『海に眠るダイヤモンド』一人二役の神木隆之介、“別人ぶり”のうまさに驚き ミステリー要素にも引き込まれた初回

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2024年10月27日 10:11  クランクイン!

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日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第1話より (C)TBSスパークル/TBS
 神木隆之介がTBS「日曜劇場」初主演を務める注目作『海に眠るダイヤモンド』がスタートした。1955年、石炭産業で躍進した長崎県の通称・軍艦島こと端島と、現代を結ぶ壮大な物語だ。脚本・野木亜紀子、メイン演出・塚原あゆ子、プロデューサー・新井順子という『アンナチュラル』『MIU404』、映画『ラストマイル』のヒットメーカーチームのタッグでも早くから注目を集めたが、その期待に十二分に応える初回放送だった。

【写真】一人二役・神木隆之介の“別人ぶり” 『海に眠るダイヤモンド』第1話場面カット

■現在は廃墟の端島が、みるみる色づいていく映像マジックに鳥肌

「人生、変えたくないか? ここから変えたくないか」。

 終盤、1955年の長崎県・端島で、島に誇りを持つまっすぐな青年の鉄平(神木)が、謎多き歌手・リナ(池田エライザ)に、そう投げかけた。その直後、舞台は2018年の東京へと切り替わり、今度は謎の婦人・いづみ(宮本信子)が、夢も希望もやる気もなく生きるホストの玲央(神木・二役)に、同じ言葉を投げかけた。

 本編は、幼子を抱え逃げるように小舟に乗って島をあとにする、1965年のリナの姿を印象付けたあと、現代の東京編から始まった。歌舞伎町でホストをしていた玲央は、突然、見ず知らずの婦人・いづみから「わたしと結婚しない?」と声をかけられる。都合のいい太客だと思った玲央は、いづみの誘いのままに、長崎を訪れる。だが、フェリーから端島の姿を捉えたいづみは、泣き崩れてしまう。あとに続いた、端島を見つめて船上を歩く玲央の姿は、十字架を意識せざるをえないショットになっていた。

 そして物語はもうひとつの舞台、1955年の端島へ。フェリーに乗っていた玲央は、一瞬で鉄平へと姿を変えた。廃墟だった端島が、みるみる色づいていく。活気ある島。これまで資料で見てきただけの、階段や坂道、コンクリート住宅が蘇り、人々の声、生活音が響く。息づく町が、現出するさまに鳥肌が立った。映画音楽の巨匠、佐藤直紀の手掛ける音楽も本作の世界観を盛り上げている。

 4000人以上が狭い島でひしめき合って暮らす端島は、島民の8割が炭鉱夫とその家族だ。鉄平の父・一平(國村隼)や兄の進平(斎藤工)も炭鉱夫。鉄平は、幼なじみの百合子(土屋太鳳)や賢将(清水尋也)とともに長崎の大学を卒業し、同じく幼なじみの朝子(杉咲花)らの待つ島へと帰ってきた。同じころ、歌手だというリナが島に降り立ったことで、若者たちの物語が動き始める。

 彼らの青春譚や、鉄平の父や兄を中心とした炭鉱夫たちの物語も早くも先を期待させ、一瞬、端島パートだけで十分では?と思いそうになってしまったが、野木×塚原×新井の強力チームには、2つの時代(そして職業)を描いてこそ、伝えたいメッセージがあるに違いないのである。

■「いづみさんは、誰の現代の姿?」ミステリー要素を含んでいるのもマル


 そもそも2つの時代を描き、多くの登場人物や歴史的な情報もある端島を舞台に置きながら、すっと物語が入ってくるのがすごい。そして初のひとり二役となった神木の巧(うま)さ。

 希望や活気あふれ、しかし死や差別、産業の転換の足音も実は近くに聞こえはじめている端島で、故郷を愛し、青春に揺れる鉄平と、人ごみのなかでも孤独に満ちた東京に住み、どこか閉塞感漂う現代で夢も希望も誇りもなく生きる玲央。

 神木の演技力は、かねて皆の知るところだが、今回、主人公として、それぞれの異なる時代に、何度もスイッチして登場するという非常に難しい挑戦をしている。これが声質からまったく違う別人になっていて、本当に驚いた。特に玲央の声は本気で「え、これ誰がしゃべっているの?」となった。それも無理に出している感じがまったくしない。

 連ドラとしては、「いづみさんは、誰の現代の姿なの?」「玲央は鉄平とどんなつながりがあるの?」といったミステリー要素を含んでいるのも、エンタメとして非常に効いている。

 同時に、高度経済成長期の昭和と、現代の2つの時代を描くというが、なぜ2024年ではなく、2018年なのか。この数年で、人との距離感や価値観、経済状況も、また大きく変わった。

「人生、変えたくないか? “ここ”から変えたくないか」。

 この言葉は、1955年から、2018年から、2024年の今にも投げかけられているのかもしれない。ただ、ここから変えていくという希望と同時に、石炭業に未来がないことも、私たちは知っており、冒頭のいづみのモノローグにも悲しさが漂った。これからさまざまに心を揺さぶってくれるに違いない本作だが、すでに初回からつかまれている。(文:望月ふみ)
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