タイGPの初日を終えたファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチーム)は、「今日はあまりポジティブではなかった」と、この日を振り返った。
確かに、午後のプラクティスでは12番手でQ2へのダイレクト進出を逃している。しかし、10番手のヨハン・ザルコ(カストロール・ホンダLCR)との差は、わずか0.074秒であることを考えれば、ひどく悪いタイムでもないはずだ。ただ、クアルタラロはいわゆる「一発のタイム」に不満を持っている。ペースは悪くないが、「アタックではかなりグリップが欠けている」と言うのである。
「ペースは彼ら(上位)に近いんだけど、それはすっごく頑張って攻めているからなんだ。タイヤが振られるくらいにね」
「いつものことなんだけど、グリップは最終コーナーから1、3、4コーナーといった低速コーナーで問題なんだ。リヤの接地感が明らかに欠けている。特に1周のタイムアタックでね」
「最も大きな問題の一つは、バイクがひどく動くってことなんだ。ピッチングがひどい」と、クアルタラロは説明している。
「フロントタイヤだけでブレーキングしている。リヤタイヤは止まる助けにはならない。これが改善すべき一つのポイントなんだ。リヤタイヤが浮くということは、タイムロスになるんだからね」
確かに、最終コーナーでのブレーキングで、クアルタラロはリヤの挙動を乱し、リヤタイヤを浮かせてブレーキングして最終コーナーに侵入していた。こうした挙動は、例えばドゥカティのフランチェスコ・バニャイアなどにはもちろん見られない。とはいえ、そうした不利を抱えながらも、クアルタラロは、そのセッション(フリープラクティス2)では6番手タイムをたたき出しているのである。
さらに、クアルタラロはQ1をトップで突破し、Q2に進出した。Q1でのタイムは1分29秒406。そしてQ2の自己ベストは1分29秒408で、Q2では6番手だった。6番グリッドは、今季の自己ベストグリッドタイ(1度目はインドネシアGP)である。この1分29秒406、あるいは1分29秒408が、今のヤマハとクアルタラロというパッケージで記録できるベストだったのだろう。クアルタラロは、予選についてこう述べている。
「僕は、本当に限界まで攻めていたと思う。1分29秒4でQ2に行ったけど、これが限界ラインだった。正直言って、もう“バイクに”攻められる余地はなかった」
ヤマハはブレーキングでリヤタイヤを使えない状況だが、それでもそのブレーキングでタイムを詰めている、とクアルタラロは説明している。
「僕は本当に限界までフロントを使っている。ここがまさに差をつけるポイントだ。フロントだけでブレーキングをかけていてリヤにはグリップがないんだけど、幸い、僕たちのバイクにはフロントの限界を感じとれるポイントがあるんだ」
一方、クアルタラロのペースは悪くないものだった。スプリントレースでは1周目にブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリーレーシング)の、クアルタラロ曰く「アグレッシブな」オーバーテイクによって、7番手から11番手にまで後退したが、レース中盤から後半にかけてのペースは、5番手、6番手のライダーに近いものだった。クアルタラロは、スプリントレースを10位で終えている。
「僕たちのペースは、前を走るライダーよりも速かったと思う。ただ、もちろん、(マルコ・)ベツェッキと(ファビオ・)ディ・ジャンアントニオに追いついて、オーバーテイクするのはちょっと難しかった。でも少なくとも、かなり楽しんだよ」
ウエットコンディションで行われた決勝レースでは、5番手を走行中に8コーナーでオーバーテイクを仕掛けてきたフランコ・モルビデリ(プリマ・プラマック・レーシング)と接触して転倒。再びレースに加わって、16位だった。ウエットコンディションであり、また、転倒してマシンにダメージを抱えた状態ではあったが、ここでもクアルタラロは、ペースはよかった、と述べている。
「転倒のあと、ウイングを失い、ステアリングが制限され、リヤブレーキもなかった。フットペダルが半分にかけてしまった。そういう状態だったけど、それでもペースはよかったんだ。それはとてもポジティブな点だったと思うよ」
少なくともタイGPの状況を勘案すれば、ヤマハの、クアルタラロの今の課題は、予選のようなアタックラップだが、ペースのよさはある、という状況だ。まだ全てのサーキットで一貫して安定しているわけではないが、シーズン終盤に入って、ヤマハの向上は確かに見受けられる。