高木豊のドラフト通信簿 パ・リーグ編
高木豊氏によるドラフト会議総括のパ・リーグ編。5球団競合となった大学No.1ショート・宗山塁(内野手/明治大)は楽天が交渉権を獲得したが、全体の印象はどうだったのか。セ・リーグ編と同じように、各球団が補強ポイントに見合う指名ができたのかどうかを【◎、〇、△】で評価してもらった。
(セ・リーグ編:最高評価の2球団は?>>)
◆ソフトバンク【〇】
宗山塁(内野手/明治大)、柴田獅子(投手/福岡大大濠高)と抽選を2度外し、高校生屈指の右腕・村上泰斗(投手/神戸弘陵高)を1位指名。2位には俊足の遊撃手・庄子雄大(内野手/神奈川大)、4位には将来性豊かな宇野真仁朗(内野手/早稲田実高)など、補強ポイントである二遊間の選手を指名した。
「宗山と柴田を外しましたが、村上は右ピッチャーでは高校生No.1と思っていましたし、指名できたのは上出来です。右ピッチャーでは報徳学園の今朝丸裕喜(阪神が2位で指名)もいいですが、総合力と伸びしろでは村上のほうが上回っているかなと。
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高校に入ってからピッチャーになったのですが、2年夏には152キロを出していたようですし伸びしろ十分。変化球もなかなかよくて、何より腕のしなりと真っすぐの質がすごくいいですね。昨年のドラ1左腕・前田悠伍はチェンジアップのような抜くボールが主流なのに対し、村上は力で押していける。タイプが違う左右のエース候補として期待できます。
それと、宗山を指名したということは、やはり今宮健太の後釜がやはり欲しいんだなと。ただ、センスのいい内野手の庄子を指名していますし、宇野も指名しています。今宮の後継者候補を指名するというビジョンは貫きましたよね」
1位 村上泰斗(投手/神戸弘陵高)
2位 庄子雄大(内野手/神奈川大)
3位 安徳駿(投手/富士大)
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4位 宇野真仁朗(内野手/早稲田実)
5位 石見颯真(内野手/愛工大名電高)
6位 岩崎峻典(投手/東洋大)
◆日本ハム【◎】
1位は投打で非凡な才能を見せる柴田獅子(投手/福岡大大濠高)を、ソフトバンクとの2球団競合の抽選の末に引き当てた。2位は大型左腕・藤田琉生(投手/東海大相模高)、4位でポテンシャルを感じさせる長身右腕・清水大輝(投手/前橋商高)など、スケールの大きい素材型の選手の指名が目立った。
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「補強ポイントはピッチャーだと思っていたのですが、最初に内野手の宗山を1位指名したのは、やはりスターが欲しかったんでしょう。結果的には、育成を含む8人中7人が投手でしたけどね。
1位の柴田は魅力がありますよ。二刀流で期待されていますが、ピッチャーよりも野手のほうで先に出てくる感じがするんです。ピッチャーがダメというわけではありません。スイングは大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)の軌道とよく似ていて、技術が高い。ピッチャーはボールの力はあるのですが、まだまだ粗削りです。二刀流のノウハウを持った日本ハムなので、どう育成していくのか楽しみです。
2位の藤田はナックルカーブを投げるのですが、とにかく器用。チェンジアップもよくて、198cmから投げるボールは角度がありますし、将来のエース候補だと思います。それと、5位の山縣秀(内野手/早稲田大)の守備はうまいです。ショートを守っているのですがサードもできそうですし、守備固めにはもってこいかもしれません」
1位 柴田獅子(投手/福岡大大濠高)
2位 藤田琉生(投手/東海大相模高)
3位 浅利太門(投手/明治大)
4位 清水大輝(投手/前橋商高)
5位 山縣秀(内野手/早稲田大)
6位 山城航太郎(投手/法政大)
◆ロッテ【〇】
大学生No.1スラッガー・西川史礁(外野手/青山学院大)はオリックスとの競合になったが、抽選で引き当てた。2位は強打の左バッター・宮崎竜成(内野手/ヤマハ)を指名。3位は長身の本格派右腕・一條力真(投手/東洋大)、4位は今夏の甲子園でチームを初の準優勝に導いた坂井遼(投手/関東第一高)を指名した。
「ロッテはクライマックスシリーズ(CS)でも、外野手で角中勝也、荻野貴司というベテランを起用していましたよね。若手が育っていないので、西川は補強ポイントに合った指名だったと思います。トップの位置がよくて大きく振れるのが特長で、スイングに迷いがないです。外野の守備も、井端弘和監督が侍ジャパンに呼んだぐらいですし、そつなくこなしていくと思います。
2位の宮崎は広角に強い打球が打てる内野手で、どのポジションでもこなす守備力が魅力です。今季はサードにコンバートされた中村奨吾が結果を出せませんでしたし、安田尚憲もシーズンを通して働けない。宮崎の指名に至った背景には、そういう理由もありそうです。
ロッテは先発の左ピッチャーも補強ポイントと考えていたのですが、左ピッチャーの指名はなし。それでも西川が指名できたので評価は〇です」
1位 西川史礁(外野手/青山学院大)
2位 宮崎竜成(内野手/ヤマハ)
3位 一條力真(投手/東洋大)
4位 坂井遼(投手/関東第一高)
5位 廣池康志郎(投手/東海大九州キャンパス)
6位 立松由宇(内野手/日本生命)
◆楽天【◎】
1位指名で5球団競合の大学No.1ショート・宗山塁(内野手/明治大)を抽選で引き当てた。2位は先発として期待の左腕・徳山一翔(投手/環太平洋大)を指名。3位の中込陽翔(投手/徳島インディゴソックス)や4位の江原雅裕(投手/日鉄ステンレス)も即戦力で期待できるピッチャーだ。
「宗山が指名できただけでも◎です。本来の補強ポイントは右バッターやピッチャーだと思うのですが、やはりスターが不在なので、その素質がある選手が欲しかったんでしょう。野手であれば毎日試合に出られますしね。
2位の徳山は伸びのある直球で三振が取れることが魅力で、1位で指名されてもいいぐらいの逸材です。手薄な先発ローテーションに入ってきてくれると助かりますね。チームの先発左腕には早川隆久や藤井聖という好投手がいますし、成長していく上でいい環境だと思います。3位の中込はサイドスローのパワーピッチャーで、1年目から中継ぎで活躍できそうです」
1位 宗山塁(内野手/明治大)
2位 徳山一翔(投手/環太平洋大)
3位 中込陽翔(投手/徳島インディゴソックス)
4位 江原雅裕(投手/日鉄ステンレス)
5位 吉納翼(外野手/早稲田大)
6位 陽柏翔(内野手/茨城アストロプラネッツ)
◆オリックス【△】
ロッテとの2球団競合抽選の末に西川は外したが、三拍子揃った左バッター・麦谷祐介(外野手/富士大)を1位指名。2位は総合力が高い本格派右腕・寺西成騎(投手/日本体育大)、3位は長身右腕・山口廉王(投手/仙台育英)を指名した。また、昨年と同じく5、6位は社会人のピッチャーを指名した。
「西川は外しましたが、同じ外野手で走攻守に優れた麦谷を指名できたのは大きいと思います。身体能力は高いですが、バッティングにはちょっと粗さがあります。オリックスは左バッターが多いので、最初に西川を指名したのかもしれませんが、抽選なので仕方ないですね。麦谷に関しては、センターのレギュラー候補として期待しているはずです。
2位の寺西は投球フォームが安定していますし、ピッチングがまとまっています。総合力という意味では大学生のなかでトップクラスだと思います。3位の山口は長身の右腕でオリックスが好みそうなタイプのピッチャーですね。下位で指名した社会人のピッチャーたちもボールに力がありますし、即戦力だと思います。
ただ、全体のバランスを見たときにピッチャーが多いなと。オリックスはピッチャーはある程度いるので、もう少し野手が多くてもよかったかなという印象です」
1位 麦谷祐介(外野手/富士大)
2位 寺西成騎(投手/日本体育大)
3位 山口廉王(投手/仙台育英高)
4位 山中稜真(外野手/三菱重工East)
5位 東山玲士(投手/ENEOS)
6位 片山楽生(投手/NTT東日本)
◆西武【〇】
来季に巻き返しを図る西武は、宗山塁(内野手/明治大)、石塚裕惺(内野手/花咲徳栄高)と抽選を2度外し、高校生屈指のショート・斎藤大翔(野手/金沢高)を1位指名。2位でスラッガー候補の渡部聖弥(外野手/大阪商業大)を、4位でスケールの大きさを感じさせる林冠臣(外野手/日本経済大)を指名した。
「斎藤はすごく身体能力が高そうでバネもありますし、守備のフットワークがいいですね。ただ、守備のよさと比べると、打撃面は少し物足りないかなという印象です。1位でショートの宗山を指名し、外した後もショートの斎藤を指名したというのは、セカンドの外崎修汰を外野に動かしたからじゃないですかね。
2位の渡部は1巡目で指名されてしまうと思ったのですが、指名できたのは大きいですよ。下位チームから指名ができるウェーバー制の恩恵を受けた形ですね。今の西武では4番候補ですし、センターを守れる脚力があるうえにサードも守れることを考えても、いい補強ができたと思います。今季は佐藤龍世や山村崇嘉に4番を打たせていましたが、4番タイプではないですからね」
1位 斎藤大翔(野手/金沢高)
2位 渡部聖弥(外野手/大阪商業大)
3位 狩生聖真(投手/佐伯鶴城高)
4位 林冠臣(外野手/日本経済大)
5位 篠原響(投手/福井工大福井高)
6位 龍山暖(捕手/エナジックスポーツ高)
7位 古賀輝希(内野手/千曲川硬式野球クラブ)
【番外編】
――最後に、清原正吾(内野手/慶応大)選手が指名漏れとなった要因として考えられることは?
高木豊(以下:高木) はっきり言って、他の選手と比べて実力で劣っています。確かに素材はいいのですが、現状では飛ばす能力だけで確実性に欠ける。変化球の見極めにも課題があります。まずは打席数をもっと増やしたりして、しっかり経験値を上げてからだと思うんです。清原和博の息子がプロ入りするとなればキャンプなどにも人が来るでしょうが、話題性だけで指名したら本人もかわいそうです。
あと、あくまで僕の憶測なのですが、清原という偉大な父親がいるので「育成での指名は失礼だ」と考えた球団もあったのかもしれません。
――今季2軍のウエスタン・リーグ公式戦に新規参入したくふうハヤテや、独立リーグの四国IL香川などが獲得に乗り出していると報じられています。
高木 まだ若いですし、仮に3年間野球に専念しても25歳。体もヘタってないでしょうし、体の使い方などは中学、高校で他のスポーツをやっていたことによる利点もあるでしょう。9月28日の明治大との試合では、敗北寸前の9回2死の場面で同点ホームランを打ちましたが、ああいうことができる選手はそんなにいません。まだまだ伸びると思うので、オファーがあればそこで挑戦するのもひとつの手だと思います。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。