NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。9月29日に放送された第三十七回「波紋」では、中宮・彰子（見上愛）が一条天皇（塩野瑛久）の皇子を出産した後の人々の日常が描かれた。
その中では、彰子たちが一条天皇に献上する「源氏物語」の豪華本を制作するなどの見どころがある一方で、皇子の誕生を巡って、人々の間にさまざまな思惑の変化が訪れていた。特に印象深かったのは、盗賊が藤壺に侵入した際、主人公・まひろ（吉高由里子）が彰子の元に駆け付け、難を逃れたことを知った藤原道長（柄本佑）がふと漏らした次の一言だ。
「敦成親王さまは、次の東宮となられるお方ゆえ…」
これを聞いたまひろは、「次の？」と道長に疑問を投げかけていた。一条天皇には亡き皇后・定子（高畑充希）との間に生まれた第一皇子の敦康親王がおり、彰子が生んだ敦成親王は、第二皇子に当たる。順当にいけば、兄の敦康親王が次の東宮（皇太子）となるはずだが、道長の言葉はそれを覆そうとしていることを意味する。だが、道長自身はその言葉を発した直後、「しまった！」という顔をしていた。隠していた本音が漏れたのか、それとも、自覚していなかった本音に気づいてしまったのかはわからない。いずれにしてもこの一言が、重大な意味を持っていることは確かだ。
前回、彰子の懐妊を知った藤原公任（町田啓太）や藤原斉信（金田哲）らが次の東宮を巡る話をしていた際、道長は「次の東宮さまのお話をするということは、帝が御位をお降りになるときの話をするということだ」と告げ、話を打ち切る慎重さを見せていた。にもかかわらず、実際に孫にあたる皇子が生まれたことで、自分でも想像していなかった思いが湧きあがったのかもしれない。また、相手がまひろだったことで、油断があったのかもしれない。
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道長のこの一言が、どんな波乱を呼ぶのだろうか。この回終盤では、定子の兄・藤原伊周（三浦翔平）が、道長と同じ位に昇進。敦康親王の後見を務めることになり、道長との間に今まで以上の対立が生まれることは必至だ。
そして、それ以上に気になるのは、彰子の今後だ。道長と伊周の間で東宮の座を巡る争いが激化すれば、仲睦まじく暮らしてきた敦康親王と、わが子・敦成親王の間で板挟みになり、葛藤することは確実。彰子自身も、何を聞かれても「おおせのままに」としか答えられなかった頃とは、見違えるほど成長した。この回では、藤壺に盗賊が侵入したときも、駆け付けたまひろに向かって「しばし待て」と告げ、自ら行動する力強さを見せた。
そんな彰子が、もし「敦成親王を次の東宮に」という父・道長の考えを知ったら、いったいどうなるのだろうか。
このほか、久しぶりに実家に帰ったまひろと再会した娘・賢子（梨里花）の母娘のすれ違いや、夫・道長とまひろの関係を察したかのような倫子（黒木華）の態度、伊周の出世の裏に垣間見える「敦康親王を次の東宮に」という一条天皇の思いなど、皇子誕生という幸福感の裏で、人々のさまざまな思惑が浮かび上がってきた。これらが今後、どのように絡み合い、ドラマを織りなしていくのか。まさに今後に「波紋」を広げるような第三十七回だった。
（井上健一）
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