2007年より日本の芸能界で活動している森崎ウィンさん(34歳)。
歌手としても俳優としても活躍し、今年は、初監督を務めたミュージカル短編映画『せん(SEN)』が、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2024ジョージ・ルーカスアワードのグランプリを受賞するなど、さらに多彩な才能を見せています。
現在は、堂本剛さんが27年ぶりに単独主演を務めた映画『まる』にて、堂本さん演じる沢田が出会う、ミャンマー人のモーを演じています。ミャンマー出身で、小学生のころ日本に移り住んだ森崎さんに、本作と向き合い感じたことを聞きました。また、『せん(SEN)』で初監督を務めたことで、新しく見えてきた景色や、胸に抱き続ける願いについても聞きました。
◆外国人のコンビニ店員が「モーくん」になったのは「僕からの提案」
――アトリエのアシスタント職をクビになった沢田が、アルバイトを始めたことで出会うコンビニ店員のモーを演じました。荻上直子監督(『かもめ食堂』『波紋』)からは、はじめにどんなお話があったのでしょう。
森崎ウィンさん(以下、森崎):普段から監督が、コンビニで働く外国人のみなさんをよく目にするそうなんです。しかも最近とても増えたと。外国で外国人が働いて、いいことだけでなく、きっと嫌なこともあるだろうけど、いろんなことを乗り越えて、自分の目標や目的のためにグッと堪えて、福徳円満(福も徳も欠けることなく満ち足りている様)に向けて突き進んでいるように見える。すごく前向きな気持ちを感じると。
僕の演じるモーくんには、とにかくピュアでいてほしいと言われました。外国から来たという意味では、僕自身経験がありますし。
――モーがミャンマー人なのは、最初から決まっていたことですか?
森崎:森崎くんがやるのであればミャンマー人でと。あて書きというわけではないんですけど、僕に寄せてくださった部分もあって、「モー」という名前も、僕から提案させていただいたんです。
――そうなんですね!
森崎:ミャンマー人に多い名前だし、「モー」は“雨”を指すミャンマー語なんです。物語にも“雨”が登場するので、いいかなと。
◆自分は何に対して幸せを感じるんだろうと自問自答
――“雨”の意と知ると、沢田との最後のやり取りがより響きます。今回の、ひょんなことから人気アーティストになってしまう沢田の物語から、森崎さん自身はどんなことを感じましたか?
森崎:人間は、自分が思い描いているものや、やりたいことと、求められていることが違ったりします。そのジレンマの中で何に対して幸せを感じるべきなのか。いろんなものに対する見方をその都度変えながら、自分のマインドチェンジをできるのかを問われているような気がしました。
同時に、「これを得たい」という強い気持ちがあるならば、それを捨ててまでチェンジしていくのか。それは、自分自身を捨てることにもなるんじゃないか、それでもいいのか。そう問われているような作品でもあるなと。
――難しいですね。
森崎:何に対して自分は幸せを感じるんだろう、感じるべきなんだろうかと、問い直す瞬間だったと思います。それは沢田さんからだけじゃなく、モーくんを演じたことでも感じました。きっとモーくんが今の僕の立場を観たら、「全て揃ってるじゃん。いいじゃん」と思うだろうけれど、僕は今の自分に満足していないし、まだ見たい景色があって、もっと行きたい場所がある。
そして、そう思うことは悪いことじゃなくて、ここに来るために、もっと先に行くために、目指してきた自分がいるんだということを忘れちゃいけない気がする。そんなことも、今回の映画で学びました。
◆短編映画の監督として映画祭でグランプリ受賞
――今回は“まる”でしたが、今年は監督として、ミュージカル短編映画『せん(SEN)』で、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2024ジョージ・ルーカスアワードのグランプリを受賞しました。“せん”から“まる”への1年ですね。
森崎:たしかに繋がりましたね! 点と点が線になって、それが丸になって。次は点というドラマを作らなきゃかな(笑)。
――『せん(SEN)』もひらながのタイトルですが、本編で“せん”を感じた瞬間、胸騒ぎがしました。素晴らしい作品です。
森崎:ありがとうございます。
――受賞式の様子もYouTubeで拝見して、勝手に感動してました。
森崎:あれ、すごくいいシーンでしたよね! 僕、映画のワンシーンみたいな喜び方をしてました。「俳優だな〜」とか思ったりして。でも本当にガチだったんですよ。すごいですよね。あれは、本当にいいシーンでした(笑)。
◆ようやく森崎ウィンを認めてもらえた気持ち
――初監督を経て、見える景色は何か変わりましたか?
森崎:ひとつ思ったのは、自分の信じていた感覚って、伝わるんだな、共感してくれる人がいるんだなと。すごく自信に繋がりましたね。やっと表現したかったことが形になる場ができたなと。ようやく森崎ウィンを認めてもらえた気持ちというか。
こうして映画を作らせてもらって、時間もかかりましたが、それ以上に多くの人と、その人たちの人生の時間を費やしてもらっているわけです。そういう信頼をもらった。今までの自分があって、ようやくここまで来たんだなと。
正直、僕が言ってること自体は、昔からあまり変わってないんです。短編も、昔から一眼レフを持って、チーフマネージャーを出演者にして撮って、ファンクラブイベントで流してました。そうした点と点が、まさに線になって、今回、大きなメッセージとして込めることができました。
◆「伝わる」「感じる」作品になったのは、全員でひとつになれたから
――「伝わった」と感じたとのことですが、導入から、見る人を信頼している作品に感じました。
森崎:本当ですか? ああ、でも確かにあるかもしれませんね。作るときに、脚本の上田一豪さんとお話して、僕のバックボーンも入っています。
おばあちゃん(中尾ミエ)が主人公なのは、僕がおばあちゃん子だったからなのもあるし、説明はしていないけど、僕のことを知ってもらえると、より分かる部分があるかもしれません。そういう意味でも大きく信頼を置いたところはあるかな。
――それに、たとえ森崎さんのバックボーンを知らない人でも「感じるもの」がある作品かと。
森崎:感じるところまで作れたのは、キャストの方、カメラの撮り方、脚本、制作のみなさん、作り上げた全員でひとつになれたからですね。
◆取材であろうと、壁に向かってしゃべっているわけじゃない
――こうして直接お会いしてお話する際の森崎さんは、いつも明るくポジティブな印象です。『まる』で演じたモーくんも常にポジティブですが、終盤、ある本音を沢田に明かします。森崎さんにも、ポジティブであろうと「意識」している部分はありますか?
森崎:僕がポジティブに見えているなら、それはこの瞬間が楽しいからです。もしネガティブなエネルギーを与えられたら、たぶん僕もネガティブになります。壁に向かってしゃべっているわけじゃないから。取材だとしても、僕だって楽しくなければ笑ってないですよ。棘のようなトーンで来たら、僕だってそうなる。会話とか、共有している空間って、キャッチボールで生まれるものだし、自分の鏡だと思います。
――基本は、森崎さんからもポジティブなボールを投げたい?
森崎:基本はそうですね。でも自分の意思を貫き通す必要があるとき、たとえば制作の裏側でマネージャーと話していて、譲れないときなんかは、僕も尖りますよ。マネージャーとは大抵、通じ合えるという意味合いで、感覚として殴り合っています。あはは! でもそれは信頼の上での必要なクロスすることだし、全然いいことだと思います。
◆僕の願いは、アジアがもっとひとつになること
――最後に、これからの野望を教えてください。
森崎:いっぱいあります。まだまだ見たい景色がたくさんありますから。人生一度きり、やれることはどんどんやっていこうと思います。そのためには、ちょっと苦しいなと思うときがあったとしても、踏ん張ってやっていきたいです。具体的に言葉にするなら、音楽ではツアーをしたり、俳優としては、もっとアジアの作品に出ていきたいですね。
僕の究極の願いは、アジアがもっとひとつになること。そのためにも、エンターテインメントの分野で、いろんな国境をアイデアで回っていきたいと思っています。
<取材・文・撮影/望月ふみ メアメイク/KEIKO(Sublimation) スタイリスト/AKIYOSHI MORITA>
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TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi