『ハリポタ』スタジオツアー東京の“クリスマス装飾”が楽しみすぎてロンドンまで行ってきた! 小道具を作る“秘密の工房”に大興奮<「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」裏側レポ>

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2024年10月16日 09:10  クランクイン!トレンド

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クランクイン!トレンド

スタジオツアー東京初の「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」ができるまでを取材しました ※写真左はスタジオツアー ロンドンのもの  クランクイン! Warner Bros.Studio Tour London ‐ The Making of Harry Potter.
 ワーナー ブラザース スタジオツアー東京‐メイキング・オブ・ハリー・ポッターは、11月9日(土)から2025年1月5日(日)までの期間限定で、クリスマスシーズン限定の特別企画「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」を開催。期間中は、劇中で何度も登場した「大広間」が『ハリー・ポッターと賢者の石』のクリスマス装飾に大変身するほか、「ホグワーツ城の模型」に雪化粧が施される。本場のワーナー ブラザース スタジオツアー ロンドンでも大人気で、日本上陸を首を長くして待っていたファンもいるほどの本企画は、約2ヵ月間しか見られないというレア感もポイント。しかもこの2ヵ月間のために、映画『ハリー・ポッター』シリーズのスタッフも携わり、手作業で小道具制作が行われている。今回クランクイン!トレンドは、イギリスのロンドンにある映画『ハリー・ポッター』シリーズの小道具制作ヘッドを務めるピエール・ボハナの工房を訪れた。場所は非公開のため、これからお見せするのは超貴重な光景。『ハリー・ポッターと賢者の石』の裏話を交えつつ、間もなくスタジオツアー東京に訪れる「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」のこだわりを聞いた。(取材・文=阿部桜子)

【写真】「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」の感動は、のどかな工房から生まれていた

■のどかな工房で制作

 6月某日。曇りが多いイギリスでは珍しい、初夏の日差しが降り注ぐ日に、ボハナの工房を訪れた。「君たちが太陽を連れてきてくれたんだね」とボハナは明るく出迎えてくれた。さらに取材陣に温かい紅茶とパンも出してくれて、到着するやいなやイギリスのおもてなし文化を感じさせられた。本工房は、イギリスの童話に出てきそうな、のどかな場所に位置しており、数人の職人が「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」のための小道具づくりの作業に取り掛かっていた。

 ボハナがこの場所に移り住んできたのは約4年前とつい最近。『ハリー・ポッター』や『ファンタスティック・ビースト』シリーズの撮影当時はスタジオツアー ロンドンの隣にあるリーブスデン・スタジオ内のワークショップで、スタジオツアー東京の仕事はラドレットにあるワーナー・ブラザースのアーカイブで作業をしていたという。ボハナがこれまでに『ハリー・ポッター』シリーズ以外で手掛けてきたのは、『ダークナイト』シリーズや『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』をはじめとする近年の『スター・ウォーズ』作品、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』『バービー』など大作だらけ。どこか1ヵ所に留まるのではなくワークショップを構えては移動するという働き方だったそうなのだが、「年齢を重ねるにつれ、より落ち着きたいと思ったのと、このようなミュージアム向けの仕事もだんだん増えてきたので、ここみたいな場所に落ち着く方がやりやすいんです」と笑いながら、工房への愛を語る。

■タイトな制作スケジュール

 「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」の話し合いが始まったのは、今年の頭ごろ。実際の作業時間は3ヵ月ほどで、その期間ですべての制作を終わらせなければならなかった。気が遠くなりそうな制作リストは以下の通り。

・ヤマウズラ 230個
・三日月(ボールとセット) 230個
・星 250個
・ポテト/グリーンピース/七面鳥/ハム 各12皿
・クリスマスケーキ 8個+それぞれ動作の違うケーキの上のスノーマン
・クリスマスプディング 8個
・サイズの異なる金色のトランク 57個
・クリスマスツリーの上を飛ぶ魔女 8個

 「全てをコンテナに入れて日本に向けて出荷するのですが、実はあまり時間がないのです。出荷し、税関を経て日本に到着するのには、制作期間とほぼ同じくらい、つまり3〜4ヵ月ほどかかりますので、気がついたらもうクリスマスが近いということになるのです(笑)。というわけで、スケジュールはかなりタイトで、開梱して準備するために間に合わせるには、7月には制作を完了してコンテナに積まなければなりません」とボハナは語る。限られた制作期間だが、工房内は走り回る人などおらず、じっくりと丁寧に職人たちが一つひとつの小道具と向き合っているから驚き。この集中力が見る者に感動を与えるセットを生み出す理由の1つなのかもしれない。

■20年以上の前の映画を再現するには?

 今回再現されるのは『ハリー・ポッターと賢者の石』のクリスマスだが、本作は第1作目ということもあり撮影当時はハプニングだらけだったとのこと。特に大変なのは食べ物。500人もの子役と俳優陣が大広間に集まる大規模な宴のシーンでは、本物の食事を用意して3週間かけて撮影される予定だったと言うが、早くも1週目で間違いに気付いたという。セットのニオイがあまりにもひどいものになってしまったからだ。大きな七面鳥を何度も並べて温め直すなど、食事を繰り返し使い続けていたので、大広間が学校の給食のキッチンのようなニオイに…。そこでボハナたちに食品サンプル制作の依頼が舞い込んできた。資金節約にもなる上、小道具チームも仕事がやりやすくなったそうで、結果的には良かったという。

 とはいえ『ハリー・ポッターと賢者の石』は20年以上前の作品。「過去のオリジナルと全く同じように復元する」を念頭に作業をしているというボハナのチームだが、今回東京で再現するにあたり、どのようなプロセスを踏んでいるのだろうか? 「記憶力がバツグンに良い人がいるのですか?」と冗談交じりに聞いてみると「わたしの記憶力はひどいものです(笑)」とボハナは笑いながら答えてくれた。

 「まずワーナー ブラザースにアーカイブがあるので、そこに保管されているもの全てを参考にします。オリジナルは少し異なる工程で作られましたが、大切なのは形が全く同じであること。自社のスキャンマシンがありますので、現物をスキャンして、デジタルのパターンを作りました。それを基にプロトタイプマシンで今回用にプロトタイプを作り、型を作って成型し、組み立てたのです。この工程は以前にもやっていますので、そのような手法でやることが多く、それによって全く同じ形となります」とデジタル技術を活用しながらの再現方法を明かす。撮影用のオリジナルのアイテムは一度使えば終了だったが、スタジオツアーで展示するものは長い年月、耐久できるようにということも念頭に作っているという。「これらがダメになってしまう頃、わたしは(肉体が滅びて)鳥の餌にでもなっていますよ」とボハナは再び笑った。

 工房にずらりと並ぶ食品サンプルたち。食欲をそそる見た目にする秘けつは「湿り気」にあるとボハナは言う。とはいえ日本のファンは“目が肥えている”環境で生活していると言い、日本でも認められるか少し心配そう。「日本のために食品サンプルを作るのはなかなか気が引けるものです。レストランのショーウィンドウにある食品サンプルは素晴らしい出来ですからね。皆さんの水準の半分ほどでいいから達成できていることを願うばかりです」と本音をこぼす。ただ未完成の段階でも、食品サンプルを見た取材陣のテンションが一気に上ったので、その心配は杞憂に終わりそうだ。

 もう1つ、日本ならではの演出もあるそうで、ポテトの一部が自由に動かせるようになっている。「くっつけてしまうと、全てが全く同じに見えてしまいますからね。そうすることによって少し変化をつけることができるんです。日本では誰もセットを触ったりしないので、こういうことができます」と明かした。

■職人たちがいい人すぎる

 今回の「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」は20人ほどで制作を進めているという。作業中の忙しい時間にもかかわらず、職人たちは手を止めて優しくインタビューに応じてくれた。

 まずは、デスクにくまモン柄のお酒を置いているアランさんを紹介。彼は、型から出した個々のアイテムを組み立てる前に準備するという作業を担当。この日はケーキの上にのせるスノーマンの準備をしていた。「表面を滑らかにしつつ、それぞれが少し違って見えるようにしています。各々異なる性格なので、表情が違います。鼻もまたそれぞれ微妙に違うのです。退屈そうにしているのや、後ろを振り返っているのなど、パーソナリティが異なります」とこだわりを明かす。作業時間は7時30分から17時30分まで。やりたいアイテムを選ぶのではなく、テーブルにやってきた小道具にひたすら向き合う仕事だ。ピエールは「これはやりたくないとは言わせないのです」とまた笑った。とにかく工房の雰囲気がずっと良い。

 冗談を交えながらもピエールは「小道具作りのいいところは、仕上げの作業なのですが、そこに行くまでにはさまざまなことをやらなければなりません。それは人生の全てにも言えることで、地味な側面とワクワクする側面があるものです。全ての工程をやらなくてはならないのです」と小道具制作の仕事の深さも語る。

 それから女性のスタッフにも話を聞いた。彼女はクリスマスツリーに飾るヤマウズラ230個を担当中。「(わたしの作業は)カフスを付けて、その周りに印をつけ、両面にヤスリをかけて完璧になるようにすることです。それから接着剤を使い、金箔を貼り付けていきます。羽もその上に乗せ、先端にティンセルの尾もつけますし、模様もつけて素晴らしいものとなります」と話す。230個は他の人と分担で作業。互いに忙しい時は互いの作業を手伝うそうで、各々が集中して作業に取り掛かっているが、全体を見たチームワークも必要な仕事のようだ。加えて「試行錯誤を繰り返し、失敗を何度も経験してうまくいくようになるのです。スタジオツアーが映画の時と全く同じであることが重要なのですが、スタジオツアー東京でも完璧なものでなくてはなりません」と小道具一つひとつへの熱意を明かす。

 そしてこれらの小道具たちは、スタジオツアー東京で組み立ての作業に入る。「部品は全て作りますが、地元のチームがツリーを制作しますので、そのツリーに各アイテムが飾られます。“ドレス”と呼ばれる工程で、全てのアイテムを大広間で組み立てていくのです。かなり大勢のチームですね。これはロージーに聞いていただければと思いますが、数十人のチームがドレスを手掛けるはずです」とボハナは言う。ロージーというのは、スタジオツアー ロンドンとスタジオツアー東京のセットデコレーターを務めるロージー・グッドウィン。ということで、ボハナの工房を離れ、スタジオツアー ロンドンにも行ってみた!

■スタジオツアー東京ではココを見て!

 スタジオツアー ロンドンで話を聞いたグッドウィンは、映画『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』からセットデコレーターを担当し、現在はロンドンと東京のスタジオツアーのセットデコレーターを務めている人物。大学でアートとデザインの学位を取得したものの、卒業したての頃は映画業界はさっぱりだったそう。ところが友人から「この人に連絡を取ったらいい」と教えられた人に履歴書を送ると電話があり、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』で使用する三代魔法学校対抗試合のバナーを作ってほしいと依頼があったのだという。なんという強運。それから次の制作物のため「もう少し長くいて」と言われ、結局映画の制作期間のほとんどで仕事をすることに。さまざまな部署を転々としたと言い、「美術とセット装飾部門がいかに小道具部門その他全ての部門と連携しているのかを目の当たりにすることができ、素晴らしい学びの機会だったのです」と懐かしそうにグッドウィンは話す。加えて、2013年に亡くなった、シリーズ全作を手掛けたセットデコレーターのステファニー・マクミランさんともこの仕事を通して出会えたと言い、「彼女は人としても素晴らしく、われわれはこのスタジオツアーの仕事を通して彼女の作品に敬意を表しているのです。これは彼女の遺産です」と思いを語った。

 ボハナたちが小道具制作を手掛けるのに対し、セットデコレーターの部門は必要なもの全てを確認した上でかなり長いリストを作り、何を作るのか、何を購入するか、何を外注して作ってもらうのかを判断する。ボハナたちに制作を依頼するだけでなく、チームでアンティーク・フェアやマーケット、オークションなどにも足を運ぶのだそうだ。仕事を始めた頃は「品数がこんなにある中から一体どうやって選んだら良いのだろう」と悩むこともあったそうなのだが、「セットに何が必要なのかを理解するようになると、引き寄せられるものなのです。まるで物に話しかけられているかのような感覚というのは不思議なものですね。『自分は大切な存在で、あなたは私を必要としているでしょ』なんてね」と話す。

 今回スタジオツアー東京に初上陸する、『ハリー・ポッターと賢者の石』の大広間のクリスマス装飾は、伝統的なイギリスのクリスマスと魔法界の世界観が融合するように作られている。注目すべきポイントは、とにかくビッグサイズなところ。「全てがとにかく大きく、分量も多いのです。ポテトも山盛りになっていますが、それこそがホグワーツの魔法的なところです。全てが温かくほっこりして、特別感があり、それでいて装飾にひねりを加え、少し大きくなっています」と話す。とはいえ「大きすぎても小さすぎてもいけません」と、全体のバランスの難しさも語る。わずか2mmですべてが変わることがあるそうで、セットデザインは小道具単体のクオリティーと全体のバランスの2つの完璧を追及しなければならない。またもや気が遠くなりそうな作業だ。

 ところでグッドウィンの小道具のお気に入りはクラッカーやプレゼントとのこと。「映画でクラッカーを作った時も、実は中におもちゃが入っていて、振るとカサカサと音がしていたのです」と裏話を交えつつ、「われわれの仕事の一部は、ディテールを全て与えるのではなく、『このプレゼントの中には何が入っているのだろう』と、少し想像してもらう機会を与えることだと思っています。リアリティー全てを提示するのではない。そういう要素を紹介し、想像してもらう機会を提供するというのがいいのです」と話す。セットデコレーターの仕事は奥が深い。

 ところでグッドウィンの小道具のお気に入りはクラッカーやプレゼントとのこと。「映画でクラッカーを作った時も、実は中におもちゃが入っていて、振るとカサカサと音がしていたのです」と裏話を交えつつ、「われわれの仕事の一部は、ディテールを全て与えるのではなく、『このプレゼントの中には何が入っているのだろう』と、少し想像してもらう機会を与えることだと思っています。リアリティー全てを提示するのではない。そういう要素を紹介し、想像してもらう機会を提供するというのがいいのです」と話す。セットデコレーターの仕事は奥が深い。

 『ハリー・ポッター』や『ファンタスティック・ビースト』シリーズは何度も見返している人も多いと思うが、ディティールに注目することで第1作目から20年以上経った今でも新たな気付きや発見が得られる。『ハリー・ポッターと賢者の石』のクリスマスと言えば、ハリー・ポッターにとっても初めての大切なクリスマスだ。あの時ハリーが味わった感動が、いよいよ日本でも同じように体感できるようになる。さまざまなプロフェッショナルの仕事が詰まった大広間の光景は、思わず息を呑むことだろう。イギリスから何人もの思いを乗せた「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」は間もなく東京にやってくる。 ※ワーナー ブラザース スタジオツアー東京のチケットは公式ホームページにて、事前に購入する必要あり。

【「ホグワーツ・イン・ザ・スノー」概要】
日程:11月9日(土)〜2025年1月5日(日)
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