ほぼ10年ぶりに国際ラリークロスのトップカテゴリーを迎え入れたトルコのイスタンブール・パーク・サーキットにて、11月9〜10日にWorldRX世界ラリークロス選手権の最終戦ダブルヘッダーが開催され、初日の予選ヒート2にて“絶対王者”ヨハン・クリストファーソン(KMS・ホース・パワートレイン/フォルクスワーゲン・ポロKMS 601 RX)が、早くも今季のチャンピオンを確定させることに。
これで前人未到のシリーズ7冠に到達したチャンピオンを尻目に、本戦ではふたりの初優勝者が誕生し、土曜は王者の僚友を務めるオーレ・クリスチャン・ベイビー(フォルクスワーゲン・ポロKMS 601 RX)が。続く日曜は出場経験わずか7戦というワイルドカード参戦のユハ・リトコネン(PGRX/ヒョンデi20 RXスーパーカー)が最大のサプライズを成し遂げ、戴冠直後のクリストファーソンや2019年世界王者のティミー・ハンセン(ハンセンWorldRXチーム/プジョー208 RX1e)らを撃破してみせた。
世界選手権の初期の頃にボスポラス海峡を渡って以来、ひさびさのWorldRX開催となったイスタンブール・パークは、今季2024年より導入された持続可能燃料採用の内燃機関(ICE)搭載モデルと、電動最高峰のRX1eによる“バトル・オブ・テクノロジーズ”の最終決戦の舞台となった。
すでにここまでの8ヒート中で5勝を飾り、ランキング2位に対し46ポイント差という大きなマージンを築いているクリストファーソンが、どの段階でFIA世界選手権タイトルを獲得したF1の英雄、ルイス・ハミルトンの偉業を再現するかに注目が集まるなか、ヒート1でニクラス・グロンホルム(CEディーラー・チーム/PWR RX1e)に続いて2位でフィニッシュすると、続くヒート2でケビン・ハンセン(ハンセンWorldRXチーム/プジョー208 RX1e)を撃破。その瞬間に、歴史的な記録達成が確定した。
「もう終わったの? 知らなかったよ!」と直後にニュースを聞いたクリストファーソン。
「ここでチャンピオンシップを獲得するなんて、信じられないシーズンだった。とても楽しかったし、素晴らしいバトルがたくさんあった。今年はなんて素晴らしい1年だったんだろう。実感が湧くまでには時間が掛かるだろうが、7度の世界選手権タイトル……ただただスゴいね!」
これで週末のミッションを達成したクリストファーソンは、セミファイナルでチームプレーを展開し、追走集団をバックアップしてベイビーの勝利に貢献。これにより、予選終了後ランキング最下位に沈んでいたノルウェー出身の僚友をファイナルのグリッド最前列に押し上げた。
ここまでスタートに苦心していたベイビーだが、重要な局面で持続可能な燃料で走る内燃エンジン搭載マシンを教科書どおりに発進させ、ポールシッターのケビンを抜いて13回目の表彰台フィニッシュを果たし、待望の初勝利を収めた。
■“絶対王者”不在の表彰台は3年ぶり
「ケビン(・ハンセン)と僕が予選で少し戦いすぎたため、その日の始まりはあまり良くなかったが、準決勝ではヨハン(・クリストファーソン)の助けを借り、決勝ではスタートを決めた」と振り返ったベイビー。
「レース前に自分に言い聞かせたんだ。『さあ、今がその時だ。このレースに勝たなくちゃ!』ってね。僕らのペースは本当に良く、KMSのクルーたちが無線で僕を落ち着かせてくれた。長い間、全力で取り組んでくれたチームのみんなに感謝したい。この結果を3年間追い求め、前回のポルトガルではあと少しだった。ようやく手にできて最高だ!」
グロンホルムに続き3番手でチェッカーフラッグを受けたチャンピオンだったが、コミュニケーションミスによるジョーカーの失敗で6位に降格する珍しいミスがあり、ケビンが最後のポディウムを獲得してランキング2位の座を固めた。
「とても楽しかった。パートナー、デザイナー、メカニック、エンジニア、そしてチームメイト全員に心から感謝する。全員が素晴らしい仕事をしてくれて、完璧な1年になった」と、改めて喜びを語った35歳のクリストファーソン。
「このチームには優秀な人材がたくさんいる。信頼性が高く、ドライブしやすいクルマを用意し、万全の準備でシーズンに臨んだ。これで7回目のワールドチャンピオンシップタイトル……やはり実感を得るにはしばらく時間が掛かるが、本当にスゴいね!」
こうしてスウェーデン、ノルウェー出身ドライバーが躍動した土曜に続き、明けた日曜は最高峰への出場が約3年ぶりというフィンランドはスオネンヨキ出身のリトコネンがセンセーショナルなパフォーマンスを披露した。
朝のウォームアップに続きヒート1で素晴らしいスピードを再現して勝利を収めると、ヒート2こそ最初のコーナーの出口でバリアに押し込まれ失敗したものの、強い雨の降るセミファイナルで圧倒的な勝利を収め、非常に重要なファイナルで最前列グリッドの席を獲得してみせた。
ここでポールシッターのベイビーがふたたびトラクションを掛けられずに遅れると、トップに躍り出たリトコネンがクリストファーソンの早い段階での挑戦を掻い潜り、後続に3秒以上の差をつけフィニッシュしてみせた。
「言葉が出ないほど驚いている」と、2020年に地元コウヴォラで世界選手権デビューを飾った際も、表彰台に登って感銘を与えた33歳のリトコネン。
「僕を信頼してくれたチームに心から感謝したい。昨日は僕たちにとって厳しい一日だったが、今日はずっと良くなった。決勝でふたりの世界チャンピオンに勝てたことは本当に特別な気持ちだし、素晴らしいよ!」
これで2021年以来初めて、クリストファーソンが表彰台のトップに立つことなく週末を終えたことになったものの、家族経営のKMSはチーム部門の世界選手権で王座防衛を成し遂げることに。来季2025年のWorldRXは、既報のとおり1月23〜25日までカナダのトロワリビエールにて、シリーズ初のアイスレース・イベントで幕を開ける。