バルセロナの守護神探し難航で日本人の名前も浮上...「狂わないとやっていけない」特殊性

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2024年10月03日 07:20  webスポルティーバ

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 10月1日、チャンピオンズリーグ(CL)リーグフェーズ第2節、バルセロナは本拠地にスイスのヤングボーイズを迎え、5−0と完勝を収めている。終始、実力で圧倒した。ロベルト・レバンドフスキ、ラフィーニャの攻撃力は全開だった。

 しかし、圧勝劇のなか、最後まで気が抜けない選手がいた。

 バルサ下部組織ラ・マシア出身の(イグナシオ・)イニャキ・ペーニャは急遽、ゴールマウスを任されている。9月22日、ビジャレアル戦で正GKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンがシーズンを棒に振る右膝の大ケガで離脱。次のヘタフェ戦から先発出場して勝利に貢献したが、その次のオサスナ戦は4失点で敗北だった。ペーニャのミスではなかったが、GKに4失点は重くのしかかる。チームの連勝も7でストップだ。

「ペーニャでシーズンを戦えるのか?」

 そんな不安はくすぶる。

 すでにマーケットも閉じていることから、クラブはフリーのGKだけで補強をリストアップした。この緊急事態に、「日本人GK長田澪(ブレーメン)を補強か」という報道まであった(この期間の移籍は不可能)。

 結果、昨シーズンまでユベントスでプレーし、現役引退後はスペイン国内のバカンス地にいたヴォイチェフ・シュチェスニーに白羽の矢を立てている。当初はケイロル・ナバスが最有力だったが、ユーベの正GKとしてプレーし、ポーランド代表としてユーロ2024も戦ったシュチェスニーに軍配が上がったようだ。

 ヤングボーイズ戦を、シュチェスニーはスタンドで見守っている。すでにメディカルチェックも終了。週明け月曜日には契約発表の見込みと言われる。まだ34歳で、GKとしては脂がのりきっているだけに......。

「心配しなくていい。先発はお前だ」

 ハンジ・フリック監督は、ペーニャへの過度の重圧を取り除こうと励ましたそうだが、口約束など無意味だろう。

「控えGKなら、行くつもりはない」

 一方で、シュチェスニーがそう語っていたと、まことしやかに伝えられている。

【バルサのGKの特異性】

 ひとつだけ言えるのは、ペーニャにせよ、シュチェスニーにせよ、バルサのゴールマウスを守る重責は並ではない、ということだ。

 ヤングボーイズ戦でも、バルサはほとんど攻め込まれる機会はなかった。しかし後半終了間際、立て続けに象徴的なシーンが訪れる。ハイラインの裏を破られる形で、一気にゴールを脅かされた。

 ひとつ目は、高いラインをあっさり抜かれている。GKペーニャとの1対1から失点したと思われたが、これはVARのオフサイド判定に救われることになる。ふたつ目は、ハイラインからわずかに守備が遅れたところを、17歳でトップデビュー戦のDFアンドレス・クエンカが力技で相手に振りきられてしまう。またも1対1になったピンチは、ペーニャがカバーした。

「GKもフィールドプレーヤーのひとり」

 それがヨハン・クライフ以来のバルサの基本理念である。つまり、GKは"最後の番人"というよりも"リベロ"という認識だ。「攻撃の美学」を重んじるチームでは、ハイラインでの守備で広いスペースをカバーし、攻撃ではビルドアップで端緒となるポジションと言える。カウンターに晒されるのは、ほとんど宿命的である。

「バルサのGKは、狂わないとやっていられない」

 かつてラ・マシアから2002年にトップに上がり、多くの栄光に浴したGKビクトル・バルデス(2014年までバルセロナに所属。2017年引退)が語っていた言葉は重い。

「カンプ・ノウのファンは、バルサが前がかりに戦うのを好む。でも、失点すると『無様』という空気になる。GKはそこで絶対にミスが許されない。背中に"非難の土砂降り"を浴びる。その罵声はファンが発するものだけではない。手厳しい監督だったり、心情を理解できないチームメイトだったり、たとえ言葉にしなくても、『戦犯はお前だ』という気持ちが突き刺さって来るのさ」

 世界でも際立った攻撃型のチームだけに、GKもフィールドプレーが求められる。足元のプレーでは、チャレンジが基本。つまり、自らのプレーが失点の契機になるリスクも背負っているのだ。

 はたして、ペーニャは"狂える"のか?

 ペーニャは総合力の高い好GKと言える。ラ・マシア出身だけに、バルサのGKの資質も備えている。しかし問題は、常勝とスペクタクルが義務づけられたチームでゴールマウスを守る重圧に耐えられるか。ひとつでもミスが出ると、焦りが生まれ、負の連鎖が起こる。だからこそ、フリック監督も気持ちを落ち着かせるために先発を確約したのだろう。

 昨シーズン、テア・シュテーゲンの代わりに出た試合で、ペーニャは次第に不安定になっていった。すでに25歳だが、セカンドチームであるバルサBでのプレーが長く、トップリーグでシーズンを通じてプレーした経験がない。それだけに、どうしても好不調の波が出る。相手のアタッカーはほぼ動物的にその動揺を察知し、ノープレッシャーでシュートを打ってくるのだ。

「テア・シュテーゲンだったら、簡単なシュートでは止められる」

 相手は勝手に"名前"にビビるのだが、ペーニャにはそれがない。言わば、名前負けだ。

 クラブ内では、18歳のアメリカ代表ディエゴ・コチェンを将来のバルサGKとして見据えているという。まさにリベロGKの傑作。1、2年後だったら(現在はケガで離脱中)、テア・シュテーゲンの後釜に考えられるが......。

 いずれにしろ、クラブは名手テア・シュテーゲンの不在と向き合うことになりそうだ。

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