近年になって急速に人々の生活に欠かせなくなったスマートフォン。特に、スマホを使ったメッセージングアプリは不可欠となっており、コミュニケーション手段を劇的に変化させたと言っても差し支えない。
日本では、国民の8割に当たる9600万人が、無料メッセージングアプリのLINEを使っている。他のアプリの追随を許さない独占的なコミュニケーション手段になっているが、一方でこれまで何度も個人情報の扱いが問題になり、2021年以降、3度にわたって総務省から行政指導を受けるなど、セキュリティの不安が付きまとっている。
そんなことから、情報セキュリティ意識が高い人の間では、LINEとは別のメッセージングアプリを利用したいという人が少なくない。筆者も「いいアプリはないですか」と聞かれることが多い。
そもそも、LINEが日本、台湾、タイ以外の国や地域であまり使われていないことはよく知られている。世界では30億人がメッセージングアプリを使っているが、最も使われているのが米メタの「WhatsApp(ワッツアップ)」で、海外の人と仕事をしたり友人がいたりするビジネスパーソンならインストールしていることだろう。他に世界的にメジャーなアプリは「Facebook Messenger」や「Snapchat」「Telegram」などがある。
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そんな世界で人気があるアプリのリストなどを見ていると、必ず見覚えのない「日系」アプリが登場する。楽天の「Rakuten Viber(バイバー)」である。世界で約13億人が使用しているという。ちなみにLINEの利用者が世界で約2億人ほどだということを考えると、Viberの知名度がかなり高いのが分かる。
日本人にとっては“謎”な存在ですらあるViberだが、もともとイスラエルで開発されたメッセージングアプリらしい。楽天の名を持つこのアプリは、いったいどんなものなのか。今回、Viber本部に直撃取材した。
●「スーパーアプリ」として根付いている国も
――そもそもの質問で申し訳ないですが、Viberというのはいったいどこの会社なんですか?
Viberは、2014年に楽天に買収されました。2021年には、楽天の一部門で4000人の従業員を擁する楽天インターナショナルの管理下に入っています。楽天インターナショナルは北米、欧州、中東に本社を置いて事業を展開しています。
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Viberは「Rakuten Viber」というサービス名で運営されており、本部のあるルクセンブルクで法人化されています。イスラエルの首都テルアビブ、ブルガリアの首都ソフィア、フランスの首都パリ、スペインのバルセロナ、ルクセンブルク、英国の首都ロンドン、ジョージアの首都トビリシ、ウクライナの首都キーウ、シンガポール、東京など、世界中で約550人のチームメンバーが在籍し、世界各地にオフィスを構えています。
――世界で展開しているわけですね。実際にメッセージングアプリの世界事情を見てみると、Viberはランキングに入るほど利用者は多いですね。
現在、Viberは世界で最も信頼されているアプリの一つになっており、ダウンロード実績は10億件以上で、190カ国以上にユーザーがいます。創業以来、当社のビジョンは変わっていません。それは、各国の事情に適したグローバルなアプリとなることです。現在、Viberはギリシャやフィリピンを含むいくつかの国々で、スーパーアプリ(メッセージだけでなくいろいろなサービスや機能を持つアプリ)となっていて、家族や友人など人々を結び付け、企業とコミュニケーションも取れるようになっています。
――世界で知られているのはよく分かりましたが、日本企業の楽天という社名が付いた日系のアプリなのに、なぜ日本ではあまり知られていないのでしょうか?
日本は魅力的な市場で、日本国内のユーザーや企業への認知度を高めていく予定です。電子書籍事業「楽天Kobo」と同様に、私たちは新しい市場に対応するために、多言語対応と地域密着型の手法を採用しています。Viberの利用率が低い市場で、より認知度を高めるために努力していまして、アジアには専任のチームがあって成長を続けています。
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●セキュリティ面はどうなっているのか
――メッセージングアプリは毎日のようにビジネスやプライベートで使うものなので、やはりセキュリティがきちんと構築されているかが気になります。Viberのセキュリティは正直なところ……大丈夫ですか?
Rakuten Viberは高度なセキュリティを核として構築されています。欧州の消費者団体シュティフトゥング・ヴァーレンテストによると、Viberがセキュリティ部門でトップ3のメッセージングアプリに格付けされています。その理由は、1対1のメッセージから音声通話、ビデオ通話、および全てのプライベートなグループメッセージで、エンドツーエンドの暗号化をデフォルトで有効にしているからです。
基本的に、私たちはプライベートな会話はプライベートであるべきだと考えています。ユーザーのプライバシーを保護するため、メッセージは配信後、われわれのサーバから削除されます。弊社ではユーザーのコミュニケーションを閲覧したり追跡したりすることはできません。つまり、プライベートな会話を第三者に共有することは決してないということです。
――確かに、安全と言われる他のメッセージングアプリのアピールポイントも暗号化ですね。やはり個人的なメッセージを他人に見られるのは気持ち悪いですから。
1対1のチャットでは、指定した時間が経過した後に自動的にメッセージが消滅される機能も提供しています。加えて、サーバとの接続には全てHTTPS(暗号化通信を使って、Web情報を送受信する仕組み)を使用し、ユーザーや企業間の全てのチャットにおいて通信中の暗号化を行い、メッセージが送信されると同時に暗号化、宛先に届くまで暗号化を維持しています。
さらに、発信者番号通知機能により、ユーザーはスパムメールから保護され、重要な電話を簡単に識別できます。受信者の番号が不正行為に悪用されていないことを確認できる「高度な保護メッセージ」の機能も展開しています。これは、金融機関や機密情報を扱う企業にとって特に有用です。
――スーパーアプリになっている国があるとのことですが、欧州などで普及しているアプリユーザー間での支払いもできるのですか?
私たちが提供する「Viber Payments(リアルタイム送金サービス)」は、一部の国で提供しているサービスで、Viberユーザー間で送金ができます。送金に関する全ての業務は、アイスランド中央銀行の認可および規制を受けるフィンテック企業「Rapyd」によって安全に管理されています。Rapydは、欧州の規制要件である「セーフガード」と呼ばれるプロセスに準拠しており、ユーザーの資金はEU銀行の専用口座で安全に保管されます。
最近、米国公認会計士協会(AICPA)が策定した監査基準を取得しました。 この厳格な枠組みは、顧客データのセキュリティ、可用性、機密性、プライバシーを確保するために設計されており、当社の情報セキュリティに対する積極的な取り組みと、最高水準のデータ保護維持に対する献身を証明するものです。
●日系アプリとして表に出てきてほしい
以上のように、かなり詳細に質問に答えてくれた。筆者としてはやはり安全性が気になっていたが、欧州に拠点を置いていることで、EU域内の個人データを保護するための統一ルールであるGDPR(一般データ保護規則)などにより、厳しいユーザー情報の管理や、サイバー攻撃の迅速な報告と対応が求められていることが評価できるだろう。
実は筆者も少し前から特定の知人との間ではViberを使ってコミュニケーションを取っているのだが、今のところ、いちユーザーとして特に不満や違和感はない。
ただ、楽天グループであるのに日本でほぼ普及していないのは残念である。LINEが繰り返しセキュリティ面で問題を起こして3度も総務省から行政指導を受けても、日本人がLINEを手放せないのは、日本人に優しいメッセージングアプリが他にないからだ。
Rakuten Viberがその代わりになるにはもっと知名度を上げないといけないだろうが、日本人が安心して使えるアプリとしてどんどん表に出てきてほしい。そうなれば日本のメッセージングアプリの市場がもっと健全になると思うのだが。
(山田敏弘)
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