引き上げなるか、「103万円の壁」、具体案と財源を明示し選択肢を【播摩卓士の経済コラム】

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2024年11月02日 14:01  TBS NEWS DIG

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衆議院選挙で自公過半数割れを受けて、議席を4倍に増やした国民民主党の存在感が増しています。国民民主党は、連立政権には入らないものの、政策実現に向け、自公と協力する方向です。国民民主党の公約のうち、ガソリン税の「トリガー条項撤廃」と、「年収103万円の壁」引き上げの2つが、当面の大きな焦点になりそうです。

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「103万円の壁」とは、「課税最低限」

「103万円の壁」とは数ある「年収の壁」の中で、所得税が課税されることになる境界線のことです。所得税には、基礎控除が48万円、給与所得控除が最低55万円認められているので、パートやアルバイトを含め給与収入が合計の103万円を超えると所得税がかかることになります。

所得税は103万円を超えた部分に5%の最低税率をかけて算出するので、それを超えると手取りが減るというわけではありません。社会保険料の支払い義務が発生する、「106万円」や「130万円の壁」とは違って、より多く働いたのに手取りが減るという「壁」ではありません。

ただ、大学生の子どもなど扶養家族のアルバイト収入が103万円を超えると、親は扶養控除(一般で38万円、特定で63万円)が受けられなくなり、親の税額が増えてしまうので、こうした世帯にとっては、一種の「壁」と言えるでしょう。

なお、配偶者控除については、すでに年収150万円までは、配偶者特別控除が満額受けられるようになっているので、103万円はすでに「壁」ではありません。

国民民主党「178万円への引き上げ」を公約

先の衆議院選挙で国民民主党は、この103万円の壁を178万円に75万円引き上げると公約しました。実現すれば、課税最低限が上がるので、給与収入178万円までの人は、所得税を払わなくてよくなります。

さらに178万円を超える収入がある人も、所得控除額が178万円に拡大するので、その分が減税になります。つまり、「103万円の壁」の引き上げとは、ほぼすべての人に関わる所得税減税のことなのです。玉木代表の試算によれば、年収200万円の人は所得税と住民税を合わせて年8.6万円、年収600万円の人は15.2万円の減税になるそうです。

玉木代表は、75万円引き上げの根拠として、課税最低限が103万円になった1995年と比べ、東京都の最低賃金が1.73倍になっていることをあげています。

財政当局は歳入の穴が7.6兆円と懸念

これに対して財政当局は、基礎控除の拡大は所得税のあり方の根本にかかわる上に、歳入の穴があまりに大きい恒久減税だ、と強く懸念を示しています。基礎控除を75万円引き上げた場合、国と地方を合わせ1年で7.6兆円もの減収になるとの試算を、早速まとめたほどです。また、所得控除の拡大は、所得の高い人ほど減税額、すなわち恩恵が大きくなるという問題点も指摘されています。

しかし、上記の試算は、75万円全額を引き上げ、しかも基礎控除だけで対応したケースです。幅の縮小をはじめ、制度設計によっては、やりようがあるのではないでしょうか。

引き上げ幅縮小や給与所得控除拡大など具体的な制度設計を

まず、引き上げ幅です。玉木代表は95年からの最低賃金増加率73%を算出根拠にしていますが、物価上昇率は10数%でしょうから、どの程度引き上げるかで減税規模は大きく異なります。

また全額を基礎控除で対応するのではなく、給与所得控除の拡大をうまく併用する考え方もあるでしょう。103万円にかかる方は、ほとんどがパート、アルバイトの給与所得者です。現在の給与所得控除は、55万円からスタートして、給与収入によって段階を経て、年収850万以上では195万円と、上限が設けられています。ですから、中低所得者を中心に恩恵が及ぶような制度設計は十分可能です。

また、現在48万円の基礎控除にも、すでに所得上限があり、所得が2400万円を超えると段階的に縮小され、2500万円超ではゼロになります。基礎控除をいくらか引き上げるのであれば、この仕組みをアレンジして、高所得者の恩恵を小さくする一定の対処ができるかもしれません。

インフレ時代の所得税のあり方の議論を

そもそも、課税最低限を長年、見直さず、放置して来たことが異常だったとは言えないでしょうか。課税最低限や税率の刻みの境界線といったものは、通常は、インフレが進めば、修正(引き上げ)されていくべきものです。名目所得が増加すれば、税率の累進税率によって、生活が苦しくなるからです。日本でこうした修正が行われなかったのは、デフレの時代が長かったからです。

課税最低限が103万円になった1995年は、消費税はまだ3%でした。今や消費税が10%にまで引き上げられています。かつて、課税最低限の議論では、「どの所得層までは税金を免除すべきか」が1つの論点でしたが、消費税の導入・増税によって、すでに「すべての人が税を払う世界」は実現しているのです。にもかかわらず、この間、政府が抜本的な逆進性対策に踏み込まなかったことこそ、バランスを欠いていたと言えなくもありません。

「103万円の壁」を最優先課題とする国民民主党だけでなく、各党が、現実的かつ具体的な制度設計と、必要な財源を明示して、国民に選択肢を示し、合意形成に努めることが、今回の選挙結果を受けた政治に求められていることでしょう。

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