ホンダは電気自動車に本気なのか? 最新技術を体験して考えた

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2024年10月15日 11:31  マイナビニュース

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ここへきて、いくつかの自動車メーカーが電気自動車(EV)の販売目標をトーンダウンさせている。「EV市場の成長は踊り場だ」といった言葉も頻繁に耳にするようになった。強気のEV戦略を掲げるホンダはどうするのか。将来のEV技術に関する説明会を取材した。


発売まであまり時間がない?



ホンダはEVの新たな商品群「0(ゼロ)シリーズ」の開発を進めている。今回は、0シリーズに投入予定の技術を一足早く体験する機会を得た。



0シリーズは2026年に北米で販売を開始し、その後は順次、世界市場への導入を進めていく。2030年までに7車種を投入する予定だ。技術の根幹をなすのは「Thin」(薄い)/「Light」(軽い)/「Wise」(賢い)という3つのキーワードである。



これらを象徴的に示すのが、第1弾としての市場投入を待つ「SALOON」(サルーン)というEV。車体全高が1.4mとスポーツカーのように背の低い乗用車だ。市販車の外観は、2024年3月にホンダが日本で展示したコンセプトモデルにほぼ近い姿になるという。0シリーズの新たなモデルは2025年1月の「CES」(米国ラスベガスで開催される電子機器の見本市)で公開予定だ。


一般に、米国で販売される2026年型の新車は、2025年9月に市場に登場するのが通例。そう考えると、サルーンは発売まで残り1年を切っていることになる。2025年9月の発売に向けた量産開始時期を想定すれば、2025年1月には量産車の開発が終了していなければならない計算だ。

0シリーズの技術を搭載した「アコード」に乗った!



「Honda 0 Tech MTG 2024」の開催はCESの3カ月前となる10月4日。技術紹介の内容がかなり具体的だったことは言うまでもない。



会場にはサルーンに搭載予定の技術を積んだ「アコード」(北米版の左ハンドル車)が用意されていて、試乗することができた。サルーンの車体寸法に合わせてオーバーフェンダーを装備した外観には迫力があった。室内は市販のアコードそのままだった。


EVなので当然だが、発進は滑らかで静か。試乗車の設定は、ワンペダル運転(アクセルを離すと完全停止までもっている)ができる状態だった。少しずつアクセルペダルを踏み込んでいったときの伸びやかな加速が上質だ。駆動用リチウムイオンバッテリーの重さがうまく効果を発揮していて、例えば英国のロールス・ロイスに乗っているかのような重厚さを感じた。空気バネを使ったエアサスペンションの働きも効いているのかもしれない。



サルーンが単に未来志向のEVというだけでなく、0シリーズのフラッグシップとしてホンダのEVを代表し、かつ牽引していく頂点のクルマであることが伝わってきた。



アクセルペダルを床近くまで深く踏み込むと、たちまち速度は試乗コースの上限である時速80kmを超えそうになる。ただ、その際の強烈な加速感に怖さはなく、どっしりと構えた様子で、タイヤが適切に路面をとらえているという安心感があった。


アクセルペダルを戻せば回生を使った減速が始まり、次のカーブの入り口までに的確に速度を落とすことができた。減速でも車体がブレるような不安定さはなく、盤石の構えである。



カーブを曲がっていくときの進路はハンドルを切り込んだ通りで的確。車体の傾きは少ない。上りカーブも下りカーブも余計な車体の変化はなく、いわゆる「フラットライド」と呼ばれる安定した走り方をする。運転者の操作に的確でありながら、怖いと思わせない信頼感があった。



この乗り味は相当に上質だ。早くサルーンのあの独創的な外観の車体で運転してみたくなった。

アルミを使う技術にホンダの知見が?



全高1.4mと聞くと車内が狭そうに思えるのだが、2024年3月のコンセプトカー公開の折に座ってみた感触としては、自然な姿勢で座ることができた。ホンダの言葉通り、床下の薄型バッテリーケースがいかに効果的かを想像させた。そのアルミ鋳造製バッテリーケースは、ホンダが開発した「メガキャスト」という6,000トン級の高圧鋳造技術に負うところが大きい。



いま、世界の自動車メーカーは、高圧鋳造のメガキャスト導入競争のさなかにある。



ホンダは早くから世界に先駆けてアルミシリンダーブロックをエンジンに採用した歴史を持ち、アルミの高圧鋳造技術には自負がある。サルーンでは一般的なEVで60点ほどといわれるバッテリーケース部品の数を5点にまで減らし、なおかつこれに薄型の水冷通路を組み合わせる技によって、低い床構造を実現しているそうだ。



ホンダはスポーツカーの「NSX」やハイブリッドカーの「インサイト」などで車体にアルミを使ってきた。アルミの扱いに深い知見を持つ自動車メーカーのひとつだと言える。それらの積み重ねがEV専用車種の薄型バッテリーケースにもいかされている。


賢さ(Wise)に通じる知能化の点では、キーを持たずに近づくと顔認証でドアを自動的に開けてくれたり、荷物を持っていればトランクリッドを先に自動で開けてくれたりといった機能が紹介された。ほかにも、自宅にいる知人と出先のドライブ体験を共有できる通信技術も搭載しているという。



自動運転関連では、「レジェンド」で世界に先駆けて自動運転レベル3の運転支援技術を市販した経験を基に、「ハンズフリー」(ハンドルから手を放す)に加え、視線を前方から横へ逸らしても安全に走行し続ける「アイズ・オフ」機能の導入も目指しているという。



こうした知能化には、歩行型ロボットである「アシモ」の知見を活用しているとのことだった。



1980年代の米国のTVドラマ『ナイトライダー』には、人工知能「KITT」(キット)を搭載したクルマが主人公の相棒として登場した。このクルマのように、運転すること自体も楽しめて自動運転もできる「未来のクルマ」に、0シリーズは近づこうとしているようだ。



今回の取材を通じて思ったのは、ホンダがEVに本気だということ。クルマを賢くする先端デジタル技術からEVを効率よく生産するための製造技術に至るまで、幅広い技術について話を聞いてみて、同社が0シリーズの開発から量産までの広範囲にわたり多くのリソース(資材)を投入していることが実感できたからだ。



ホンダの0シリーズは単に、EV専用車として独創的であったり優れていたりするだけでなく、21世紀のクルマに期待される新たな価値の創造へ向かっていることを実感した。



EV販売が踊り場であるかどうかといった目先の議論ではなく、21世紀にどんなクルマが私たちを快適に、そして楽しませてくれるのか、ホンダは真剣に考えているのだとわかった。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)

このニュースに関するつぶやき

  • EVがどんだけ危ないかは電動自転車を見ればわかる。安全で、軽くて、安いのを作るべき。それとさ、EVが何故、既存のクルマと全く同じデザインなの?EVなんだから、全く自由で独特のデザインでいいじゃん。アタマ堅すぎなんやで。
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