コンピュータ用キーボードの世界は、なかなかヒット商品というのが生まれにくいのだが、昨今記憶に残るヒットといえば、2023年10月にリリースされたPFUの「HHKB Studio」が挙げられる。
【画像を見る】3.5万円の高級キーボード。それでも根強いファンを持つ(計8枚)
根強いファンの多いHHKBにポインティングスティックとマウスボタンを搭載し、さらにボディーの翼面にジェスチャーパッドを設けて、キーボードから手を離さずにマウス操作まで実現した、異色の製品である。MONOistにて開発者インタビューも行っているので、ご興味のある方はご一読頂ければ幸いだ。
HHKBといえば静電容量スイッチを思い浮かべるところだが、HHKB Studioではユーザーによるカスタマイズ性を重視し、あえてメカニカルスイッチを採用、キースイッチを交換できるようにした。一方で静電容量スイッチの本家といえば、東プレの「REALFORCE」である。
22年の10月にテンキーレスの「REALFORCE R3S」を取り上げたところだが、さらにコンパクトなキーボードを、という市場の声も強かったようだ。この10月に、いわゆる70%サイズといわれる配列で、REALFORCE RC1というシリーズが投入された。英語配列、日本語配列ともにキー荷重30gと45gがある。R3Sのときは先に日本語配列が出て、あとから英語配列が発売されたが、今回は同時発売である。価格はいずれも3万5860円となっている。
|
|
今回はRC1の英語配列・30g「C1HK13」のサンプルを提供いただいたので、早速使ってみているところだが、HHKBにいまひとつ乗り切れなかったユーザー必見の製品といえそうだ。
●実は独特のキー配列
キーボードにおいて、フルレイアウトとテンキーレスはおなじみのサイズだが、その他にもフルサイズに対する横幅を基準とした、パーセントで表記する配列がある。
13インチ前後のノートPCに搭載されるキーボードが、一般的に言う60%配列に近い。Enterキーの右側に何もキーがないタイプだ。ただノートPCのキーボードは、小さいながらもファンクションキーやアローキー(矢印キー)を備えている。外付けキーボードにおいてはファンクションキーやアローキーがないものを一般に60%サイズと呼ぶようである。
一般にコンパクトキーボードとされるのは70%サイズで、テンキーレスキーボードの右側部分、すなわちアローキーやHOME、ENDといったキーがある面積を削減して、そこにあったキー群をEnterキーの右側に1列もしくは2列に押し込めた配列になっている。ただEnterキーに近いので、誤ってそれらのキーを押してしまうケースがあり、嫌う人も多いようである。
|
|
REALFORCE RC1は70%サイズキーボードとして紹介されているが、個人的にはEnterキーの右側にキーがないので、変形60%と呼ぶべきではないかと思っている。一般に60%配列というのはHHKBのようにアローキーもファンクションキーも排除されているが、REALFORCE RC1は横幅こそ60%キーボードだが、アローキーを備え、さらにファンクションキーも備えているからだ。このため、見た目的には四角い箱の中にキーがギュウギュウに詰まった感がある。
日本語入力をメインにするものにとって、アローキーの存在は必須だ。入力した文字の変換範囲を変更したり、入力済みの文章の一部を選択して削除したりすることが頻発するからである。なんなら文字キーよりも使用頻度が高いかもしれない。すなわち日本語入力者にとっては、テンキーレスキーボード(80%配列)のいいところを残しながら、70%配列のダメな部分を排除したという、絶妙に分かってるキー配列になっているのが、REALFORCE RC1というわけである。
これまでREALFORCEの現行商品には、フルキーボードかテンキーレスキーボードしかなかったわけだが、RC1で新たにコンパクトシリーズが立ち上がったということになる。もっともこれはREALFORCEシリーズに限った話だ。東プレはほかにも企業向けにカスタムキーボードをたくさん作っているため、これまでコンパクトモデルが絶対なかったかといわれると、そこまでは分からない。
●R3Sの機能を継承
現在手元にはRC1と2年前にご紹介したR3Sがある。どちらもキーストローク40mm、キー荷重30gのスイッチだが、打ち比べてみると微妙にタッチが違う。RC1のほうが若干軽いように思える。そもそも30gを選んだ時点で軽いキーが好きなわけで、軽くなる分には望むところである。
|
|
これだけコンパクトにしたということは、当然持ち運んで使うということも視野に入っている。R3SがUSB-Aオンリーだったのに対し、RC1ではUSB-Cのほか、Bluetoothを4台まで切り替え可能になっている。出先でタブレットやスマホとと接続して、やや長文のメールを返すといった用途も考えられる。
もちろんノートPCでも……と思い、いわゆる“尊師スタイル”に挑戦してみたが、脚部がPCのキーを押してしまうため、このままでは使えない。RC1を浮かせるための、何らかのスペーサーが必要である。さすがにここまでのトレンドは押さえられなかったようだ。
またR3Sの際にもご紹介した設定ツール「REALFORCE CONNECT」を使えば、どれぐらいキーを押し下げたときにONになるかの設定、APC(アクチュエーションポイントチェンジャー)の設定もできる。これも4つのマップが用意されており、デフォルトでは全キー0.8mm、1.5mm、2.2mm、3.0mmが割り当てられており、ショートカットで変更できるようになっている。もちろん、キーごとに設定を変えることも可能だ。
Macユーザーが重宝するのは、キーマップ入替設定だろう。昔のキーボードは、Mac対応させるためにディップスイッチによってCtrlキーをCommandキーに置き換えるものもあったが、入れ替え可能なキーコマンドにはコマンドキーもあるので、自分で変更すればいい。最もWinキーはCommandキーとキーコードが同じなので、これで代用してもいい。
筆者は、CtrlキーをCommandキーへ入れ替えを行ったが、そうなると左下にCommandキーが2個並ぶことになってしまうので、Commandキーの隣にoptionキーを配置している。キートップもそれに合わせて入れ替えているので、製品の写真は市販時の配列とは違っている。
●ようやく進化し始めた日本語入力
この機会に日本語入力に関しするもう1つトピックスをご紹介したい。23年5月に公開したコラム「そろそろ「日本語入力」にもAIパワーを注入してみないか?」において、日本語入力およびその変換結果について、もう少しAIが利用できないのか、という話を書いた。もちろん変換エンジンの最適化にはディープラーニングが使われているのだろうが、入力しているまさにこのライブな瞬間に、もうちょっと全体の文脈を見ながら同音異義語を判断して適切な漢字を出力してくれてもいいんじゃないか、という話である。
これに関して、現在進行中のプロジェクトがある。現在iOS/iPadOS向け日本語入力キーボードアプリを開発している三輪敬太氏が、macOS向けのニューラル日本語入力システム「azooKey on macOS」の開発も並行して行っている。従来の古典的手法によるかな漢字変換に加え、完全ローカルで動作するニューラルかな漢字変換エンジン「Zenzai」を組み込んだ格好の「AzooKeyKanaKanjiConverter」がその中身だ。
実は5月の段階でも既にこのプロジェクトはスタートしており、α版も公開されていたが、まだ動作速度が遅く学習機能もなかったため、紹介を見送っていた。だが24年6月に独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」の2024年度のプロジェクトに採択されたこともあり、開発は順調に進んでいるようだ。
最新の「v0.1.0-alpha.11」を試してみたところ、動作速度も大幅に改善されており、ライブ変換ながらも誤変換の少ない入力ができるようになっていた。文脈を読むというアプローチが、日本語入力において効果が高いということが分かる。Macユーザーの方は、一度試してみる価値がある。
現在日本語入力環境に欠けているのは、個人に対する最適化だ。人それぞれ入力の癖はあるだろうし、文章の目的も違う。加えてデバイスが変わるごとに入力装置や日本語変換エンジンが変わる。そんな中でも一定のクオリティーを出すために、人間側が苦労して、汎用システムに自分を合わせるという方法を取ってきた。
こうした状況を少しでも変えていくという意味でも、どのデバイスを使ったとしてもキーボードは共通だったり、変換エンジンが自分に最適化してきたりといった傾向は、歓迎すべきだろうし、応援もすべきであろう。
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。