トヨタらが関心示す水素クラスの規則作成は「まだ始まったばかり」。順調にいけば2028年から導入

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2024年10月23日 19:00  AUTOSPORT web

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アルピーヌ・アルペングローHy6に搭載される3.5リットルV型6気筒ツインターボ水素エンジン
 FIA国際自動車連盟のチーフテクニカルディレクターであるザビエル・メステラン・ピノンは、WEC世界耐久選手権が将来の導入を目指している水素カテゴリーについて、技術規則の作成プロセスはまだ「ごく初期」の段階であることを認めた。

 三度の延期ののち、この2024年にアナウンスされた水素レースのさらなる延期の後、WECは2028年から総合優勝を争う水素自動車の受け入れを開始する予定でだ。既存のメーカーの中ではトヨタ、アルピーヌ、BMWがこのクラスへの関心を示している。

 グローバル・モータースポーツの統括団体であるFIAは、WECを共同運営するACOフランス西部自動車クラブとともに、今年初めに水素カテゴリーのレギュレーション範囲を拡大し、液体のかたちで水素を貯蔵する方式を含める決定を下した。

 ACOのピエール・フィヨン会長は、新しいクラスのレギュレーション草案が年末までに各チームに提供されることを期待していると述べた。

 しかしメステラン・ピノンはSportscar365の取材に対し、FIAはまずWECのためだけに動くのではなく、傘下のすべてのチャンピオンシップで使用される水素動力の一般的な枠組みを確立しようとしており、ルールの進展は限られていると認めた。

「私たちは水素の使用に関する一般的な規制について、すべての安全ガイドラインを含めて取り組んでいる」とメステラン・ピノンは述べた。「これらの規制はすべてのチャンピオンシップで使用されることになるが、最初に適用されるのはWECだ」

「我々はすでに将来の(テクニカル)レギュレーションの作成に取り組んでいるが、それはまだ始まったばかりだ。貯蔵システム用の液体としての水素に基づく一般的な規制はまだ確定していない」

「私たちは2024年の初めに(液体水素を含めることを)決定した。もちろん、やらなければならないことはたくさんある。私たちはすでに世界モータースポーツ評議会(WMSC)に草案を提案しており、年末までには液体水素の貯蔵に関する最初のレギュレーションを発表する予定だ」

 ACOの技術責任者であるティエリー・ブーベは、「タンクはどのくらいの大きさでなければならないのか、燃料はどれほどの圧力で貯蔵されるのか、これらのことはルールに入る前に知っておく必要がある」と付け加えた。

 メステラン・ピノンは2028年の水素自動車のWECデビューが「現在の目標」であることに変わりはないと強調し、水素自動車は最初のシーズンに限られた数のイベント、おそらく2、3のレースに出場できる可能性が高いと示唆したフィヨン会長のコメントに同調した。

 現行世代のLMH(ル・マン・ハイパーカー)とLMDh(ル・マン・デイトナ・h)カーのホモロゲーションは2029年まで延長されており、後者のカテゴリーでこれ以上の延長がないと仮定すると、水素カーと2年間の重複が生じる。

 2029年以降の非水素自動車にどのような未来があるのかという質問に対してメステラン・ピノンは、スポーツカーレースの最上位クラスのグリッドを健全な状態に保つために、従来の内燃エンジンに対する新しいルールが策定される可能性を示唆した。

「5年後に水素自動車が何台あるか分からない」と同氏は述べる。「バイオ燃料を使用する他のICE(内燃機関)レギュレーションが必要かどうかを知るには、まだ時期尚早だ」

 さらに、ACOのブーベは「性能と安全性に関しては、やらなければならない研究がたくさんある。しかし、それらの研究をせずに今どのようにバランスを取るべきかは言えない」と付け加えた。「何をすべきか、どのようにすべきかを見極める必要があるんだ」

■トヨタに倣い液体水素を採用

 WECの水素クラスへの参加を確約したわけではないが、トヨタ/TGRは水素燃焼技術を積極的に支持しており、2021年に日本のスーパー耐久シリーズにデビューしたGRカローラH2コンセプトで、他社に先駆けて水素燃焼技術をレースの世界に持ち込んだ。

 このクルマは当初、気体状態の水素を燃料として走行していたが、2023年に液体水素に切り替え航続距離を大幅に向上させることに成功している。。

 FIAはWECの将来の規制を策定する取り組みにおいて、気体よりも液体状態で水素を貯蔵することを優先しトヨタの取り組みに追随した。ただし2月の発表では暫定的に気体ベースのソリューションの使用を認めるとしていた。

■水素エンジン車と燃料電池車のバランスをどう取るか

 FIAは最近、液体水素に焦点を当てているが、2028年のルールでは燃料電池の使用も認められており、ACOの社内プログラムである“ミッションH24”はこのテクノロジーに基づいている。

 またBMWは環境上の理由から水素エンジンよりも燃料電池技術を優先すると明言しており、すでに燃料電池を搭載したロードカーをラインアップの一部に加えている。

 ガソリンの代わりに水素を内燃機関の燃料に用いる水素エンジンと、水素と酸素を化学反応させて作りだした電気を動力とする燃料電池車(FCVもしくはFCEV)。このふたつのアプローチの違いについてメステラン・ピノンは、モータースポーツで燃料電池を使用するためのハードルが依然としてかなり高いことを認識しており、ルールメーカーによって両方のソリューションが同等のレベルに調整される可能性を排除しなかった。

「それはまだ決まっていない」と同氏は言う。「効率の話をすると、水素エンジンのほうが良いようだ」

「燃料電池はよりクリーンな水素を必要とし、EV(電気自動車)のすべての部品、バッテリーやモーターを必要とするため、はるかに複雑になる」

「また、燃料電池を冷却する必要があり、そのためには大きなラジエーターも必要だ。ただ、高出力を必要としないロードカーにはは適しているようだね」

「(モータースポーツでの)問題は、テクノロジーのバランスをとる必要があるのか、それとも単に最良のテクノロジーを勝たせる必要があるのかということだ」

 ブーベは、最終的に勝者となる技術がもっとも多くのメーカーの支持を集めることになるだろうと述べた。「それはOEMによって推進されるだろう」

 新しい規則下でのクルマのデザインについて、水素燃料タンクのスペース要件から2028年の規制では従来のふたり乗りスポーツカーから離れ、ドライバーの着座位置が中央にあるひとり乗りのクローズドコクピット・デザインが採用されるのではないかとの見方が出ている。

 メステラン・ピノンはこの話題について質問された際、明確な回答はしなかったが、安全上の要求によって新しいルールがその方向に進む可能性を否定しなかった。

「あくまで個人的な意見だが、ひとり乗り(1座)のほうが安全性が高いのであれば、そのほうがいいのではないかと思う」

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