ドジャースとヤンキースによるワールドシリーズの激闘から早5日。改めて2024年のメジャーリーグを振り返ると、「大谷翔平の大谷翔平による大谷翔平のためのシーズンだった」といっても過言ではない。
◆シーズン開始当初は厳しい声も…
打者一本で臨んだ今季は、移籍第1号がなかなか出ず、得点圏の場面では凡退を繰り返し。気の早いアメリカメディアの中には「『10年7億ドル』の大型契約は失敗だった」と報じるところもあったほどだ。
ところが開幕9試合目に待望の一発を放つと、大谷は徐々に本領を発揮。5月には三冠王の可能性も取り沙汰されるほどのV字回復を遂げていた。
その後も大谷は順調に快打を連発し、それと連動するようにチームも白星を重ねた。自身4度目の出場となった7月のオールスターゲームでは念願の初本塁打も飛び出し、後半戦に勢いをつけた。
8月以降は打率こそやや下がったが、本塁打に加えて盗塁の数が激増。史上6人目の「40本塁打&40盗塁」を最速で達成すると、前人未到の「50本塁打&50盗塁」もあっさり成し遂げ、最終的にその数字を「54本塁打&59盗塁」まで伸ばした。
大谷は三冠王こそ僅かの差で逃したものの、本塁打王と打点王の2冠を難なく獲得。シーズン終盤は得点圏の場面で打ちまくり、地区優勝に大きく貢献した。
◆ワールドシリーズ第2戦では亜脱臼も強行出場
そして迎えた自身初のポストシーズンは、地区シリーズ初戦に豪快な一発を放つも、パドレスのダルビッシュ有に完全に抑え込まれるなど本調子には程遠い内容に……。だが、続くメッツとのリーグ優勝決定シリーズは、6試合で打率.364、2本塁打の活躍を見せ、ナ・リーグ制覇の立役者となった。
そして辿り着いたヤンキースとのワールドシリーズ。自身初の大舞台に意気込み過ぎたか、大谷の気合はやや空回り。第2戦で盗塁を失敗した際に左肩を亜脱臼してしまい、第3戦以降の出場が危ぶまれる事態に陥った。
それでも大谷は第3戦以降も負傷した左肩をかばいながら強行出場。5試合で19打数2安打(打率.105)、打点ゼロと不本意な成績に終わったものの、ベンチからチームメートを鼓舞しつづけ、ドジャース移籍1年目でついに世界一の称号をつかみ取った。
◆栗山氏のシーズン開始前の成績予想は?
そんな大谷の活躍を誰よりも信じ、応援してきたのが、二刀流の“生みの親”である日本ハム前監督の栗山英樹氏だ。
栗山氏と大谷が師弟関係を築いたのは遡ること、12年前の秋。2012年のドラフト会議である。ドラフト前にメジャーリーグ挑戦を表明した当時高校3年生の大谷に、玉砕覚悟で唯一入札したのが、栗山氏率いる日本ハムだった。
「大谷君には本当に申し訳ないけれど、指名をさせていただきます」
いかにも栗山氏らしい“泣きの強行指名”だったわけだが、その裏には“二刀流への挑戦”という綿密な計算があった。
「誰も歩いたことのない、大谷の道を一緒につくろう」
栗山氏のメッセージに心打たれた大谷はその後、誰もが懐疑的に見ていた二刀流選手として成功を収め、想像を超えることをやり遂げてきた。
ただ、今季の大谷の活躍は、栗山氏の予想をやや下回るものだったようだ。栗山氏は昨年12月に『テレビ朝日』で放送された「野球伝道師・栗山英樹」に出演した際、2024年と25年の大谷の成績を予想していたが、その内容がとんでもないと、当時も話題になっていた。
トミー・ジョン手術を受けた影響で、打者一本での出場が決まっていた24年。栗山氏が大谷に“課した”のは、2001年にバリー・ボンズが記録した73本塁打を超える「74本塁打」という途方もない数字だった。
共演した古田敦也氏の25本塁打、松坂大輔氏の30本塁打との差にスタジオも騒然となったが、終わってみれば、栗山氏の74本塁打予想がニアピンという結果に。
「やっぱり世界一の選手ですから。ボンズ選手を超えてもおかしくない。本当に思っているよりびっくりさせることができると僕は信じている」
愛弟子にそうメッセージを送った栗山氏。さすがに“ボンズ超え”は叶わなかったが、「54本塁打&59盗塁」という想像もつかなかったことを成し遂げたという意味では、栗山氏の予想はあながち外れとも言い切れない。
◆OB3人の2025年の活躍予想は?
さらに番組では、OBの3人が2025年の成績予想も行っていたので、それも紹介しておきたい。
結論からいうと、栗山氏が「89本塁打&10勝」、古田氏が「60本塁打&15勝」、松坂氏が「55本塁打&15勝」という予想を披露。投手として完全復活を遂げれば、古田氏と松坂氏の予想が妥当にも思えるが……。
投手としての復帰が見込まれる来季、15勝という数字は実現可能なちょうどいい目標にも感じる。それに比べると、栗山氏の10勝はやや控えめともいえるが、これは「投げる方は無理しない方がいい」「本当にケガしないでほしい」という栗山氏の“親心”からくるもの。
一方で、89本塁打はさすがに実現不可能と言わざるを得ないだろう。ただ、終わってみれば、栗山氏が2年連続のニアピンだったとしても驚けない。“二刀流”大谷翔平が2025年に描くサクセスストーリーは、果たしてどんな結末となるだろうか。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。