“あえての”コースオフ。勝田貴元がチリ大会のスキップから身に着けた冷静さ/WRC第12戦

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2024年10月23日 14:00  AUTOSPORT web

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2024年WRC第12戦セントラル・ヨーロピアン・ラリー 勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)
 10月17日(木)から20日(日)にかけて、ドイツ、チェコ、オーストリアを舞台に行われた2024年WRC第12戦『セントラル・ヨーロピアン・ラリー』。前戦『ラリー・チリ・ビオビオ』をチーム判断でスキップしたTOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチームの勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は、復帰戦となった今大会で総合4位フィニッシュを果たし、今季セカンドベストの成績を収めた。

 大会を終えた勝田は、チームのラインアップから外れることになった際の心境や、カムバックへのプレッシャーなど、初めて味わういろいろな感覚をマネジメントしつつ挑んだ第12戦について、日本のメディア向けに実施したオンライン取材会にて語った。

■「チームの主要人物からコンタクトがあった」

 まずは、チリ戦への不参加が決まった時の心境について聞く。

「もちろん、それが決まった時点でふてくされるようなことはなかったです。こうして与えられた時間を、自分がどういったかたちで使うかを考えました」

 チームの決定に対し、ネガティブな感情ではなく、仲間からの声や復帰までの時間の有効活用によって、この期間をポジティブに過ごすことができたようだ。

「エンジニアやドライバーたちもふくめて、いろいろなチームの主要人物からコンタクトがありました」

「その時には自分がより強く戻って来るために、さまざまなアドバイスやプラン作戦を聞くことができました」

「これまで、大会とテストを次々にこなしていくなかで、ほとんど時間がなかったので、そういったことをゆっくり考えるいい時間を過ごせたなと思っています」

 勝田は有意義なひとときの休暇を過ごせたと述べる一方、勝田は初めての“復帰戦”に対して、特別なプレッシャーも感じていたのだという。

「スキップした後に戻ってくる経験は、自分でも初めてのことでした。例えば、ここでクラッシュをしてしまった場合には、もちろん今よりも悪い状況になってしまいます」

「いつもはないような変なプレッシャーも結構感じて、思った以上に大変でしたけど、何とかそれもマネジメントしながらクルマを最後まで運ぶことができたかなと思います」

■課題のリスク管理で見せた成長

 そんななかで迎えた第12戦は、タイトル争いの真っただ中。勝田は、そのサポート役となる3台目としてラリープランを練って挑んだ。

 具体的には、直接のライバルであるヒョンデ陣営に対し、ドライバーズタイトルを狙っている僚友セバスチャン・オジエとエルフィン・エバンスのサポートに回ることがターゲットとなる。

 勝田はその計画通り、自身のペースコントロールに終始する走りを続け、王者への可能性を残す4台の後ろをつねにキープする戦いを見せた。そのなかでも、霧雨のなか行われたスペシャルステージ(SS)11にて、その冷静さが現われたシーンがあった。

「1カ所、ブレーキングがタイトなヘアピンで、グラベルクルーからの情報が抜けているところがありました。自信を持ってブレーキングしたのですが、その区間の路面に砂が多く出ていて、そこに乗りました」

「実際は、ギリギリコーナーをクリアすることができたかなとも思うのですが、無理に走ってスピンをするよりは、あえてオーバーシュートして戻ってこようと考えて、奥の開けた敷地を走ってコースに戻りました」

 これまで、速さはありながらもクラッシュで後退してしまう場面も見られた勝田だったが、課題のリスク管理の面で守りの走りが活きた4位完走だったと言えるだろう。

 そのほかにも、ステージ終了時のインタビューでも「Nothing special.(特別なことは何もなかったよ)」というコメントも多く、あくせくしてリズムが崩れてしまうような不安感は少しも感じさせない、冷静な走りでのカムバックとなった。

■最終日に突然の大役。ラリージャパンは「勝つしかない」

 しかし、最終日3本目のSS17、オジエがクラッシュを喫したことで勝田を取り巻く状況は一変。土曜日を暫定首位で終えていたオジエが確保していた18ポイントが消滅してしまい、勝田は日曜日の最大獲得ポイントをチームに持ち帰るミッションが課せられた。

「最終日に向けては、チームから『プッシュしていいよ』という話がありながらも、上位勢の動きを見ながら攻めていました」

「ただ、セブ(セバスチャン・オジエ)がクラッシュしてしまったことでチームが危機的状況になってしまったので、フルアタックでポイントをできる限り稼ぐ作戦に切り替えなければなりませんでした」

 それでも、ギヤを上げる要請にたくましく応えた勝田は、同じく3台目出走として最速を狙ってきたヒョンデのアンドレアス・ミケルセンを破るステージウインを飾り、日曜の最大ポイントをチームに持ち帰った。

「最後は、良いクルマのパフォーマンスを発揮して走ることができて、スーパーサンデーとパワーステージでともにトップタイムで終われました。自分のフィーリングとしても、すごく気持ちよく走れましたね」

「まさかの展開にはなってしまいましたが、チームの一員として最低限の仕事ができたと思います。そして、ラリージャパンに向けての準備ができた良いラリーだったかなとも思えています」

 チームのヤリ-マティ・ラトバラ代表も、「必要な時には慎重に走って自信をつけ、日曜日はごく自然にパフォーマンスを発揮してくれた」と、安定した今回の走りを評価している。

 そして残るラリーは、ホームラウンドとなるラリージャパン。多くのファンからも声援が集まるこの大一番に向けて、力強く意気込んだ。

「マニュファクチャラータイトルを争っているなかで、かなり不利ではあるにしろもう僕たちは勝つしかない状況です。トヨタ対ヒョンデが、どういった戦いをしていくのかをすごく注目してほしいですね」

「そして僕個人の目標としては、日本人が日本のホームラリーで優勝すること。それが多くのファンもチームも含めて、みんなが願っている大きな目標でもあるので、自分のポテンシャルを発揮した上で、最後に結果を持ち帰れるように頑張ります」

 昨年のラリージャパンでは、フルデイ初日でのタイムロス後に怒涛の追い上げを見せ、総合5位入賞を果たした勝田。今季は、ホームラリーでのベストリザルトを更新する走りで、マニュファクチャラー選手権争いの支えとなる活躍を見せることができるだろうか。

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