共通点が多かったことで、スムーズに統合できたのだと感じています」


 2点目には、日立から多大なサポートを受けたことを挙げた。


 「GlobalLogicが持っている文化やアジャイルの手法を、日立のグループ内に取り込み、良いものに関しては採用する形で受け入れてもらいました。3点目はお互いを尊重したことです。統合を始めた当初から、双方が敬意を持ってお互いの文化を理解しようと努めていました。これが、統合が成功するための、最も重要な鍵でした」


 ニテッシュ・バンガ氏はインフォシスに勤務していた頃、約10年間日本で勤務し、日立と仕事をしていた経験がある。


 「私自身は日本の働き方や仕事の進め方を理解していましたので、統合を進める上でも驚くことはありませんでした。ただGlobalLogicのメンバーは、文化の違いを感じていました。私が社員に伝えたのは、文化の違いはあるけれども、その違いを生かして、お互いについて学ぶことから始めること。そして理解した後には、一緒に新しいカルチャーを作り上げていくことでした」


 日本で働いた経験と、日本文化への理解の深さが、統合を進める上で生かされているという。


 「私が日本の文化で好きな点は、ディテールに注意を払うことと、忍耐強いこと、それに質が高いことです。ある意味では慎重で、上流工程から下流工程へと開発を進めるウォーターフォール開発につながる面があります。一方で、GlobalLogicがビジネスを展開しているグローバル市場では、アジャイルであることとスピードが求められます。このお互いの違いを理解できたことが大きかったのではないでしょうか」


●日本市場への期待 日本企業が抱える課題とは


 ニテッシュ・バンガ氏はGlobalLogicの社長兼CEOの職にありながら、この4月に日立の執行役常務に就任し、デジタルエンジニアリングBUのCEOを兼務することになった。


 その大きな意義は、GlobalLogicの最新テクノロジーとデザイン思考を駆使した先進的な開発力を、日立が強みとしているハードウェアやソフトウェアの制御技術であるOT(Operational Technology)分野に浸透させること。それに、Lumada事業を通じて次世代のプロダクトやサービスを展開していくことだ。


 日立全体の価値創出の拡大に向け、かじ取りをする立場になったことへの抱負を、次のように語った。


 「執行役常務とデジタルエンジニアリングBUのCEO就任を、光栄に感じると同時に、とてもわくわくしています。GlobalLogicを含めたグローバルでの強みと、日本国内でのアプリケーションやソフトウェアの強みを合わせることで、独自のサービスを確立して、世界有数の企業に対して国際的なプロジェクトを進めていきたいと考えています」


 2022年4月には、GlobalLogicの日本法人であるGlobalLogic Japanを設立した。グローバルでのDX案件の実績と、デザイン主導のデジタルエンジニアリングをもとに、日本企業のDXを推進している。日本市場の可能性について聞くと「日本企業には大きなビジネスの機会があると思っています。日本企業は素晴らしいプロダクトやテクノロジーをすでに持っていて、質が高いことも世界中に知られていますから、ビジネスのための要素はすでにそろっていると言えます」と話す。一方で、日本企業への現状を次のように見ている。


 「必要なのはマインドの変化です。これからは単にプロダクトを提供するだけでなく、コンピュータのリソースをソフトウェアによって制御する、ソフトウェア・ディファインドなプロダクトを提供することが求められます。従来のプロダクトを、どれだけリイノベーションできるかが重要になってくるでしょう」


 その上で、日本企業の課題を「テクノロジーの変化についていけるかどうか」だと指摘する。


 「日本企業が抱えている最大の課題は、生成AIなどのテクノロジーの変化のペースについていけるかどうかです。最近でもGPT-4の最新バージョンが出るなど、テクノロジーは急ピッチで変化を遂げ、根本的な転換点を迎えています。10年ほど前であればRPAが台頭し、ロボットが人間の動きを模倣するなど、これまでのテクノロジーはオートメーションが価値でした。それが、生成AIによってオートメーションからクリエーションに移行し、自らデータやインサイトを生み出すようになりました。今後はロボットが人間をトレーニングすることも可能になるでしょう」


 同氏は「こうしたグローバルの変化のスピードについていかなければ、日本企業は世界のビジネスでリーダーのポジションを取れない」と考えている。


 「逆に言えば、日本企業がソフトウェア・ディファインドの波に乗り、スピード感を持ってイノベーションを実現できれば、グローバルのリーダーであり続けることができると思っています」


●立て続けに5社を買収


 GlobalLogicでは2022年度から2023年度にかけて、立て続けに5社の買収を実施した。通信分野に特化したアイルランドのSideroや、組み込み系ソフトの開発に特化した米Mobiveil、モビリティ分野に知見を持つオーストラリアのKatzionなど、それぞれ得意分野やカバーするエリアが異なる企業だ。こうした買収を日立のサポートを受けながら、1社あたり8週間から12週間ほどの早いペースで進めている。その狙いを次のように明かす。


 「M&A戦略はとてもシンプルです。われわれが持っているキャパシティーや地理的な展開を考えたときに、足りない点がどこにあるのか。どういったサービスラインを強化して、どのようなエリアに拡大していきたいのか。このギャップを埋めるためにM&Aを実行しています。GlobalLogicは好調な成長を遂げていますので、単なる売り上げ拡大のためのM&Aは必要ありません。あくまでキャパシティーを拡大するためのM&Aなのです。私たちが持つケイパビリティのギャップを埋めることと、今後伸びていく業界を予測し、その業界に拡大していくことがM&A戦略の中心になっています」


 M&Aだけでなく、日立が持つ強みの中でもGlobalLogicは拡大を図っている。日立が得意とするエネルギーや鉄道、それに日立のビジネスを大きく変えているLumada事業を取り込む形で、デジタルエンジニアリングの領域を拡大している。そこに、地理的な拡大による新たなクライアントの獲得と、サービスカテゴリーの拡大を合わせることによって、GlobalLogicとして今後の成長を図っていく考えだ。


 「日立に買収される前は、GlobalLogicのメインマーケットは北米と欧州だけでした。それが現在では日立の事業のDXをお手伝いするとともに、日立が持っているグローバルな顧客に対して、私たちのサービスを提供できています。日立が得意とする分野と密に連携しながら、次の成長につなげていきたいですね」


(ジャーナリスト田中圭太郎)



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