三上博史「反面教師で構わない…あんなダサいことは絶対したくないというのでも。本気でやってるのは見せないと」 20年ぶりに歌う、伝説のヘドウィグ

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2024年11月16日 07:30  まいどなニュース

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高校在学中、寺山修司監督・脚本のフランス映画『草迷宮』で俳優デビュー。寺山さんから「お前は俺の演劇に出なくていい」と言われ、演劇は向いていないのだと思い、長らく避けていたという (撮影:加藤アラタ)

ロック・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の日本初演(2004年)、2005年の再演で、観客を興奮の渦に巻き込んだ三上博史さん演じるヘドウィグ(※注)。今回、20周年を記念した、PARCO PRODUCE 2024『HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】』に出演する三上さんに、その思いや構想について取材した。

【写真】今も変わらず、三上博史さんらしさが!

1980年代から数々のドラマや映画、舞台でも幅広く活躍し、長年音楽活動も継続。彼がまさにステージの上でヘドウィグとして存在し、セクシーかつチャーミング、パワフルな存在感を放っていた舞台は当然話題となり、即完売するプラチナ・チケットに。

今回、新たなライブ・バージョンで届けるステージは、11月26日にPARCO劇場で開幕し、京都・仙台・福岡でも上演される。愛と自由を得るために性転換手術し、失敗したヘドウィグの物語を歌で紡ぐ三上博史さん。ヘドウィグの世界を今どのように捉えているのか。最後は思いがけず、涙を流しながら色々と語ってくれた。

鮮烈な日本初演は客席側の熱量もすごかった

――『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』との出合いは?

40歳で役者稼業を引退しようかなと思っていたとき、舞台『青ひげ公の城』(2003年)に出演。「こんなに自由に泳げる場所があるんだ」と、演劇に気持ちが傾倒していったその公演が終わり、アメリカ西海岸にある自分のアパートに帰った後、小さな町でたまたま『ヘドウィグ――』の舞台を観たんです。

なんの予備知識もなかったけど、音楽だけはすごく印象に残りました。オリジナルキャストとはずいぶん離れた舞台でしたが、20代30代にやってきた自分のバンドで、このグラムっぽい楽曲をやったらすごくいいだろうなと。それで、日本で皆さんにその舞台のことを話してはいて、その後紆余曲折があり、僕に出演依頼がきたんです。「あのとき、歌いたいと思ったな」と、1年目、そして2年目とやらせてもらうことになりました。

本当に自由に泳ぐようにやれて、手応えもあり、客席側の熱が舞台の上の僕にも伝わるぐらいどんどん増殖し、盛り上がっていきました。でも3年目となると、「もうできないよ」って。しんどいのもあったけど、いろんな人のヘドウィグも観てみたかったしね(笑)。

――三上さんが“日本版ヘドウィグ”の扉を開き、その後もこの舞台は観客から熱狂的に迎えられ、上演が続いていきましたが、その様子をどのように感じていましたか?

「いろんな人のヘドウィグを観たい」と言いましたけど、実は誰のも観たことがない! それぐらい(ほかの人のヘドウィグに)興味がないです(苦笑)。でも、オフ・ブロードウェイの作品が、日本でメインストリームな作品になっていくのは、すごくいいことだと思う。日本はそういう壁、線引きがないのがおもしろい。やっぱりどこの国でも、“オフオフ”は“オフオフ”だから。エンターテインメントとしてマジョリティが取れる国って、すごいなと思います。

――2005年以来のヘドウィグとなりますが、今の心境は?

待ってくれている人がいるし、がっかりさせたくない。ただ、当時は10cmの高さのピンヒールでやっていたけれど、今日靴の打ち合わせをして、それはちょっと無理だろうと。

最初「20周年の祭りだから、曲を披露するだけでもいいのでは」とお話をいただいたのですが、そうやって考えると、20年前の「楽曲をやりたかった」というところに戻るんですよね。

今回は、その後もずっと付き合いのあるミュージシャンたちと出演します。一人、ギタリストだけ新メンバーが入っているのですが、あとは全く同じです。みんな同世代の僕の仲間たちで、20年分の彼らの人生が出るので、深みは増しているし、おもしろいことになるはず。

ライブ・バージョンとはいえ、ヘドウィグの進化した扮装を

――ヘドウィグの扮装をどこまでされるのか、やはり気になるところです。

20周年に三上博史がヘドウィグを歌うということで、シンプルな形でもいいのかもしれないけど、それでは皆さんが許さないだろうと。何を見たいか、手に取るようにわかるんですよ(笑)。だから扮装はします! 進化しています。20年前、すでにヘドウィグは世界的に認知されていて、それぞれの国にそれぞれのヘドウィグがいたんですよ。サイバーパンクになっていたり、ヘビメタでやっていたり。僕は東京、日本のヘドウィグというのをクリエイトしたかったので、世界的にみて独自なヘドウィグだったと思います。

――どういうところを意識していたのでしょうか。

本家の演奏は80’s(エイティーズ)の少しブリティッシュな、あえてペランペランのサウンドを狙っていたと思うのですが、僕らはそれに真っ向から挑むような、重厚な演奏に。重低音のパンクではなくグラムなんだけど、コアな感じでやっていました。それぞれのヘドウィグがあっていいと思うんです。今回は、ちょっと毒のある隣のキュートなお姉さんのような存在。突き放しているんだけど、ものすごくあったかい、そういうものを音楽だけでも届けたいです。

――今回は“ライブ・バージョン”ということですね。

そういう意味では、MCはどうやろうかなと。ヘドウィグは台詞が決まっているから演じられるわけで、アドリブでMCなんてとてもじゃないけどできないし。それでジョン・キャメロン・ミッチェル(本作の台本・オリジナル主演)にメールをしたんです。「20年経って、ヘドウィグはどうなってるのかな? MCで語りたいんだけど」と。すると彼から「中西部の田舎町で、大学の客員教授か何かになってて、愛を教えてるんじゃないの?」って。「それ、すごいおもしろいから書いて!」と言ったら、「僕、時間がない」と言われました(笑)。

この舞台は「TEAR ME DOWN」という曲で始まります。「壊しなさい!」と。何を壊すのかというと、当時で言うならベルリンの壁。ヘドウィグは東ドイツで生まれ、西側に出るために性転換手術をし、その手術が失敗して「アングリーインチ(怒りの1インチ)」が残り、それを抱えたままロックシンガーになっていく。男でも女でもない、この私を倒しなさい!と。

――三上さん自身、その曲から何か感じることはありますか?

今はさらに壁だらけの世の中だなと思います。取りつく島もない分断があるじゃないですか。「私はワクチンを信じてる」「信じないわ」とか。やっぱりすべてSNSから発せられていて、もう見渡す限り壁だらけ。意志の疎通もできない。それをやっぱり“ヘド様”は壊したいんだろうな。

実体験として、歳を重ねていくとどうしても頑固になるのでね。柔軟でいることがどれだけ大事か。すごく素敵な人でも、凝り固まっている人もたくさんいるじゃないですか。ガッカリするんですよね。僕は今、山の中に住んでいるのであまり情報も入らないけど、時々人と話したりするともう……。山の中でも陰謀論とか言っている人がいるしね。お願いだから、僕の前でそういう凝り固まったことは言わないで、と思います。

本気でやっていることが伝わる喜び

――今“ヘドウィグ”を求めている人に、何か伝えたいメッセージはありますか?

とにかく「大丈夫だから! きれいに生きよう、みんな!」と伝えたい。「きれいに生きよう」って、難しい言葉なのですが、僕がずっと思っていること。残りの人生、きれいに生きたいんですよ。妬んだりひがんだり、これ以上に自分を汚したくなくて……。「それは理想論かもしれないけど大丈夫!」ということを、この舞台で最終的に届けたいかな。まあ、3分5分歌ったところで難しいかもしれないですが、「そんなに傷だらけにならなくていいじゃん」と伝えたい。気づかないうちに、にっちもさっちもいかなくなることも多いから。

――それは20年前よりも今気づいた、ということですか?

そう、今だから思うことかもしれない。20年前はもっとギラギラしていたし、そんなことは思わなかったです。今はそういうのは全然ないです。

――人の目が気にならなくなったということでしょうか。

なんていうのかな……揺さぶりたい、というのはあります。反面教師で構わないんですよ。「あんなダサいことは絶対したくない」というのでもいいんです。違う道を見つけてくれればそれでもいい。でも本気でやってますよ、というのは見せないとですね。

今年1月、寺山修司没後40年記念公演『三上博史 歌劇 ―私さえも、私自身がつくり出した一片の物語の主人公にすぎない―』に出演したとき、寺山の膨大な世界をどうやって表現すればいいか、すごく悩みました。公演が始まってからもずっと揺れ動いていて。観に来てくれた友達は「すごい良かったよ」と言ってくれたけど、俺に向かって「最低だよね」とは言えないですもんね。

すると、ちょっとした知り合いの方が、舞台を観た後に「観ていてこの人、信用できるなと思った」と感想をくれたんです。「ああ、やってて良かった。自分はちゃんとやってるんだ。伝わったんだ」と思って………。(涙を拭い、一拍おいて)それで気持ちがラクになったんです。今回、そこまできちんと務められるのか、という不安はあります。やはり気力と体力が要るので。

――今回のライブで目指したいことは?

オリジナルのお芝居の中ではヘドウィグは怒ったりわめいたり嫉妬したりしているけど、脚本を読んでも最後はほとんど芝居はないんですよ。そこはもう音楽で表現できるから、“みんなたち”をヘドウィグの世界へ連れていきたいです。

◇ ◇

三上博史さんが出演し、ロックバンド「アングリーインチ」が演奏する、PARCO PRODUCE 2024『HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】』は、2024年11月26日〜12月8日 に東京・PARCO劇場で上演。その後、12月14日・15日に京都劇場、12月18日に仙台PIT、12月21日・22日に福岡・キャナルシティ劇場で上演される。

※注『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』
ジョン・キャメロン・ミッチェルが台本・主演、スティーヴン・トラスクが作詞・作曲を手掛け、1997年にオフ・ブロードウェイでミュージカル化。2001年に映画化。これまで日本では、三上博史に続いて、山本耕史、森山未來、浦井健治、丸山隆平が演じている。

愛と自由を得るために性転換手術をしたものの失敗し、「怒りの1インチ(アングリーインチ)」が残ってしまったヘドウィグ。男でも女でもない、一体自分は何者なのか――。ステージ上でロックシンガーが一人語りをしながら、アイデンティティーの探求、愛の渇望を驚くようなビジュアルで歌い上げる舞台は、ときに挑発的、ときにユーモラスで、観る人の心をとらえて離さない。

ヘアメイク:赤間賢次郎(KiKi inc.)
スタイリング:勝見宜人(Koa Hole inc.)

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・小野寺 亜紀)

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