衆院選の結果、議席や比例得票の背景、今後の政治の行方等について考えます。
自公大敗の理由
今回の選挙戦では、与党に対する「逆風」を超えた、もっとキツイ、有権者の「冷めた・白けた感じ」を受けました。政治とカネ、非公認候補への2000万円支給問題といったことにとどまらず、これまで長年国民の間に溜まっていた「政治不信」が「ああ、もうほんとにイヤだ、とてもじゃないが信用できない」というマグマとして静かに噴出した状況のように思います。物価高や経済停滞の中、生活が苦しい・将来が不安といった思いを抱える多くの国民の怒りが「状況を変えてくれる」ことを期待できる先に票を向かわせました。
また、今回自民党を見ていると、派閥解散、総裁選や人事、公認問題など、党内に様々な亀裂を抱え、“お互いを支え合わない”選挙であったと思います。以前は、派閥も地域も関係なく、ベテランがたくさん応援に来て、党執行部も候補者同士も、一丸となって、皆で当選しよう・させよう!といった強いエネルギーがありました。選挙は「戦い」なので、味方同士が分裂していては、やはり力は一層弱まります。また、コアな地元の自民党組織の熱意の減退や、場合によっては離反の動きも、各地で見られました。
政権発足後の石破首相の“変節・発言のブレは、「党内野党だったときは、言いたい放題に思うことを言えていたが、実際に総理総裁になると軌道修正せざるを得なくなった」わけですが、国民の目から見ると、「なんだ、石破氏で変わると思ったが、結局古い自民党のままか」といった、期待から大きな失望への変化がありました。石破首相は、かつて自民党を飛び出すほどの改革派であった初心に立ち戻ることが、求められていると思います。
比例得票数から見えてくるもの
各党の比例得票数を、2021年前回衆院選と比べると、自民1458万票(前回比マイナス533万票)、公明586万票(同マイナス115万票)、維新511万票(同マイナス295万票)、共産336万票(同マイナス80万票)、一方、増加したのが、立憲1156万票(同プラス7万票)、国民民主617万票(同プラス358万票)、れいわ380万票(同プラス159万票)となり、衆院選に初めて臨んだ参政党は保守115万票、参政187万票を獲得しました。
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立憲は、自民批判票を集め、野田氏が代表となったことで、保守層の取り込みにも成功しました。小選挙区で共産党と競合しても多くの議席を得られることを示し、都道府県で議席を独占(2県)や、第一党となった所(10都道県)も増えましたが、一方、比例での得票は7万票しか増えておらず、自公が大きく減らした票は、国民民主、参政、保守党などに流れました。
国民民主は、「手取りを上げる」「若者をつぶすな」といった明確なメッセージやSNSを駆使した戦略等が、若い世代に刺さり、20代・30代の比例投票先で自民党を上回り一位となりました(各社出口調査)。「政治とカネ」のシングルイシューだけではなく、実際に国民生活を変えていく具体的方策を求める有権者の支持も得ました。
公明は、与党の一員として、自民への逆風を全面的に受けました。以前からの方針として小選挙区での重複立候補が無く、石井代表はじめ、経験豊富な現職が議席を失いました。支持者の高齢化による活動量の低下等も指摘されています。
維新は、大阪では全勝し強さを示しましたが、議席と比例得票数が減少しました。国民民主と共にキャスティングボートを握る存在ではありますが、まずは党内のゴタゴタを解決し、そして国会運営での立ち位置を、より明確にする戦略が求められるでしょう。
「政治とカネ」問題を明らかにした共産が、議席と比例票を減らす一方、れいわ、参政、保守党という、左右のウイングの両極端が広がりを見せました。
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批判一辺倒ではなく、政党それぞれの明確な思想に基づいた、具体的で実現できる政策案を提示する姿勢が、有権者の支持を得ているといえると思います。「国民が求めているものはなにか」を改めて考える必要があります。
今後どうなる?
首班指名選挙では、決選投票においても、国民民主は玉木代表の名前を書く、ということですので、そうすると結果的に、石破総裁は少なくとも221票(自民(191)∔自民系会派(6)∔公明(24))を獲得する見込みに対し、野田代表は、最大でも216票(全体(465)-与党系(221)-国民民主(28))となり、石破総裁が内閣総理大臣に選ばれる見込みです。
自公は少数与党となり、国民民主や維新等の協力を得ないことには、政権運営ができません。国民民主は、現時点(2024年11月1日)では、自公とも、立憲や維新とも、「案件ごとに政策協議を行う」という立場を取っています。与党に対し「103万円の壁」「トリガー条項」といった政策を実現させることを求めるとともに、改革派であることは維持し、自党の価値の最大化を図ろうとするでしょう。議席数の多くない政党が、政局・政策に極めて大きな影響力を持つ、という状況にあります。
衆院の選挙制度は、「多数決で決める制度」(小選挙区制)と、「多様な民意を国会に反映させる制度」(比例代表制)の両方を取り入れる「小選挙区比例代表並立制」を採用しており、結果として、これまでのような「一強多弱」の構造だけでなく、今回のように、大きな政党と中小の複数の政党との微妙なバランスによって、政権が運営されていくことも想定されています。
過去に1993年7月の総選挙で自民党が単独過半数割れした際は、交渉の末、非自民・非共産の8党派による細川連立政権が誕生しましたが、不協和音が続き、その後、与党を離脱した社会・さきがけ両党と自民が、新たに与党となり、1994年6月に自社さ政権を作りました。思想や政策の異なる多くの政党で政策を決めていくことの難しさを表しています。
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その意味では、今回想定される政権の枠組み(自公+国民民主や維新の政策協力?)も、流動的であり、例えば、来夏の参院選後等にどうなっているかは、誰にも分からない、と言えると思います。
ただ、『しばらくすればきっと国民は忘れる』というような甘い状況では全く無く、与野党ともに、国民の声に真摯に向き合い、自己を律する厳しい姿勢が不可欠と思います。
また、これまでの自公連立政権では、各省庁が政策案の土台を作り、与党と調整しながら練り上げ、自公の部会(政策会議)で了承を得れば事実上オッケーで、そのまま国会に法案を提出・審議して成立、となったわけですが、少数与党政権ではそうはいきません。霞ヶ関も、「『当たり前』を見直す」「政策立案の本来あるべき姿を改めて考える」ときだと言えるのかもしれません。
キャスティングボートを握る政党が、案件ごとに与党側・野党側の両方に移るとなると、政策の安定性・見通しが立たないおそれもあります。多様な意見を反映しつつ、どうやって多くの喫緊の課題に迅速に対応して、政策を具現化していくのか。政治改革をきちんと形にするとともに、党利党略を超えて、真に国民のためになる政治・政策を、各党がどう“協力”して実現するのか、日本の民主政治は新たな重要な局面を迎えていると思います。
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10月27日の投開票日は関西の選挙特番に出まして、小泉進次郎選対委員長(当時)に「『若手が中から自民党を改革する』という進次郎さんの声は有権者に響かなかった。厳格な年功序列の自民党の中では難しさがあると思うが、今後具体的にどうやって改革をしていくのか」とうかがったところ、「執行部に入って初めて分かった問題点もある。党の仕組み、ガバナンスの在り方から変えていく」とのことで、私は「『やる』ではなく、具体的な結果を出すことが国民から求められている」と申し添えました。
維新の吉村洋文共同代表には、「維新は大阪では強かったが、全国政党化とお膝元の近畿でも課題が残る。有権者へのメッセージは?」とうかがったところ、「ブレないことが大事。目の前の永田町的な論理で、自民とくっつく、というようなことではなく、維新に票を投じた方に誠実に応えていく」とのことでした。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。