時代劇が海外で今、評価されるワケ。『SHOGUN 将軍』がエミー賞18部門受賞の快挙!

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2024年09月25日 15:50  女子SPA!

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女子SPA!

Courtesy of FX Networks
 ディズニープラスの「スター」で独占配信中のドラマ『SHOGUN 将軍』がエミー賞で18部門を受賞し、エンタメ業界を席巻している。日本語が中心の作品にもかかわらずヒットした理由は? また、日本でも多くのファンを魅了した要因は?

 今回のエミー賞について『DayDay.』(日本テレビ系)に出演するなどテレビでも活躍しているよしひろまさみちさんに寄稿してもらいました(以下、よしひろさんの寄稿)。

◆さまざまな逆風を乗り越えて、時代劇がアメリカのテレビ界を席巻!

 アメリカのテレビ界で最高峰の賞といわれるプライムタイム・エミー賞(以下、エミー賞)で最多ノミネート、そしてドラマシリーズ部門の作品賞などの主要賞をはじめ、合計18部門を受賞して話題となった『SHOGUN 将軍』(ディズニープラスの「スター」で独占配信中)。

 これがどれほどの快挙だったかは、あらゆるメディアの既報のとおりだ。「約7割が日本語セリフという非英語のドラマ」「ハリウッド映画での知名度はあるとはいえドラマ業界ではそこまでではない真田広之が主演・プロデュース」「戦国時代の日本を舞台にしながら“サムライ・ゲイシャ・ニンジャ”のステレオタイプではないキャラクター」……。

 もろもろの逆風を乗り越え、それこそ真田の受賞コメントにもあったとおり「日本の時代劇が海をわたり国境を超えた」瞬間だった。では、なにがそこまで評価されたのか、私なりに少し解説したい。

◆エミー賞18部門受賞の話題作『SHOGUN 将軍』はなぜヒット?

 まず、最初に挙げたいのは知名度の強さなどの作品の持つ力だ。ジェームズ・クラベルによるベストセラー『将軍』は、1980年にアメリカの放送局ABCによってドラマ化され、そのときもエミー賞を獲得している。

 要は“既存IP”の活用。これはハリウッドに限らず、近年、各国の映像業界では当たり前となりつつある。オリジナルの脚本をもとにした作品の制作はハイリスクとされ、なかなかゴーサインが出ない。そのせいで、昔ヒットした作品のリメイクやスピンオフの企画が通りやすくなっているのだ。

 往年の名作ドラマ、ベストセラーの原作がある本作は、認知度の点では完璧にクリアしている。制作したアメリカのケーブルテレビ局FXは、近年イケイケどんどんの局としても知られている。最近では、SFホラーの名画『エイリアン』のドラマ化にも着手している。

◆コロナ禍によって「言葉の壁」がなくなったアメリカのエンタメ業界

 とはいえ、難しいのは言語の壁。これまで特にアメリカでは、非英語の映像作品につきものの「字幕」や「吹き替え」に対するアレルギーが強いとされてきた。

 だが、それもコロナ・パンデミックによって一気に普及した映像配信サービスでの全世界同時配信作品が増えたこと、その前後にアカデミー賞(2020年)を獲得した映画『パラサイト 半地下の家族』やエミー賞(2022年)を獲得した『イカゲーム』の成功によって、言語の壁、字幕のハードルは一気にズルっと下がった。そういった視聴環境ができていたことも、『SHOGUN〜』の成功につながったといえるだろう。

 ともあれ、高評価の理由は作品が幅広い世代にリーチしたからにほかならない。エミー賞は業界人によって選ばれる賞だが、視聴者の圧倒的支持と話題性がなければノミネートは叶わなかっただろう。

◆日本人のマインドに根付いている「勧善懲悪」がベース

 アメリカでの高評価ばかりが報道されているが、日本でも若い人を中心に人気を博している作品である。その理由は戦国時代日本を舞台にしたエキゾチックな世界観と、日本の時代劇が培ってきた「勧善懲悪」ベースの物語だからであろう。

 日本では、一昔前までは年末や正月の特別番組として大型時代劇が制作されるのが定番だった。それよりもちょっと前まではゴールデンタイムに時代劇が放映されているのが当たり前だった。豪華絢爛なセットや衣装、チャンバラアクションを含むマーシャルアーツや乗馬、そして強きをくじき弱きを助ける人情物語。

 しかし、これらの設定が常に貫かれているジャンルだけに「マンネリ」とされ、客離れしてしまったために、制作本数が激減してしまった。しかも、手間と金がかかるジャンルゆえに、制作にまつわる技術継承もされぬまま消えかかっている。

 でも考えてもみてほしい。人情味あふれる物語やゴージャスな衣装やセットは、不安と不穏と不況の三拍子が揃った現代を生きる誰にも夢を与えるものだし、そもそも大好物なはず。特に今の日本では。『SHOGUN〜』には、その日本人マインドに響く作品になっているのだ。

◆「大きな再解釈をすることなく映像化」原作本の奥深さ

 戦国時代、関ヶ原の合戦前夜。徳川家康をモデルにした虎永は五大老に命を狙われていた。そんなときに、イギリス人航海士ジョンを乗せた船が難破し、虎長の領地に漂着。虎永はキリシタンで英語を喋ることができる戸田鞠子を通訳にしたことで、ジョンから異国の戦術を学びとる。また、命を救われたジョンもまた当時の日本で暗躍していた外国人宣教師たちの陰謀を暴こうとしていた――。

 これが本ドラマの前半あらすじ。異国の人ジョンの目を通した異文化ギャップを描いたドラマではなく、油断は死に直結する世界を生きる人々の陰謀渦巻くファンタジーとして受け入れられている。

 そこに、鞠子とジョン(後の按針)とのロマンス、迫りくる聞きに立ち向かう按針と虎永率いる一派のチーム男子的攻防など、日本のプライムタイムで放映したとしてもF2層の人気を得られそうな要素が詰まっているのだ。

 特にエミー賞で主演女優賞を獲得したアンナ・サワイが演じる戸田鞠子のキャラクター設定は、多才かつ自立した女性像そのもので、今を生きる女性の共感を誘う。

 1975年に発表され全世界で1500万部以上売れた小説『SHOGUN 将軍』の日本語翻訳版が、全4巻で復刊している。ここまでに述べた世界観が、この原作本に詰まっている。しかも、それを大きな再解釈をすることなく映像化しても、ここまで現代にフィットするとは驚きだ。

 原作本では、ドラマでは省略されている部分も多くあるので、一読の価値あり。ドラマ視聴と同期して読み進めることで、ドラマの内容が一層に広がっていくと思うので、こちらもおすすめだ。

<文/よしひろまさみち>

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