認知症の父が母を虐待、夫の実家でも……
「ここ2年ほど、うちは大変な状況になっているんです」そう言うのはワカコさん(48歳)だ。同い年の夫との間には18歳の息子、15歳の娘がいる。ふたりとも受験生のため、ただでさえ親も忙しい。ワカコさん夫婦は共働きである。
「私は中部地方、夫は北海道の生まれなんですが、どちらも親がいろいろあって」
最初はワカコさんの父親が軽い認知症と診断されたところから始まった。父は現在80歳、母は70代後半だ。ワカコさんには姉がいるが結婚してもっと遠方に住んでいる。
「うちから実家までは2時間ほどかかりますが、土日のどちらかは私が実家に行って両親をケアしていたんです。でもだんだん父が母を束縛するようになっていった」
「アイツとできているのか!」と叫ぶ父
母が買い物に行くと「浮気していたんだろう」と責める。それならと買い物に連れていくと、母がスーパーの店員と挨拶しただけで「アイツとできてるのか」と大声で叫ぶ。ワカコさんはふたりきりにしておくのは危険だと判断、病院や自治体と連携してヘルパーさんに来てもらおうとしたのだが、両親ともに「他人を家に入れるのはいや」と言い張る。ところがそのうち、母が「おとうさんに殺される」と言いだしたので、有無を言わさずヘルパーさんに来てもらい、週に数日、父をデイケアに預けることにした。
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姉には電話で事情を話したが、自分の目で見ていないにもかかわらず「あんたに親を任せられるのかしら。心配だわ」と言い出した。そんなに心配なら、お姉ちゃんがお父さんを引き取ったらどうよと言うと、姉は黙り込んだという。口を出すなら労力も提供しろと言ったら、姉は連絡してこなくなった。
今度は夫の親に認知症の気配が……
父に施設に行くよう説得していた昨年秋、今度は夫の両親に問題が起こった。義父が転倒して骨折、入院治療している間に、やはり認知症の気配が出てきたのだ。「義母は義父がいないと何もできないタイプ。夫はひとりっ子なんです。相談できる親戚もいないため、夫は週末を使って実家へ戻り、今後のことを段取りしてきたと言っていました」
ところがその後、義母が近所の人の宗教がかった投資話にはまってしまい、気づいたときは貯金もほとんど切り崩していた。老後、何かあったときのためにと貯めていた1000万円を貢いでしまったらしい。
「その近所の人を探したけど、すでにどこかに越したあと。もともと義母が仲良くしていた人でもなかったらしいんです。ダンナさんの病気が治るよとか、この健康食品で認知症はよくなるとか言われたようです。詐欺だと思うんだけど、義母に騙された気持ちがないみたいで……」
夫がいない不安と寂しさで、義母は精神的なバランスを欠いていたようだ。義父はそのままリハビリ病院に転院が決まったため、義母のひとり暮らしはさらに続きそうだった。
「今年のお正月明けに、夫が『おふくろを引き取ろうと思う』と言うんです。ちょうどそのころ、うちの父が母を外まで追いかけ回して近所の人にまで暴力をふるうという事件があったので、私も父と母を別居させなければダメだと思っていた。うちもこういう状況だし、あなたがおかあさんを引き取るなら、私だって母を引き取りたいと言いました」
ただ、ワカコさん一家はマンション住まいで、余分な部屋などない。どちらかひとりだって引き取れないのが現状だとふたりとも気づいた。
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互いの両親が要介護状態になったらどうする
最優先は「この家庭だよね」と一致した。そのために親のことは協力しあって最善の道を探ろうということになった。「結局、父は春から施設に預けました。母はひとりで暮らすようになって、生き生きしています。義父はなんとかひとりで歩けるようにはなったので、家に戻ってヘルパーさんに来てもらいつつ自宅療養しています。義母が張り切りすぎて、つい先日倒れたりもしましたが、義父母はなるべく夫婦一緒にいるのがいいみたいです」
高齢になってから引き離したほうがいい夫婦、一緒にいたほうがいい夫婦に分かれるのかもしれない。いずれにしても現役世代は、自分たちにとって最優先事項を把握しておいたほうがいいのだろう。人生100歳時代と言われるが、100歳で自活している人などごくごくわずかなのである。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))