Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由
川崎フロンターレ バフェティンビ・ゴミス インタビュー 中編
この度退団を発表した川崎フロンターレのFWバフェティンビ・ゴミス。『スポルティーバ』は8月末にゴミスへのインタビューを実施したが、元フランス代表ストライカーは「日本のフットボールの未来は明るい」と話した。来日してこの1年、日本の選手、育成、ファンたちを見て感じたこととは?
前編「ゴミスが語る日本の印象『どこに行っても驚くほどに美しい』」>>
後編「ゴミスが語るフランスと日本のサッカーの違い」>>
【才能に溢れる若者がたくさんいる】
バフェティンビ・ゴミスが12キャップを刻んだフランス代表は、ワールドカップ(W杯)とEURO(欧州選手権)を2度ずつ制した真のフットボールネーションのひとつだ。翻って、彼が今暮らしている国の代表チームは、W杯でベスト8に入ったことが、まだない。
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だが、川崎フロンターレで背番号18をつけてプレーした39歳に言わせると、日本の未来はものすごく明るい。
「日本で暮らしてみてわかったことはいろいろとあるが、フットボールに関しては間違いなくすばらしい未来が待っているはずだ」とゴミスは語る。
「インフラは整っているし、すべてがきちんとオーガナイズ(組織化)されている。私は川崎のユースにも行くが、そこでは適切な指導が行なわれ、才能に溢れる若者がたくさんいる。日本のフットボールの未来を担う選手たちだ。パリ五輪にはうちのアカデミーから育ったコウタ(高井幸大)も出場したよね。あのオリンピック代表もすごくいいチームだった。日本のフットボールの国際的なイメージは、さらに高まったはずだ」
今夏、ゴミスの出生国の首都で開催されたオリンピックで、日本はグループステージを全勝で突破した。準々決勝ではスペインに0−3の完敗を喫したが、その相手はのちに優勝している。
強いチームに敗れたのは間違いない。それでもいつか、日本代表がそうした列強の壁を乗り越えて、メジャートーナメントで主役を演じられるようになってほしいと、この国のサッカーファンは願い続けている。
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そのためには、何が必要なのか。何かを変えなければならないのか。
【日本人選手は驚くほどなんでもすぐに覚える】
例えば、以前にこのインタビューシリーズで話を聞いた外国籍選手のなかには、日本人選手の負けたあとのリアクションを不思議に感じている人がいた。敗戦後に移動するバスのなかで笑っている選手がいるんだ、それはヨーロッパでは考えられない、と。
「それは文化の違いだと、私は思う」とゴミスはこちらのそんな問いかけに応じた。
「日本人はとても平和的で、他者に敬意を払うことができる人たちだ。確かにヨーロッパやほかの国々では、敗北のあとにものすごく悔しがり、それが雪辱につながると考える人が多い。でもおそらく、日本人はそんな風に育てられていないのだろう。どんな場面でも、感情をストレートに表現する人が少ないように。
私がこの1年ほどで確信したのは、日本人選手の飲み込みの速さだ。本当に驚くほど、なんでもすぐに覚えるし、すごいスピードで成長していく。加えて規律もあるから、高めた能力をチームのために使おうとする。これらは日本人選手の長所であり、武器だ。
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また、ヨーロッパの第一線で活躍した選手たちが、現役を退いたあとも日本のフットボールのために手助けすることが重要だ。酒井(宏樹/現オークランドFC)や長友(佑都/現FC東京)、最近では三笘(薫/現ブライトン)といった世界のトップレベルを知る選手たちが、次世代のために様々な経験を伝えていってほしいと思う。そうすれば、着実に経験が蓄積され、いつか目標に届くようになるはずだ」
それは実際、ゴミスが川崎の年下の選手にしてきたことでもある。このインタビュー中に彼はチームメイトの名前を何度も挙げたが、なかでも同じストライカーの山田新のことを「シン」と呼んで可愛がってきたようだ。
ゴミスが「弟のような存在」という15歳年下の山田は、頻繁にアドバイスを求めたり、言語を教え合ったりするだけでなく、昨年12月にはゴミスのルーツであるセネガルに渡航し、彼の仲介で現地のリーグ戦を観戦したという。
そんな24歳は大卒2年目の今季、ここまでリーグ4位、チームではトップとなる12得点を記録している(第31節終了時)。昨季は4ゴールに終わったストライカーの成長に、ゴミスもひと役買ったに違いない。
【日本のフットボールの未来はとても明るい】
「(山田)新と(高井)幸大は、どちらも川崎の育成組織出身者だ(山田はユースのあとに桐蔭横浜大学へ進み、川崎に加入)。今はこのふたりがモデルケースになると思う。そして今後も川崎を筆頭に、日本から好タレントが輩出され続けていくだろう。
選手がヨーロッパに移籍する際、最初のクラブを吟味したほうがいい。多くの日本人選手はドイツを選ぶことが多いようだが、これは賢明だと思う。なぜなら、ドイツは日本に通じるところが多いから、ほかの国と比べると適応しやすいはずだから。いわばドイツは、ヨーロッパの日本のような国なんだ。
いずれにせよ、ひとつ覚えておいてほしいのは、日本にプロリーグができて、まだ30年くらいしか経っていないということ。イングランドやスペイン、ドイツ、そしてフランスといった国には、もっともっと長い歴史を持つリーグがある。彼らもその歳月のなかで、世代から世代へと貴重な経験を受け継いでいったから、現在の成功がある。
日本にも世界のトップレベルを知るフットボーラーはいる。彼らが次の世代へ経験を伝えていけば、いつか必ず目標に届く。私の言葉は信じていいと思う。日本のフットボールの未来はとても明るいよ。ふふふふふ」
魅惑的なスマイルを浮かべ、ゴミスはそう言って小さく笑った。嘘のなさそうな笑顔を見せる彼は、クラブの公式サイトの自己紹介で【最近の悩み】の項目に「(心配事)世界で戦争が続いている。終わってほしい」と記している。優しい心を持つゴミスは、日本のファンの振る舞いを好意的に見ている。
【日本のフットボールカルチャーを、私は心から誇りに思っている】
「マルセイユやガラタサライのファンはものすごく熱狂的で、浦和レッズのファンに近いかな。ただ日本では、試合が終われば、両チームのサポーター同士が一緒に歩いていたりする。これはヨーロッパでは見られない光景だ。
でもフットボールは、熱くなった男性だけのものではない。女性や子ども、年配の方にも楽しんでもらうべきだし、日本の平和なファンの文化はもっと世界が知るべきだと思う。もちろん勝負事なので、試合中は熱く戦うよ。でも試合が終われば、私たちは皆、ひとりの人間だ。互いをリスペクトして、スポーツを楽しむことを第一義としている日本のフットボールカルチャーを、私は心から誇りに思っている。
そしておそらくほかの外国籍選手と同じように、私はオフに帰国した時に、こんな日本の話を自国の友人や知り合いにするんだ。すると皆、とても興味深そうに聞いている。日本にはピッチの内外にすばらしい文化がある。これからもっと外国籍選手が増えると思うよ。それによって全体のレベルが底上げされれば、目標にまたひとつ近づいていけるはずだ」
後編「ゴミスが語るフランスと日本のサッカーの違い」へつづく>>
バフェティンビ・ゴミス
Bafetimbi Gomis/1985年8月6日生まれ。フランス南東部ラ・セーヌ=シュル=メール出身。国内の名門クラブ・サンテティエンヌのユースから2004年にトップチームデビュー。途中トロワへのローン期間を経ながらストライカーとして頭角を現わし、2009年にはリヨンに移籍して活躍。その後2014年スウォンジー、2016年マルセイユ、2017年からはガラタサライでプレー。2018年からはアル・ヒラルで3シーズン半、2022年から再びガラタサライでの1シーズンを経て、2023年の夏から川崎フロンターレでプレー。2024年9月、退団を発表した。フランス代表では12試合出場3得点。