2023年にスーパーGT、スーパーフォーミュラでダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の宮田莉朋選手。2024年は海外に拠点を移してFIA F2、ELMS(ヨーロピアン・ル・マン・シリーズ)に参戦しつつ、WEC(FIA世界耐久選手権)でテスト・リザーブドライバーを務めています。
第10回となる今回のコラムでは、ELMS最終戦での優勝、そしてハースF1とトヨタ/TGRの提携発表を宮田選手はどのように受け止めたのか。F1への想いをじっくり語りました。
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みなさん、こんにちは。宮田莉朋です。10月のELMS最終戦ポルティマオ、優勝することができました!
開幕戦以来の勝利、本当に嬉しかったです。マルテ・ヤコブセン選手、ロレンツォ・フルクサ選手という、今季戦ってきたメンバーでの最後のレースということで、レース前には「これで勝って終わることができたら最高だね」と話していたのですが、まさかそのとおりになるとは……。
ポルティマオというコース自体、チーム(クール・レーシング)が得意にしていて、今季悩まされてきたタイヤの剥離が起きる可能性が低いトラックだというのは事前に分かっていたので、開幕戦のバルセロナのような力強いレースはできるだろうと予想はしていました。
今年の僕らはフリー走行で調子が良くて、予選でちょっと順位を下げ、そこから決勝でポジションを上げる、というのが定番の流れになっていました。バルセロナのときも5番手からスタートして優勝、トラブルが出るまで首位だった第2戦ポール・リカールも6番グリッドからの追い上げでしたから。
それが今回は、予選でマルテ選手がフロントロウを獲得してくれるという初のケースで、ちょっと戸惑いもあったのですが(笑)、もちろん2番手スタートならクラッシュに巻き込まれるリスクも減りますし、表彰台・優勝争いができるのではないか、という期待を込めてレースに挑みました。
いつものとおりロレンツォ選手でスタートし、僕は2番目。自分のスティントはセーフティカーから始まったのですが、前戦のムジェロではリスタートで接触してしまうという苦い思い出が……。
今回、自分が乗った時点では3番手を走っていましたが、首位のクルマにペナルティが出ていることは知っていましたし、前を行く2番手のクルマはレースペースがあまり良くなく、そのときはシルバードライバーが運転していたので、なるべく早く抜いて後続とのリードを広げたいという考えがありました。
前回は接触してしまったものの、リスタート自体は非常に良かったと思っていたので、その感覚は再現したかった。実際、今回のリスタートは狙いどおりうまく決めることができ、2番手の車両を抜くことができたので、課題をひとつクリアできたな、と感じました。
そのあとはタイヤをマネジメントしながら燃費も稼ぎつつ、レースを進めることができました。ポテンシャル的には自分のなかで今年一番手応えを感じられるレースになりましたし、去年日本で走っていたときのような『今回はいけるな』という感覚を感じながらレースをリードできました。自分としてはベストな走りができたと思います。
ELMSの今季を振り返ってみると、自分にとっては自信につながるものが多かったかなと感じます。
日本からヨーロッパに出ていくことは、本当に大きな挑戦です。言葉も違えばチームの取り組み方も違うなか、僕は『パッと乗って、パッと合わせる』というよりは、じっくりと見て・進めていきたいタイプ。開幕戦で勝てたことは良かったですが、その後はいろいろなトラブルが起こり、なかなか結果が出なくて辛い時期も長くありました。
でも、最終戦ではもう一度最高の形で優勝を味わうことができて良かったですし、クール・レーシングとふたりのチームメイトには感謝しかありません。そしてもちろん、後押ししてくれたモリゾウさん、TGRの皆さんにも、感謝の気持ちでいっぱいです。
LMP2は全車、マシンもタイヤメーカーも同じ。性能調整もなく、タイヤのコンパウドさえも共通の、完全にガチの戦いです。いままで僕はそういった世界をシングルシーターでしか経験できていなかったので、当初はスーパーGTなどでの経験が本当にELMSで通用するのか、不安な部分がありました。
そのなかで2回の優勝を通じて自分の実力を再確認できましたし、日本で経験したことが活きるということも分かりました。ガチのレースで勝てるという感覚がつかめ、クルマ、サーキット、自分のドライビングなど全部の要素が噛み合えば、耐久レースをちゃんと戦えるんだと自信が持てました。
また、ELMSにはWECでハイパーカーに乗っているドライバー、かつてLMP1に乗っていたドライバーも数多く出場しています。彼らと競り合い、ときには前に行ける経験ができたのも大きかったですし、この先も戦っていけると思っています。
ちなみに今回の優勝でランキング3位に入り、翌日の夜のシーズン表彰式に、急遽出席することに。フライトも変更して、その日の昼間にショッピングモールでマルテ選手と一緒に正装を買いにいき、日本では考えられないくらいハデなセレモニーにも出席してきました(笑)。これもいい思い出になりましたね。
■トヨタとハースF1の提携を受けて感じた感謝とF1への強い憧れ
さてここからは、先日発表されたTGRとマネーグラム・ハースF1チームとの提携合意について、僕の思うところをお伝えしたいなと思います。
正直なところ、これまでは4輪に上がる若手ドライバーのなかに『ホンダに行けば、F1につながる』という思いがあったかと思います。
もちろん昨年来、平川(亮)さんがF1マクラーレンのリザーブドライバーになり、僕がFIA F2に参戦ということで、トヨタ/TGRでも徐々にF1に向けた関係性が具体化していました。それが今回の発表で、これからの若い世代の子たちが『トヨタでもF1に乗れるかもしれない』と感じることができ、チャンスが広がったことがとても嬉しいです。
僕はこれまでずっと、将来の夢を「F1です」と言ってきたましたが、正直なところ「なぜトヨタを選んだの?」と聞かれることも多くありました。
でもそれは、僕の師匠である高木虎之介さんが言ってくださった、「速ければ、みんなが見てくれている」という言葉の影響が大きいです。
虎之介さんからは、「俺は速さがあったから、たまたまF1というチャンスが生まれた。もちろん、F1に参戦しているメーカーにいたら可能性は広がるけど、ずっと速さを見せ続ければ、そのメーカーが活動していないカテゴリーでも、絶対に辿り着くから」という言葉をいただきました。そのとき僕は13歳で、トヨタのオーディションを受けるか、ホンダのオーディションを受けるかという、自分の人生における大きな決断を控えていました。
結局、カート時代から支援してもらっていたこともあり、虎之介さんの言葉を信じてトヨタのオーディションを受けることにしましたが、その後もずっと「F1が夢です」「F1に行きたいです」と、事あるごとに口にしながらレースを続けてきました。
そして今、その可能性が広がったことを感じています。今回のハースとの提携を聞いて、一番によぎったのは感謝の念でした。僕がF1に乗れるかどうかは別として、『ドライバーに寄り添ったモリゾウさんの想い』には、本当に感謝してもしきれません。
僕自身としては、ヨーロッパに来て以来、周りの人々が想像以上に自分の実力を評価してくれていることを実感しています。僕が「いやいや、そんなに良く言ってくれなくてもいいから」と思うくらい、ちゃんとドライバーとして評価してもらえている。
とはいえ、今回の提携が発表されたからといって、それをきっかけに僕の周りが盛り上がるということはなくて、むしろ普通のテンションで「(いつかはF1に)乗るんでしょ?」と、周囲の方々は言ってくれます。そう言われるたびに、僕としては、どうリアクションしていいか困る言葉でもありますが(笑)。
さて、FIA F2は残り2ラウンド、12月にカタール、アブダビの連戦が控えています。
11月上旬のWECバーレーン戦に帯同しなかったのは、F2の残りのレースに集中するためでもありました。僕としては今できることに集中して努力を続けていくしかないですし、来年につながるレースにしたいと思っています。もう一度、環境を見つめ直して臨みたい2ラウンドなので、見つめ直したなりの結果が出るようにしたいと決意しています。引き続き応援のほど、よろしくお願いします!
⚫︎今月の“リトモメーター”
三刀流+moreとして世界のさまざまなサーキットを訪れる2024年の宮田選手の移動距離を、フライトマイルで計測。ご本人のアプリのスクショを公開させていただきます。
⚫︎2024年累計
85回の搭乗
136,647マイル(219,912km)
搭乗時間:343時間57分