三吉さんは朔也の母親の友人・三好を演じています。過去のトラウマから人に触れることができないキャラクターをどう理解して演じていたのか。脚本を読んで感じたことから伺いました。
「直感で『今の私に必要な作品だ』と思った」
――最初にこの映画の脚本を読んだときに感じたことから教えてください。三吉彩花さん(以下、三吉):出演依頼をいただくと同時に脚本も拝読しました。私が演じた役は三好彩花という名前で、私の名前と漢字一文字違い。まずはそのことに驚き、ご縁を感じました。
脚本を読んだあと、原作小説も読んだのですが、当時の自分にリンクするものを感じたんです。舞台は少し先の日本。テクノロジーは驚くほど進化していますが、そんな社会の中で人間の本心ってなんだろうと考えさせられる物語で、直感で「今の私に必要な作品だ」と思ったんです。
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三吉:三好は過去のトラウマから人に触れることができない女性なんです。ガードが堅く、常に自分で自分を守ろうとしていますが、他人を拒絶しているわけではなく、なかなか気持ちを伝えることができないのです。彼女はそのことに苦しんでいますが、本当は芯のある強さと優しい心を持った女性だと思いました。
役の苦しみと向き合いながらの撮影だった
――公式のインタビューで、撮影中は少し苦しかったと語られていますが、どういうところが苦しいと感じたのでしょうか?三吉:三好が抱えるコンプレックスや思い出したくない過去を考えるとつらくて、そんな彼女の心を自分に取り込んで体現することはとても難しいと感じました。
また過去のトラウマから人に触れることができないので、動きが制限されるのですが、だからこそ小さな動き一つひとつがとても大切なんです。そこに意味を持たせなければならなくてとても悩みました。三好に共感できるところもあったのですが、共感しにくい面もあり、心身共に「難しい」と考えながら演じていました。
――役とはいえ、苦しい過去と向き合うのは俳優としてもつらいですね。
三吉:役の“本心”を見つめながら「私の“本心”はどうなの?」と考えたりしましたし、自分のコンプレックスと向き合わないとこの役は演じられないと思いました。
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――共感できるところとできないところというのは?
三吉:誰もが何かしらコンプレックスを抱えていると思うんです。その殻を破ったり、乗り越えたりというのは簡単ではないということは共感できました。でも、三好は他人に触れられないので、コミュニケーションを取るとき、とても慎重に段階を踏んでいかなくてはいけない。そこは自分と違う点だと思いました。
VFでよみがえらせるとしたら?
――石井監督とのお仕事はいかがでしたか?
三吉:石井監督と池松さんは何作も一緒に映画を作られているので、あ・うんの呼吸があって、撮影現場は安心感がありました。石井監督の中で朔也や三好に対する明確な意図があり、演出にも一本筋が通っていて的確な指示をしてくださったので、私も迷うことなく取り組めました。
――池松さんと田中裕子さんとは初共演だと思いますが、一緒にお芝居をした感想を教えてください。
三吉:田中さんは朔也のお母さんとして、ずっと温かい雰囲気をまとっていらっしゃって、あの雰囲気は田中さんご自身のお人柄ゆえだと思いました。池松さんは、この映画の座長として客観的な視点で現場を見ている印象がありました。一緒のシーンが多かったので、とても頼れる存在だったし、ありがたかったです。
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――この映画では朔也が「亡くなった母の本当の気持ちを知りたい」とVFでよみがえらせますが、これが現実にあったら、三吉さんはVFで会いたい人はいますか?
三吉:いないですね。興味はありますが、少なくとも人間や動物はVFで再現させたいと思わないです。例えば頭の中で「おじいちゃん元気かな、会いたいな」とか「かわいがっていた猫に会いたいな」と思って、脳内でよみがえらせることはありますが、それで十分。
基本的に人間関係はアナログであるべきだと思っていますし、人間同士でちゃんと向き合って、いい関係を構築していきたいです。
でも、とても美しい景色とか、行ったことのない外国とか、そういうものはVFで見てみたいと思います。
経験は宝物。無駄なことは一つもない
――『本心』は三吉さんにとって、心身共に削られるような作品だったようですが、この映画に出演して、ご自身の中で成長したこと、学びになったことはありますか?
三吉:これまで出演してきた作品、似ている役というのは一つもなく、アクション作品も、歌って踊るミュージカル作品も、撮影に入るときはいつも「どうしよう、どうしよう」と毎回悩んでしまうんです。
でもどの作品も自分にとっては必要で、糧にならないことはないと思います。楽しいことも、苦しいことも、無駄なものは一つもない。今回の作品は、とても難しかったし、自分はいっぱいいっぱいの状態でしたが、この映画に自分が関われたことは喜びですし、次の作品でこの経験は絶対に生かされると思います。
――三吉さんは、例えば『ダンスウィズミー』ではミュージカル、Amazon Original『ナックルガール』ではアクションなど、フィジカルもメンタルもチャレンジングな作品への出演が多い印象があります。それは三吉さん自身が“挑戦できる作品”を、あえて選んでいるのでしょうか?
三吉:そう言われればそうですね(笑)。“挑戦”という強い気持ちを持って臨まないと乗り越えられない出演作が多いかもしれません。でも意識しているわけではなく、ご縁があったんだと思います。個人的には、いろいろなタイプの作品に関わっていきたいし、特にアクション作品は今後もやっていきたいです。
海外作品への挑戦も視野に入れて……
――モデルとしても活躍されていますが、今後、モデルと俳優、どちらかに軸足を置くことなど考えていますか?
三吉:まったくないです。モデル、俳優だけでなく、私は表現することにすごく興味があり、歌を歌っていたこともありますし、ミュージカル、写真、いろいろな表現方法にチャレンジしてきました。
今後のことはまだ分からないのですが、流行りが移り変わっていくのと同じように、興味があるものも変化していくと思うので、アンテナを張り巡らせつつ、柔軟性を持って取り組んでいきたいです。
――俳優として、具体的にやってみたいことなどはないですか?
三吉:海外の作品にも関わっていきたいです。その準備はこれから頑張ってやっていかないといけないと考えています。アジア圏の作品にも興味がありますし、その世界に自分も入ってみたいという気持ちがあります。
ターニングポイントは20歳のときの初写真集
――三吉さんにとって、今の自分につながるようなターニングポイントになった出来事やお仕事はありますか?
三吉:出演した作品ごとに刺激も学びもあるのですが、一番は20歳になったときに出版した初めての写真集『わたし』(文藝春秋刊)です。
全てインドで撮影をしたのですが、そのときに見た景色が印象深くて。また10代は、がむしゃらに突っ走ってきたけれど、20歳になったら自分が求めるものと求められるもののバランスを取りながらやっていかなくてはいけないのだろうな……と思った記憶があります。
10代から20代へ、大人の女性へと変わっていくタイミングでうそ偽りのない自分を表現できた写真集なので、20歳という年齢とこの写真集は私のターニングポイントです。
マーベルもコメディー映画も大好きです!
――All Aboutでは俳優さんの映画生活をお聞きしているのですが、三吉さんは映画館へ行きますか? 好きな席はありますか?三吉:席は絶対に一番後ろの席を選びます。空き状況で変わることはありますが、一番後ろからスクリーンを見るのが好きなんです。
――最近は何か映画をご覧になりましたか?
三吉:『デッドプール&ウルヴァリン』、面白かったです。マーベル作品もコメディー映画も大好きです(笑)。
――最後に完成した『本心』を見た感想をお願いします。
三吉:撮影しているときは、これまで経験したことがないくらい心身共に削られたと感じていたので、完成した映画を見るのが不安だったんです。
でも試写で見たとき「本心ってなんだろう」とずっと考えていたことの答えを見いだせた気がしました。ぜひ多くの方に劇場で見ていただきたいです。
三吉彩花(みよし・あやか)さんのプロフィール
1996年6月18日生まれ。埼玉県出身。2010年、雑誌『Seventeen』(集英社刊)の専属モデルに抜てきされる。同雑誌の卒業後も女性誌、ファッション誌のモデルやファッションショーなどに多数出演。2012年『グッモーエビアン!』で第67回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。2013年『旅立ちの島唄〜十五の春〜』で第35回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。近作はNetflixドラマ『今際の国のアリス』(2020、2022)Amazon Original『ナックルガール』(2023)『先生の白い嘘』(2024)。
『本心』2024年11月8日(金)より全国ロードショー
「大事な話があるの」。そう言い残して急逝した母・秋子(田中裕子)が、実は“自由死”を選んでいた。どうしても母の本心が知りたい朔也(池松壮亮)は、AIを駆使して仮想空間上に“人間”を作る技術VF(ヴァーチャル・フィギュア)の存在を知り、開発者・野崎(妻夫木聡)に依頼をして母をよみがえらせる。
朔也は、VFの母、母の親友・三好(三吉彩花)と共に、他愛もない日常を取り戻すが、VFは徐々に“知らない母の一面”をさらけ出していく……。
原作:平野啓一郎『本心』(文春文庫/コルク)
監督・脚本:石井裕也
出演:池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、綾野剛、田中泯、妻夫木聡、田中裕子
(C)2024 映画『本心』製作委員会
撮影・取材・文:斎藤香
(文:斎藤 香)