全てが安いわけではないのに、「コストコ」はなぜお客の心をつかむのか 商品以外の魅力に迫る

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2024年10月05日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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あらためて、コストコの魅力とは?

 会員制スーパー「コストコ」の開店が相次いでいる。2023年8月の大阪・門真倉庫店に続き、今夏は滋賀と沖縄に2店舗が開店した。秋には福岡に、36店舗目となる小郡倉庫店をオープンする予定である。


【画像】これはびっくり! 会員限定のガソリンスタンドの価格、キロ単位で販売するコーヒー豆、ゴルフ用品(計4枚)


 品ぞろえや店舗の楽しさを評価する声が多く、根強いファンを獲得しているのがコストコの特徴だ。通常のスーパーもコストコ製品を扱うコーナーを設けるようになり、いわゆる「再販店」も現れている。消費者を魅了する理由はどこにあるのか。実際に店舗を訪れ、その理由を探った。


●飛行機の格納庫を使った店舗がルーツ


 コストコは1976年に米カリフォルニア州で開店した小売店「Price Club」をルーツとする。飛行機の格納庫を活用した店舗であり、現在の店舗デザインの原型となった。1983年に米ワシントン州で「Costco」の1号店がオープンし、1993年にPrice Clubと合併する形で「プライスコストコ」が誕生、1999年に日本へ上陸した。当初の10年間は年に1店舗ペースで出店していたが、それ以降はペースを加速させ、現在では国内で35店舗を展開している。


 店舗は誰でも入れるわけではない。入店するには個人または法人会員になる必要があり、個人会員のランクには「ゴールドスター」(年会費4840円)と「エグゼクティブ・ゴールドスター」(同9900円)の2種類がある。上位ランクは最大2%の還元を受けられるほか、特別クーポンを配布している。入店時に顔写真の載った会員証を掲示するシステムで、同伴者は2人まで入店可能だ。


●コストコが「2割安い」と主張するワケ


 今回、記事の執筆に当たって新三郷倉庫店(埼玉県三郷市)を訪れた。これまでコストコに対してスーパーという認識があったが、店内は食品や洗剤といった消耗品だけでなく、衣服や家具、家電にPCと幅広い商品を陳列していた。ブランドにこだわらなければ家庭内に必要なものを全てそろえられる。


 非冷蔵・冷凍の食品や洗剤類などの消耗品は、基本的にパレット上に陳列している。IKEAの倉庫と同じような雰囲気だ。常のスーパーのように商品棚に並べるのではなく、メーカーから入荷し、そのまま陳列する形をとっている。倉庫の上段にもパレットが置いてあり、下段の商品がなくなったら上段のパレットから下ろしていると考えられる。


 一般的な小売店と異なり、コストコはメーカーからの直接取引を基本としている。メーカーから配送された商品は一度コストコの物流センターに集められ、そこから各店舗に配送される仕組みだ。直接取引であること、そしてパレット陳列で手間がかからないことが安さにつながり「市場価格より2割安く提供している」とコストコは主張している。ただし、商品は2.6キロの食用油や5リットル以上の洗剤というように、大容量のものが多い。大容量品を大量に仕入れることで安さを実現しているわけだ。


●「全てが安い」わけではない


 SNSやメディアで話題になっているように、特に人気なのが大容量の食料品だ。12個入りの蒸しパンやミニケーキ、24個入りのロールパンなど、ジャンルを問わず大容量の商品が並ぶ。例えば生鮮コーナーでは100グラムで145円(9月21日時点、以下同)の牛ひき肉、同69円の豚ひき肉などがある。比較的安いが、ひき肉の内容量は約2キロもあり、消費期限も1〜2日のため、基本的に購入はファミリー層に限られるだろう。


 なお「コストコは安い」という印象があるが、こうした大容量品のため相場が把握しづらく、特にメーカー品などはシビアにグラム単価で見ると実はそこまで安くない商品も多い。安いのはコストコの自社PB「KIRKLAND Signature(カークランドシグネチャー)」だ。1本約1000円の白ワインや1キロ強で約2000円のコーヒー豆などが挙げられる。同ブランドの商品ジャンルは食料品から衣類、ゴルフ用品まで多岐にわたる。特大サイズ・低価格をコンセプトとしており、コストコ全世界では売り上げの4分の1を占めるという。


●「商品」以外にもさまざまな付加価値


 店舗で販売する商品以外にも、コストコの集客力に貢献しているものがある。例えば入口付近のフードコートは、その安さで人気を博す。ソーダ類のドリンクは1杯80円、ドリンクバースタイルでお代わりも自由だ。ピザは1スライスで350円、ホットドッグはソーダ付きで180円である。各種ソフトクリームは300円と、フードコートには常に行列ができ、にぎわっている。


 訪問した新三郷店はガソリンスタンドも併設している。9月21日時点でリッター価格はレギュラー154円、ハイオク165円であり、当時の埼玉県平均と比較して10円以上も安い(筆者調べ)。スタンドでの支払いはキャッシュレスのみで、オイル交換などの設備もなくガソリン販売に特化していることが安さにつながっているという。


 コストコは駐車場の広さも特徴で、通常スーパーが100台強であるのに対して、800台以上設置しており、自動車客をメインターゲットとしている。レジ袋は提供しておらず、カートに商品を載せたまま駐車場まで移動し、車に乗せ換えるスタイルが基本のため、圧倒的に安いガソリンスタンドは集客手段の一つになっている。


 国内の会員数は600万人以上にのぼり、仮に全員がゴールドスター会員だと仮定すると、年間の収益は290億円となる。フードコートやガソリンスタンドといった付帯設備の維持費は会員費から捻出しているのかもしれない。


●意外にも商品数は少ない


 商品や付帯設備の安さもさることながら、コストコ人気の背景にはレジャー感もある。通常のスーパーと異なる陳列と規模はそれだけで楽しめる。通常のスーパーのような1人客は少なく、店内は家族連れや夫婦、友人同士などのグループ客が主だった。商品ジャンルも幅広く、ドン・キホーテの「圧縮陳列」から掘り出しものを見つけるような楽しさがある。しかし、実はコストコ店内の商品数は3500点程度。約1万点とされる通常スーパーと比較して3分の1程度しかないのは、やや意外である。


 コストコの店舗当たり売上高は年間で180億円以上といわれ、これを平均的な売場面積である1万平米で割ると、180万円になる。この数字は、通常スーパーの平均値である130万円弱と比較して高い。少ない商品でレジャー感をもたらしつつも、スーパーより効率的に販売しているのだ。


 コストコは2030年までに国内60店舗以上を目標としている。消費者側から見たポテンシャルは高そうだが、「敷地面積1万5000坪以上」「半径10キロの人口が概ね50万人以上」といった土地条件が足かせとなりそうだ。東京近辺では町田・川崎・新三郷・幕張より都心側には進出できておらず、近年の出店地域も地方が主だ。今後も各県を埋める形で勢力を伸ばしていくのだろう。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • ピザとチーズケーキ?は美味い。野菜、果物も意外と良い物もあるよ。他の商品を見て回るのも楽しいし…田舎にコストコが出来ると他に行く所が無いんです(本音 笑)
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