マクラーレンに育成出身の平川亮選手をリザーブドライバーとして送り込み、ハースとの技術提携も噂されるなど、F1との関わりを強めているトヨタ。世界最大の自動車メーカーの看板を背負い、今シーズンから戦いの場所を日本からヨーロッパに移し、F1直下のFIA F2選手権に参戦しているのが宮田莉朋(みやた・りとも)選手だ。
昨年、国内最高峰のスーパーフォーミュラとスーパーGTでダブルチャンピオンに輝いた宮田選手は「F1で戦いたい」と公言しているが、デビューイヤーのF2では表彰台どころか、入賞にも苦労するレースが続いている。なぜ日本のような結果を出せないのか? F1のサポートレースとして開催されたF2第12戦アゼルバイジャンの現場で、苦悩するチャンピオンに話を聞いた。
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■まだシーズンをスタートできていない......。
――FIA F2は1戦2レースが開催されますが、第12戦アゼルバイジャンを終え、残りは11月のカタールと12月のアブダビの2戦4レースのみとなりました。今シーズンの宮田選手は、序盤戦はいい感じで戦えていたように見えましたが......。
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宮田 そうですかね(苦笑)。
――そう思いますよ。3月初頭に開催された開幕戦のバーレーンのレース2で初ポイントを獲得し、第3戦のオーストラリアではレース1とレース2の両イベントで5位フィニッシュ。幸先のいいスタートを切りましたが、その後は苦しんでいる印象です。第12戦のアゼルバイジャン終了時点でドライバーズランキングは19位という結果をご自身ではどう見ていますか?
宮田 シーズンが始まってかなり時間が経っていますが、僕自身はまったくスタートできていないという印象です。それはレースだけでなく私生活を含めてですね。正直、来年がどうなるのかはまだわかりませんが、今年は本格的なスタートができないままにシーズンが終わってしまうのかな......と感じています。
引き続きF2に参戦するかどうかは別にして、今は地に足がついた状態で来シーズンを始めたいという気持ちが強いです。ヨーロッパでレースをする上では、きちんとキャリアにフォーカスできる環境がなければ結果が出ません。その環境をどうやって構築すればいいのかと模索している感じですね。
――今シーズンはF2とヨーロッパを舞台にした全6戦の耐久レースシリーズ、ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ(ELMS)に参戦しつつ、世界耐久選手権(WEC)ではトヨタのテスト・リザーブドライバーとして帯同しています。関わっているレースが多すぎたことも影響していますか?
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宮田 僕の中で一番集中したいカテゴリーはF2です。それ以外のカテゴリーでレース活動していることがF2で結果を出す上で足かせになっていることはありません。むしろヨーロッパのレースに参戦して初年度でこれだけいろんなマシンに長い時間、乗れるというのはほかのドライバーは経験できないことです。その点においてはモリゾウ(豊田章男トヨタ会長のレース出場時の愛称)さんを始めとした、トヨタのワークスチームTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の方々には心から感謝しています。
今シーズン、参戦した全カテゴリーで自分のベストを尽くしてきました。その中で結果が出たり出なかったり、うれしさと苦しさの両方を経験してきましたが、レースうんぬんよりも別の要素で難しさやツラいところが多いですよね。それは今、詳しくは言えないですが......。
■モリゾウさんの熱い思いに応えたい
――宮田選手は4歳でカートを始めて、いろんなレースに出場してきたと思いますが、こんなにうまく行かないシーズンは初めてじゃないですか?
宮田 初めてですね。うまく行かない中でも自分がやらなければならないことはわかっていますが、レースに集中できていないというのが現状です。日本でレース前にできていた準備をヨーロッパでも同じようにできていればいいのですが、今はそれができないのに、あれこれやってしまっているのが現状です。それを整理してシンプルにして、自分のレースキャリアにフォーカスする状況にしたいと考えています。
――今、トヨタはF1との関わりを強めていますし、宮田選手もF1で走りたいという思いがあります。これからどうやってF1への道を切り開いていこうと考えていますか?
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宮田 モリゾウさんを始め、僕を応援してくださっているTGRの方々とはお会いしているので、皆さんの熱い思いはわかっています。
――トヨタはF1に参戦していませんが、モリゾウさんは「トヨタの育成ドライバーがF1を目指すことをバックアップする」と発言しています。
宮田 そうです。だからこそ、焦らずに地道に頑張ろうと思っています。今年に関しては、いきなり結果が出るとは思っていませんでした。多分、苦しいシーズンになるだろうと予想していましたが、それを乗り越えた先でいい結果を残そうという思いでスタートしていました。
F1までの道を切り拓くためには結果を出すことはもちろん大事です。でも今の僕にとってはレース以外の要素が壁になっていたりするので、これまでの環境やプロセスを今一度見直す必要があります。それがわかっているだけでもポジティブだと考えています。あとは僕と一緒に頑張ってくれているTGRの皆さん、所属チームのメンバーと一致団結して取り組むだけだと思っています。
■来年も本場のヨーロッパで戦いたい
――宮田選手にとって今、壁になっているのは具体的に何ですか? 精神的なこと、あるいはフィジカル的なこと? それとも生活する場所など、レース以外の私生活に関わることなのですか?
宮田 レースでメンタルが問題になっているわけではありません。複合的な要素です。例えば、今おっしゃった住む場所も考え直さなければならないかもしれません。僕は今、ドイツのケルンに住んでいますが、F2はイギリスのチームに所属して戦っています。ドイツに住む理由はなんだろうとか、そういったところから見直す必要があるのかなと思っています。
レースに関しては、正直、僕のやりたいことを十分にやれていない状況にあります。日本でレースをしていたときは、僕のキャリアを一緒に歩んでくれた家族、所属していたトムス・チーム、TGRの方々に自分の意見を言えば状況を理解してくれ、一致団結して戦う体制がつくれました。
――日本ではあった戦うための体制が、ヨーロッパではつくりあげることができていないということですね。
宮田 そうなりますね。それがないと、ヨーロッパでは最低限のスタートラインにすら立てません。それどころか、周囲と大きな差が生まれた地点から始めなければなりません。やっぱり日本人がヨーロッパで戦うことはすごく大変なことだとあらためて感じています。
逆にヨーロッパのドライバーが日本で戦うときには万全の準備をしてきます。彼ら以上にしっかりと体制をつくっていかないと、日本人はヨーロッパで成功できない。そこがちょっと行き違っている部分があると感じているので、まずはそういうところをきっちり見直していきたい。
来年の活動はどうなるのかわかりませんが、ヨーロッパでレースをしたいという気持ちは変わりません。そのためにも今年は何がダメで、ダメなところどうやって改善していくのか、という点を今年中にしっかりと見つけていかなければならないと思っています。それが来シーズン、結果を出すための鍵になると考えています。
●宮田莉朋(みやた・りとも)
1999年8月10日生まれ、神奈川県出身。4歳でカートを始め、2015年にFIA-F4選手権で4輪デビュー。2016年はトヨタのプロドライバー育成プログラム、フォーミュラトヨタ・レーシング・スクールのスカラシップを獲得。その後、FIA-F4、全日本F3、全日本スーパーフォーミュラ・ライツを経て、2020年には国内最高峰のスーパーフォーミュラ(SF)にデビュー。同年にはスーパーGTのGT500クラスにもフル参戦を果たす。2023年はSFとスーパー GTの両方を制して史上最年少24歳でダブルチャンピオンを獲得。2024年は活動の場をヨーロッパに移し、F2とヨーロピアン・ル・マン・シリーズに参戦しつつ、WECのトヨタ のリザーブドライバーとしても活動する。
インタビュー・撮影/熱田 護