“アマゾン頼り”の終焉? ニトリはじめ小売り大手が「自前ECサイト」 勝ち筋は

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2024年10月11日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ニトリが独自のマーケットプレースを構築する(写真はニトリ公式Webサイトより)

 2024年2月、ニトリが自社独自のマーケットプレース構築を本格的に始めた。このECプラットフォームの大きな特徴は、ニトリだけでなく“他社も出品できる”ことだ。開発や運用を支援しているのが、マーケットプレースのプラットフォームサービスを提供するMirakl(ミラクル、東京都港区)である。


【画像】他社も出品可能、マーケットプレースの定義とは


 グローバル市場では、小売り企業が自前のマーケットプレースを立ち上げるケースが増えている。Amazonなど大手ECモールへの出品は集客が見込める分、自由度が少ない。しかし、自社ECサイトだけでは品ぞろえで見劣りしてしまう。そこで「第3の選択肢」というわけだ。


 今回のニトリの動きを機に、この潮流が日本国内へと入ってくる可能性はあるのだろうか。そうなれば、アマゾンや楽天といった巨大プラットフォームの寡占状態にあるEC業界の流れが変わるかもしれない。


 今EC業界に何が起ころうとしているのか。Miraklの佐藤恭平社長に聞いた。


●脱・巨大プラットフォーマー


 B2Cの国内EC市場はコロナ禍を機に成長したものの、巣ごもり需要の減少により成長は鈍化した。経済産業省の調査によると2023年のB2C-EC市場規模(物販系分野)は14兆6760億円で、増減率は4.83%の増加傾向にあるものの、2020年に20%以上増加した時と比較すると、成長は鈍化傾向にある。


 B2CのEC市場は、巨大プラットフォーマーの寡占状態にあるといえる。企業が自前で運営するECサイトは増加したものの、「プラットフォーマーとの競争は厳しく、利益を出せている企業は少ない」と佐藤氏も指摘する。


 「今後もこうした状況が続けば、EC市場も携帯電話やコンビニ市場同様、近い将来に成長が鈍化し、成熟期を迎える可能性がある」と危惧したうえで、EC市場の持続的な成長には個社のECサイトの伸長が不可欠だと主張する。


 「巨大プラットフォーマーによる市場の寡占と、取引・顧客データの独占という現状を打開する必要がある。日本政府も欧米に追従する形で、デジタルプラットフォーマーへの規制を強化している。これはEC市場全体の健全な成長促進につながるだろう」(佐藤氏)


●オンラインとオフラインの融合を意識したビジネス展開


 自社のECサイトを成長させるためには、佐藤氏はまず「ECを単なるチャネルの一つとして捉えるべきではない」と指摘する。


 「リアルの店舗A、店舗B、ECサイトという形で、ECをリアル店舗と並ぶチャネルの一つだと考えている企業は多くある。しかし、現代の実生活において消費者は、オンラインとオフラインの境界を意識せずに行動している。企業も、この融合を意識したビジネス展開が必要だ」


 例えば欧米では、ECで購入した商品の返品をリアル店舗で受け付け、来店頻度の向上につなげるスーパーマーケットチェーンや、自社ECのトップ出品者にリアル店舗での商品展示権を与える企業などが現れている。リアル店舗とオンラインがシームレスにつながっているのだ。


 日本企業も近年、実店舗とネット販売を連携させ、顧客により便利な買い物体験を提供しようとしているものの苦戦しているという。この原因について佐藤氏は「オンラインとオフラインの両方を経て商品が購入された場合、どちらの売り上げになるのか。この問題をクリアできないため、先に進めない企業が日本には多くある」と話す。


 欧米も同様の悩みを抱えているというが、日本企業との違いは「試行錯誤を重ねて改善を続けている点」だという。そのうえで「日本企業も議論だけで終わらせず、まずは行動し経験を積むことが重要だ」と強調した。


●マーケットプレースはさらなるEC発展のカギ


 佐藤氏は、実店舗とネット販売を連携させるオムニチャネル戦略の重要性とマーケットプレースの可能性について語る。


 「オムニチャネル戦略に、積極的に取り組むことで得られるのはデータだ。顧客の行動履歴を分析すれば、解像度の高い顧客理解が可能になる。またデータ分析によって、自社に求められているもの、不足しているものなど自社の課題を発見できる」


 こうした「データ収集」と「顧客ニーズへの対応」の精度を高めるのがマーケットプレースだ。マーケットプレースを構築すれば、出品者が出品している商品の購買データも含め、豊富なデータを全て自社で収集できる。これこそ、自社でマーケットプレースを運営する大きなメリットだといえよう。また、運営側としては在庫リスクを軽減しつつ、品ぞろえを拡大できる点も大きい。


 そして自前のマーケットプレースを成功させるポイントは、既存の巨大プラットフォーマーのように全ての商品をそろえるのではなく、“専門性”を高めることにあるという。


 「既存の方向性やブランド観を軸に、出品者や商品をキュレーションすることが大事。まずは自社の顧客に求められるところを押さえる。そしてマーケットプレースの専門性を高めていき、他のマーケットプレースにはない価値をつくることがポイントになる」


 こうして自社を中心に置いたECのエコシステムを築き、取り扱い商品やカテゴリーを拡大することで、集客力や販売力が強化される。


●ニトリは「住まい」から「暮らし」へ領域を拡大


 ニトリは今以上の事業価値を提供するため、“住まい”から“暮らし”へと領域を広げたマーケットプレースを構築することを決めた。


 「顧客の訪問頻度やLTV(顧客生涯価値)向上、そしてより多くのお客にロイヤルカスタマーになってほしいという狙いがあった」と、ニトリの導入目的を説明する佐藤氏。そこには巨大プラットフォーマーへの対抗という意思はなく、暮らしというカテゴリーにフォーカスしたという。


 家電やホームファッションなど、関連する出品者を集めることで、暮らしに必要なものを提供するサイトを目指し、そのカテゴリーにおいてトップを取ろうとしたのだ。


●日本にも、プラットフォーム技術の民主化を


 もし、狙い通りのマーケットプレースが構築できれば、顧客の訪問頻度や購買機会を増やし、より強固な関係構築が可能になる。そしてオフライン店舗を持つ企業なら、オムニチャネルや相互送客にも活用できるだろう。ビジネスの成長を支える強力な基盤となるのは、想像に難くない。


 最後に佐藤氏は、マーケットプレースの理想的な姿と自社の関わり方をこう語った。


 「単なる取引の場を越えて、企業とパートナーが協力して新しい価値を創造する『価値競争の場』として機能することが理想。当社は創業以来『プラットフォーム技術の民主化』を目指してきた。マーケットプレースのコア技術をSaaSとして提供することで、より効率的でコスト面に優れた支援をし、理想を実現する」


 海外では一企業が運営するマーケットプレースが大きく成長している。例えば、Walmartは強力な実店舗を持ちながら、自社マーケットプレースを10年かけて拡大し、Amazonに迫る存在になった。日本の消費者もマーケットプレースでの買い物には慣れているし、日本国内版Walmartが生まれる可能性は十分にあるといえる。


 マーケットプレースには、経済的リスクの軽減、顧客ニーズへの対応、セラーへの機会提供など、多くのメリットがある。これらを総合的に活用することで、“アマゾン頼り”から脱却し、日本のEC市場はさらなる成長を遂げられるかもしれない。



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  • 良い記事!����� ビバ アメリカーナ (カリフォルニア州ロサンゼルス在住) �����
    • イイネ!8
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