姫路から鳥取をつなぐ国道29号線を旅する二人の心が次第に寄り添っていく姿を描いた本作を演出したのは、『こちらあみ子』で第27回新藤兼人賞金賞など数々の映画賞を受賞した森井勇佑監督。
綾瀬さんと大沢さんが演じたのり子とハルはとても個性的なキャラクターですが、綾瀬さんと大沢さんはとてもナチュラルに演じています。まずは初共演の感想からお話を聞きました。
「テレビで見るより、ずっとかわいいです」
――『ルート29』で綾瀬さんと大沢さんは初共演されましたが、初めて会ったときのことを教えてください。綾瀬はるかさん(以下、綾瀬):私は森井監督の映画『こちらあみ子』が大好きなんです。あみ子を演じた一菜ちゃんのお芝居にも感動していたので、初対面は「あみ子だ! すごく大きくなって」と思いました(笑)。
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大沢一菜さん(以下、大沢):綾瀬さんはきれいだし、かわいいし、「絶対に優しい人に違いない」と思いました。初めて会ったときはすごく緊張したのですが、目の前の綾瀬さんはやっぱり優しかったです。あとテレビで見るより、ずっとかわいいです。
“綾瀬はるかのまま”でキャラクターを演じることの懐かしさ
――個性的だけれどつかみどころの難しい役を演じられましたが、それぞれキャラクターについてどのように考えて演じられたのでしょうか?
綾瀬:のり子は、子どもの頃からよかれと思ってしたことがうまく伝わらず、勘違いされたり、怒られたりしたことが多かったので、他者と積極的に関わらずに成長した女性だと思いました。でも決して暗い心を抱えた人ではなく、「のり子の中には独自の宇宙がある」と森井監督からお話がありました。
――森井監督のその言葉を綾瀬さんのお芝居に落とし込んでいったんですね。
綾瀬:森井監督は「演じなくていい。綾瀬さんのままでいてください」とおっしゃったんです。でも登場人物との掛け合いの芝居もあるので、伝えようという気持ちで演じると「伝えようとしなくていいです」と監督に言われました。
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――綾瀬さんにとっては新しい演技だったのですか?
綾瀬:新しいというより、10代の頃を思い出しました。「こんな感じで芝居していたな……」と。役をつかんでしっかり芝居を重ねていくやり方とはまったく違う、ただそこにいるだけでいいという芝居。自分じゃないけど、自分の延長線上で演技をしている感じがとても懐かしいと思いました。
――大沢さんはどのようにハルを作り上げていきましたか?
大沢一菜さん(以下、大沢):森井監督とは『こちらあみ子』でも一緒で、撮影のあとも一緒に遊んだりしていたんです。そのとき、私のことをよく観察していたのか、脚本を読んだとき、ハルは自分をイメージして書いたのかなと思いました。
ハルはお母さんが入院してしまったことをきっかけに、秘密基地を作ったりして、一人で生きていけるように準備していると思いました。
――のり子とハルのシーンが多かったのですが、一緒に作品作りをしていて距離が縮まったと思った瞬間はありましたか?
大沢:一緒に虫取りをしたときです。虫かごにカエルとかトンボとかカニとかを入れながらおしゃべりをしました。行動しながらお話しするほうが仲良くなりやすいみたいです。
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のり子とハル、母親との希薄な関係について
――映画を拝見したとき、のり子もハルも家族との関係が希薄だと感じたのですが、その関係の薄さがキャラクターの性格に影響を与えていると思いますか?綾瀬:私は森井監督から、のり子は自主的に人と距離を置いていると聞いていたので、それをベースに役作りをしていました。彼女と家族の詳しい関係は聞いていないのですが、監督に『こちらあみ子』のあみ子っぽい女性ですか? と聞いたら「そうかもしれないですね」とおっしゃっていたので、その言葉も心にとめて演じました。
あみ子も優しさが裏目に出て、誤解されて怒られたりするキャラクターだったので。
大沢:お母さんと離れ離れなのは、お互いに嫌いなわけじゃないと思います。ハルはお母さんと離れて寂しい気持ちがあるからこそ、のり子とお母さんに会いにいくことが怖かったんじゃないかな。お母さんに忘れられていたら悲しいから。でも最後のお母さんへの言葉で、お母さん思いの子なんだと分かりました。
二人の魅力の共通点は“目力”
――共演をしてお互いに「ここがすごい」思ったところはどこでしょうか?
大沢:森井監督も言っていたのですが、綾瀬さんはセリフがなくても目力で気持ちを伝えることができる俳優だと言っていて、そういうところがすごくかっこいい! と思いました。
綾瀬:一菜ちゃんの顔がスクリーンに映ったとき、完全にハルとして存在していて素晴らしいなと。一菜ちゃんこそ目力がすごかったです。「いい顔してますね〜」という感じでした(笑)。
――大沢さんは、ハルは自分に近いキャラクターだと感じたとおっしゃっていましたが、自分に似ている役を演じてみてどう感じましたか? 不思議な感覚ですか?
大沢:自分に近いとやりやすいとは思いましたが、完全に自分自身ではないし、違うところもあるので、ハルと自分の違う部分も集中して演じました。
綾瀬さんとの最初のシーンで頭が真っ白になった
――綾瀬さんは大沢さんと共演して、これまで共演してきた俳優さんとのリアクションの違いなど感じましたか?
綾瀬:そうですね。撮影に入ってからは、一菜ちゃんではなく、ハルがそこにいるような感じでした。演じているように見えないんですよ、どうしても。
――二人が秘密基地で出会うシーン。カメラの切り返しで表情を追っていましたが、あのとき、二人ともそれぞれ役と自分の境界線が曖昧な感じだったんですか?
綾瀬:森井監督が「“のり子の宇宙”の余白をもっと感じてください」という演出をされていたので、私も頭を空っぽにして役と向き合いました。ハルに「あんたを連れていくよ」と話しかけるシーンも、コミュニケーションを取ろうとしているんだけど、独り言みたいに感情を込めないで演じるというか……言葉にするのが難しいのですが。
――大沢さんは秘密基地で初めてのり子と会うシーンはいかがでしたか?
大沢:もう「本物の綾瀬はるかさんがいる! 目の前にいる!」としか考えていませんでした。頭の中、真っ白になっちゃいました(笑)。
鳥取砂丘とお祭りがいい思い出に
――この映画はオールロケで、1カ月くらい姫路から鳥取まで撮影で移動されたそうですが、その中で印象に残った出来事はありますか?
綾瀬:国道29号線をずっとたどって撮影していたのですが、森の中の撮影も多かったんです。一菜ちゃんもさっき言っていましたが、「こんなところにカニがいるよ〜」とか「カエル捕まえた」とか、そういう自然の中での出来事が楽しくて印象に残っています。
あとロケ場所の近くでお祭りがあったんです。撮影が終わって疲れていたけれど「せっかくだから行こう」と、スタッフと一菜ちゃんと一緒にお祭りへ出かけて、屋台も行きました。楽しかったですね。
――大沢さんは印象に残っていることありますか?
大沢:撮影で鳥取砂丘へ行ったんです。鳥取県はすべてが砂丘だと思っていたんですが、違いました(笑)。でも初めて砂丘へ行って、歩いたり、座ったりしたとき、すごく気持ちよかったです。
綾瀬:確かに砂丘は良かったですね。撮影は早朝だったので、日がどんどん上がって景色が変わっていくんですよ。そんな中、撮影する場所まで足跡が一つもない砂の上を歩いて……。とても気持ちよかったです。
綾瀬さん「のり子は良くも悪くも行動力がある!」
――のり子もハルも一言では言い表せない不思議なキャラクターですが、綾瀬さんと大沢さん、それぞれの役の魅力と、直したほうがいいと思うところを教えてください。
綾瀬:ハルのお母さんと「ハルを連れてくる」という約束をしてすぐに行動に移す。その行動力はすごいし面白い人だと思いました。でもその反面、職場放棄をして、スマホを捨てちゃって、車も盗んじゃうところは直したほうがいいですね。車まで盗まなくてもよかったんじゃない? と思いました(笑)。
大沢:感情を表に出さないハルが心の中で「お母さんに嫌われたらどうしよう」と思うほど、お母さんのことが大好きなところがいいなと思いました。直したほうがいいところは……急にいなくなるところ。
綾瀬:確かに! 急にいなくなったよね(笑)。
映画館のベスポジは一緒の二人
――All Aboutでは取材した方に、好きな映画や映画館の好きな座席(ベスポジ)を聞いているのですが、綾瀬さん、大沢さんは映画館にはよく行かれますか?
綾瀬:最近は全然行っていないですね。エマ・ストーン主演の『哀れなるものたち』 を映画館で見たのが最後だと思います。好きな座席はやっぱり真ん中で、真正面から見たいです。
大沢:『変な家』を見に行きました。座席は綾瀬さんと同じで真ん中です。前のほうの席だと首が痛くなりそうだからです。
綾瀬:『変な家』怖かった?
大沢:怖かった! 怖すぎて友達が大声出していました(笑)。
―最後に完成した映画を見た率直な感想をお願いします。
綾瀬:のり子とハルが出会う人々はみんな魅力的ですが、生きているのか死んでいるのか分からないんです。でも生死の境を曖昧にすることで「死ぬことを怖がらなくてもいい」と思えたり「生きるっていいな」と感じたり。とても温かい気持ちになれる作品になったと思いました。
でも最初に試写を見たときの率直な感想は、あるシーンで登場する“魚”が想像以上に大きくて驚きました(笑)。
大沢:撮影しているときは、台本を読んでいるからどういう人が出てくるかとか、登場人物のことを分かっていたつもりだったけど、映画で見たらみんな不思議で、みんなかわいかったです。
綾瀬はるか(あやせ・はるか)さんのプロフィール
1985年3月24日生まれ。広島県出身。2000年デビュー。主な出演映画『僕の彼女はサイボーグ』『ザ・マジックアワー』『ICHI』『ハッピーフライト』(いずれも2008年)で第20回山路ふみ子映画賞新人女優賞、第21回日刊スポーツ映画大賞主演女優賞を受賞。2009年『おっぱいバレー』で第52回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。2015年『海街diary』で第70回毎日映画コンクール女優主演賞、第37回ヨコハマ映画祭主演女優賞などを受賞。近作は『はい、泳げません』(2022)『レジェンド&バタフライ』『リボルバー・リリー』(いずれも2023)。大沢一菜(おおさわ・かな)さんのプロフィール
2011年6月16日生まれ。東京都出身。2022年『こちらあみ子』で映画デビュー。本作で第36回高崎映画祭最優秀新人俳優賞を受賞。その後、ドラマ『姪のメイ』(2023/テレビ東京)ではタイトルロールのメイで主演。配信ドラマ『季節のない街』(2023年/Disney +STAR)など。またRM(BTS)のMVにも出演するなど、世界中から多くの注目を集めている。『ルート29』2024年11月8日より全国ロードショー
鳥取の町で掃除員として働いている中井のり子(綾瀬はるか)は、掃除の仕事で入った精神病院の患者・理映子(市川実日子)から「もうじき私は死にます」と話しかけられ、姫路にいる娘のハル(大沢一菜)を連れて来てほしいと頼まれます。のり子は衝動的に掃除会社のワゴン車を盗んで姫路へ向かい、渡された写真をもとに、森の中でハルを見つけ出します。そこからのり子とハルは国道29号線をたどりながら、鳥取を目指すのですが……。
監督・脚本:森井勇佑
原作:中尾太一『ルート29、解放』(書肆子午線刊)
出演:綾瀬はるか、大沢一菜、伊佐山ひろ子、高良健吾、原田琥之佑、大西力、松浦伸也、河井青葉、渡辺美佐子、市川実日子
撮影・取材・文:斎藤香
(文:斎藤 香(映画ガイド))