ドコモがahamoを30GBに増量した背景 前田社長が語る“3層料金戦略”とアップセルへの道筋

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2024年10月12日 06:11  ITmedia Mobile

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社長就任直後から、体感品質向上を目標に掲げている前田氏。Opensignalの「一貫した品質」部門で1位を目指す

 日本電信電話(NTT)は、9月30日に「NTT IR DAY」を開催した。その名の通り、証券会社などの機関投資家に向けた説明会だが、ここにドコモの代表取締役社長、前田義晃氏が登壇。コンシューマー向けの現状と今後に向けた成長戦略を語った。


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 ネットワークを強化し、その基盤を生かしてデータ使用量の大きなロイヤルユーザーを獲得し、ARPU(1ユーザーあたりの平均収入)の拡大と解約率の低減を目指すというのがドコモの考えだ。他社との獲得合戦に勝ち抜くため、量販店などでの端末販売も強化しているという。


 これらに加え、スマートライフ事業を進化させることで、収益の拡大を目指す方針だ。通信、非通信それぞれの施策を組み合わせることで、2027年度までにはARPUを増加に転じて、3500億円以上の増収を目指す。ここでは、その中身を解説していく。


●Sub6拡大でvRANも本格導入、海外ベンダーの基地局も積極採用に転換


 前田氏が真っ先に語ったのが、ネットワークの強化だ。ドコモは、コロナ禍明けのトラフィック増加に十分対応できず、一部エリアで極端に通信速度が低下する“パケ詰まり”に苦戦してきた。首都圏をはじめとした大都市圏では対策を行い、改善傾向は出ているものの、Opensignalをはじめとした各種調査では他社の後塵を拝している。


 こうした中、社長に就任した前田氏はネットワークの強化を優先課題に挙げ、自身も調査に加わるなどして対策を進めている。「お客様体感品質の向上を想起に実現し、通信品質ナンバーワンを実感していただけるキャリアになる」というのが、その目標だ。具体的には、上記のOpensignalの調査項目の1つである「一貫した品質」で、2024年度末までに1位を獲得することを目指す。


 その「プロセスとして、ネットワーク装置の高性能化とコスト効率化を同時に進める」というのが前田氏の考えだ。具体的には、まず5GのSub6エリアを拡大する。既に取り組みは実施しており、「重要な鉄道動線の1つである山手線沿線のスループットは、20%向上している」。また、首都圏のSub6エリアは2024年3月との比較で8月には110%に拡大。これを、年度末である2025年3月までに130%まで広げ、エリアの“穴”を埋めていく。


 前田氏は、「高速大容量化を進めるためにも、Sub6エリアは積極的に充実させる方針」だと語る。その過程で、ネットワーク装置も刷新していく。ドコモは富士通やNECなどの国内メーカーを中心とした基地局を採用してきたが、この方針を転換。「広く国内外のベンダーから、高性能で効率のいい最新装置を調達する。Sub6の新規拡大や5G初期の装置の置き換えのために、海外ベンダーも調達している」と明かす。


 さらに、2025年度からは、仮想化技術を採用した「vRAN」の本格導入を開始する。現時点での採用数はわずかだが、ここから徐々に既存の基地局を置き換える形でvRANを導入。最終的には、大半をvRANに移行させる方針だ。


 パケ詰まりが発生するエリアを特定し、改善につなげる動きも全社化しているとしながら、前田氏は次のように語る。


 「これまで、ネットワークはネットワーク部隊がどうきれいにしていくのかを考え、スマートライフで加盟店開拓をする部隊は、加盟店開拓を一生懸命やってきた。結果、何が起こっているかというと、せっかく獲得した加盟店で通信品質が悪くて(d払いなどのサービスが)使えない。ここを誰がやるかがエアポケットになっていたが、こういうのは最悪の話。(今は)どこがどう悪いのかを、ネットワークと一緒になって片っ端から調査している」


●若年層とミドル層の獲得を強化、ahamoは30GB化で解約を抑止


 ネットワークの強化で足腰を鍛えつつ、次のステップでは「顧客基盤の強化と収益拡大を実現する」。2027年度の目標は、3500億円を超える増収だ。「コンシューマー通信については、人口減少や2025年度のFOMA終了があるので一定程度下がるが、なるべく早く下げ止まらせていく」方針だ。顧客基盤の拡大とは、ユーザー獲得を意味する。今は「シェアの拡大に注力すべきとき」というのが、前田氏の考えだ。


 特にドコモとして重視しているのが、データ通信の使用量が多い若年層やその上のミドル層。この層は、「通信に加えてドコモのサービスを積極的に使っていただけるロイヤルユーザー」だからだ。2023年に導入したeximo、irumoと、オンライン専用プランのahamoを加えた「3層料金戦略」が功を奏し、第1四半期では純増数が3万に改善。そのうち、「8割は若年層、ミドル層」だったという。


 「販売人員の強化店舗では、4月からの比較で8月は50%ポートインが増加し、明らかな効果が出ている」とした。具体的には、「量販店で他社と同等以上に張り合うための人員増や施策店舗の拡大」といったことを行っていたという。前田氏は「全体として、人口は減少していてシェアも落ち続けているが、取られっぱなしだと先が見えない。そこはしっかり戦っていきたい」と語る。そのため、2024年度はユーザー獲得を優先しているという。


 若年層獲得の強化施策として、量販店を中心に「スキルフルな販売員を重点的に配備した」。これが、上記のポートイン増加に直結しているようだ。前田氏は「競争力のある価格で端末をご提供できるような施策をベースにしたうえで、このような施策を行うことで50%超のパフォーマンスが出てきている」と語る。


 一方で、ahamoを契約しているユーザーの解約率が他の料金プランのユーザーより高いのは、ドコモにとっての課題だった。前田氏も、「流出抑止には課題がある」と話す。その理由として挙げられていたのが、データ容量の不足だ。「ahamoユーザーの声を調査したところ、経年的な利用量の増加に対してデータ容量が不足していた」ことが見えてきた。


 10月にahamoのデータ容量を20GBから30GBに拡大したのは、その対策だ。ユーザーのデータ利用量は年々増加しており、ドコモも例外ではない。しかもその伸び率が、加速している。前田氏によると、2023年度は前年比で20%超の増加率だったのに対し、2024年度は8月時点で既に2割弱までデータ使用量が増加しているという。これがahamoの解約につながっていたというのが、前田氏の見立てだ。


 ただし、この仮説が外れていた場合は、第2、第3の手を打つ可能性もあるという。前田氏は「流出がどの程度改善していくのか次第で、仮にこれがもう少し進んでしまうのであれば、料金プランの見直しをタイムリーにしていく可能性はある」と語る。30GBへのデータ容量増加で、流出に歯止めがかかるのかは今後、注目しておきたいポイントといえる。


●金融、エンタメでアップセルを図る、スマートライフも大きく強化


 ahamoの解約率増加につながってしまったトラフィックの増加だが、同時にこれは、上位の料金プランへのアップセルを促す契機にもなる。上位のプランにユーザーが加入すればするほど、「ご利用料金が上がっていく」構造だ。そのため、低料金プランのirumoで獲得したユーザーを、ahamoやeximoといった上位プランに移行させていければ、収益増を達成しやすくなる。


 実際、旧料金プランのギガライトからeximoに移行するユーザーの割合が上がっており、「ARPUの上昇に貢献している」という。前田氏が示したデータでは、旧料金プランのユーザーのeximo選択率が直近では60%以上に拡大。eximo提供開始当初は47%だったため、10ポイント以上その割合が上がっている。「このストックがかなり大きく、残りの40%の方の中にはahamoに入る方も多い」。既存ユーザーの料金プラン変更が、ドコモのARPUを押し上げている格好だ。


 データ利用量を増加させる取り組みは、ドコモ自身でも展開している。その1つが、コンテンツサービスの料金に対し、dポイントを還元する「爆アゲセレクション」だ。これに加入したユーザーは、よりデータ利用量が増え、上位プランに契約する割合も増加するという。


 また、通信と金融の組み合わせでは、「ahamoポイ活」「eximoポイ活」も実績を出し始めているという。例えば、eximoポイ活は7割がeximoからの移行だった一方で、残りの3割はギガライトやahamo、irumoからのアップセルだ。ポイ活プラン全体の契約者はまだ20万を突破したところだが、dカードのショッピング利用額が増加するといった効果も確認されているという。ポイ活プランは、2024年度末までに100万契約を目指す方針で、ARPUの増加を加速させていく。


 こうした取り組みを通じて、第4四半期には「irumoのダウンセル効果をeximoのアップセル効果が上回る」計画だ。これによって、「今年度を底としてARPUを反転させ、4200円への回復をしっかりやりきる」という。


 通信事業を回復させつつ、成長領域のスマートライフはさらに進化させていく。例えば、エンターテイメント事業は「長らく配信を中心に取り組みを行ってきたが、映像コンテンツやフォーマット、アーティスト育成などのオリジナルIPを開発する」ことを通じて、3100億円規模の収入に成長させていく。


 より大きく拡大していくのが、金融事業だ。マネックス証券、オリックス・クレジットを傘下に収めたことで、「投資、融資、保険、口座と多様な金融サービスをご提供し、あらゆる金融をドコモにお任せいただく」ことを目指す。2027年度には、2024年度比で40%増の6300億円規模まで収入を拡大させる方針だ。


 決済やポイントの利用拡大は、マーケティングソリューションに磨きをかけることにもつながる。データの蓄積や送客の規模が大きくなるからだ。この事業も、成長領域として2027年度には2700億円規模まで売り上げを拡大していく。ARPUの拡大を掲げているとはいえ、人口が減少する中、通信料収入を大きく伸ばすのは難しい。その意味で、エンターテイメント、金融、マーケティングソリューションの3本柱をいかに伸ばしていけるかが、ドコモの今後を左右しそうだ。



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