カナダ人ドライバーのロバート・ウィケンスによれば、ボッシュのLMDh由来の新しいハンドコントロール・ブレーキシステムは、将来トップレベルのプロトタイプカーでレースを戦う「チャンス」を彼に与える可能性があるという。
2018年のNTTインディカー・シリーズの事故により下半身付随となった後、ウィケンスはTCRクラスにエントリーする際にハンドコントロール・システムを使用しており、現在はIMSAの『ミシュラン・パイロット・チャレンジ』に参戦している。
今回導入された新しいシステムは、現行世代のLMDhカーのボッシュ製電子ブレーキシステムを利用し、パイロット・チャレンジでウィケンスがドライブするヒョンデ・エラントラN TCRで使用しているハンドコントロールと連動するように変更されている。
「チャンスを与えてくれると思う」とウィケンスはSportscar365に語った。
「ブライアン・ハータ・オートスポーツとヒョンデと開発したシステムの限界は、多かれ少なかれTCRカテゴリーのレベルだったと言っても過言ではないと思う。正直なところ、僕は(IMSAの)ウェザーテック選手権や世界中の他のプロフェッショナルカテゴリーでレースをする可能性を探る機会を得たいという野心を常に持っていたんだ」
ヒョンデは先日、ジェネシスブランドでのLMDhプログラム開始を発表したばかりである。ウィケンスは、この新しいハンドコントロール・ブレーキシステムが、トップクラスのプロトタイプでレースをするという彼の目標達成にどのように役立つかについて、ポジティブに捉えている。
「LMDhまたはGTPでレースをすることが、常に僕の究極の目標だと思う」と彼は言った。
「誰もがそうであるように、僕は総合優勝を目指してレースをしたいと思っているが、何よりもまずウェザーテック選手権に出場する必要がある。現時点では何も確定していないので、僕らは懸命に努力を続け、何が見つかるかを探っていくよ」
「想像を絶するほどのものになる保証はないけど、それはチャンスを与えてくれるものだ。だから、いつかその機会があってうまくいけば、それを実現するチャンスはある」
■LMDhに組み込む作業は、より簡単に
ボッシュ・モータースポーツのシニア・アプリケーションエンジニア、ジョーダン・クレルは、新しいシステムは、LMDhコックピットを含むさまざまなレースカーで使用できるように適合できる、と述べている。
「そこには、LMDhシステムのコンポーネントが多数含まれている」とクレルは語った。
「したがって、すでにレースで実証されているものではあるが、現在、我々はこれを新しいアプリケーションに組み込んでいる。ほぼすべてのレースカーに組み込めるように、かなりモジュール化して設計した。そのため、LMDh車両に(このシステムを)組み込む場合は、TCRに組み込むよりも作業は少なくなるだろう」
ウィケンスは、このシステムがさまざまなプラットフォームで使用できることに興奮しているとも語った。
「このボッシュのシステムでは、クルマごとに調整が必要になるものの、1台のクルマから別のクルマへと持ち込むことができる基盤になると思う」とウィケンス。
「これにより、別のクルマでシステムをテストするための時間が大幅に短縮できる。次のチームオーナーが、存在しないものを開発しようとする際の経済的リスクが大幅に軽減されるんだ」
「ボッシュの協力を得て、僕らはいま、クルマからクルマへ、パドックからパドックへと持ち運べる電動ブレーキシステムを開発した。そしてそれは、僕のモータースポーツ・キャリアにさらなるチャンスを与えてくれた」
ボッシュ・モータースポーツ・ノース・アメリカのディレクター、ジェイコブ・バーゲンスキーは、健常者以外のドライバーに道を開くための能力が、このシステムを開発する使命の一部だったと語った。
「LMDhの成功を見れば、ハイブリッドシステムはレースでは新しいものではないが、LMDhのプラットフォームは平等であり、それはトラック上で我々全員が愛する興奮を生み出すものであり、それがこのシステムの目的であると思う」と彼は語った。
「健常者のドライバーだけでなく、トップレベルのレースに完全に参加できない人々のために平等と機会を創出する。ロバートはそれを証明するために、ここにいるのだ」
■大幅に進歩した新システム
このシステムは9月21日のインディアナポリス・モーター・スピードウェイでのパイロット・チャレンジ戦でのレースデビューに先立ち、ウィケンスによってテストおよび開発された。その結果、インディアナポリスでウィケンスの33号車ヒョンデはクラス2位を獲得した。
ウィケンスは、新しいハンドコントロールは、外観、感触、全体的なパフォーマンスの点で、それまでのシステムから大幅に進歩していると述べた。
「いま、僕らのレースカーの助手席側を見ると、レースカーにふさわしいブレーキシステムがあるように見える」と彼は言った。
「まだできたばかりだ。どんどん良くなっていく」
「以前のブレーキシステムでは、基本的にブレーキ圧を高めるために空気圧アクチュエーターを使用していた。手で握れる強さには限界がある。そして、空気圧アクチュエーターで作業を完了し、(足でブレーキ操作する)健常者のチームメイトと同じブレーキ圧を実現した」
「いまでは、必要なときに必要な圧力を瞬時に得ることができ、まるで健常者のドライバーに戻ったかのようだ。だから、競争の観点からは、これは僕の旅における大きな前進だと思う」
「僕の入力などに対して、非常に一貫して反応するんだ。この感覚をさらに磨き続けていきたい」
「でも、正直言って、素晴らしい感じだよ。これまでのところ、僕が望むことはすべて実行してくれているし、操作のラグも、過去に経験したような驚きもない。このシステムが僕に与えてくれる可能性に、本当に期待しているんだ」