2024年も、ドライバーとチーム代表を兼任する形でWEC世界耐久選手権を戦ったトヨタGAZOO Racingの小林可夢偉。自身がドライブする7号車でのドライバーズ・タイトルは逃したものの、最終戦では8号車の逆転優勝もありマニュファクチャラーズ・タイトルを防衛することに成功した。
WEC最終戦バーレーンの翌週に鈴鹿サーキットで行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権第8・9戦の現場では、11月9日土曜の夕方に『可夢偉チーム代表』の凱旋記者会見が行われ、WECの2024シーズンの振り返り等が語られた。さらに質疑応答のなかでは、可夢偉自身の来季のレースプログラムや、1月に控えるデイトナ24時間参戦決断の経緯、さらにアキュラからIMSAのテストに臨むことが発表された太田格之進についての発言もあったので、ここで紹介したい。
■「残念ながら、1戦は出ない」
まずはWECとスーパーフォーミュラに並行参戦する可夢偉の来季のプログラムについて。すでに両シリーズの2025年カレンダーは発表済みだが、SF韓国戦の開催が断念された現時点でも、1イベントが重複している。
スーパーフォーミュラのプロモーターであるJRPは『レース数増加という方針を掲げる中で、他シリーズとの日程重複は避けられない』との姿勢であり、これまで重複を避けてきたWECとも今後は日程がバッティングしていくことが予期される。
「僕ひとりのためだけに日程をずらせ、というのは申し訳ない話なので、そんなことは言いません、もちろん。ただ、被っているということで、今のスケジュールであれば残念ながら1戦は出ない、ということは明確です」と可夢偉。
「とはいえ、僕はこのスーパーフォーミュラで『まず1勝する』という明確なゴールを持っているし、出られる限りはそのチャンスは常にあると思うので、どんな状況でも自分のベストを尽くして早く勝てるように努力していきたいと思っています……が、残念ながら体制発表は12月ということなので、これ以上は言えません!」(※この会見後の13日、トヨタは2024年と不変のWEC2025年ラインアップを発表。SFは未発表)。
■モリゾウ氏の言葉で自身のデイトナ参戦を決断
来季もスーパーフォーミュラ参戦を継続するかは、現時点では正式発表待ちだが、可夢偉は2024年も2シリーズへの参戦とチーム代表業で多忙を極めるなか、NASCARのカップ・シリーズに再び出場するなど、他カテゴリー、とりわけアメリカでのプログラムを指向してきた。
その流れの延長とも受け取れるが、2025年1月のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦デイトナ24時間レースに出場することが、すでにキャデラックから発表されている。
以前にもトヨタでの活動と並行してデイトナに参戦し、2度の優勝経験(2019、2020年)がある可夢偉だが、その際は旧規定『DPi』車両での出場だった。しかし今回はWECではハイパーカークラスのライバルとなるLDMh車両のキャデラックVシリーズ.Rを駆ってのエントリーということで、参戦への障壁は以前よりも高かったものと想像される。
可夢偉も「本来、契約書上ではバッティングしてしまう」案件であると明かしたが、最終的にはモリゾウこと豊田章男トヨタ自動車会長が、その背中を押してくれたという。
「最初、ダイレクトメールで『悩んでいます』と(相談した)。個人的にはもちろん出たい気持ちもあるけども、今の自分の立場やトヨタのドライバーというところ、そしてWECでは同じカテゴリーということで……。でもモリゾウさんからは、『出られるのなら、出た方がいいんじゃない?』という言葉をいただき、自分の中で出るという決断をさせていただきました」
可夢偉はそう参戦の経緯を語ると、「ちょっと嬉しかったのは、いま格之進がアキュラで出ようとしていること」と続け、話題を太田格之進のデイトナ参戦可能性へと向けた。太田はこの会見後の11月15〜16日にデイトナでのIMSA公式テストでアキュラARX-06のステアリングを握っており、発表はまだないものの、開幕戦デイトナ24時間への参戦も期待されている状況だ。
「そもそも僕が初めて出た頃、デイトナって日本では全然知名度がなかった。でも僕が出て、優勝して、J SPORTSさんがライブで配信してくれて……というのを見て、おそらく格之進はひとつの目標としてホンダさんにお願いしたんじゃないかなと考えると、僕がキャデラックで突然出て、優勝したというインパクトが、何かしら日本の若い子らに影響を与えたというのは、個人的には嬉しいです」
これまでも、日本人が世界で活躍することの重要性を身をもって体現してきた可夢偉は、太田が“次世代に向けたヒーロー”になることを望んでいるという。
「ああやって大谷翔平選手が活躍すると、野球選手を夢見る少年が増えると思うんですよ。モータースポーツも一緒で、世界で活躍する日本人が出てくると、それを目指す若い子達が増えるんじゃないかと思う。日本国内でチャンピオン獲るのもすごく大事なことだけど、やっぱり世界に行ってチャレンジして、そこでヒーローになるということは、子どもたちにとってまた違う憧れの対象になるんじゃないかと」
「僕はこのチャンスをいただけて、トヨタの皆さんとモリゾウさんに感謝しています。そして、格之進が今回そこにチャレンジすることが僕としてはさらに嬉しいし、(レースに)出られる機会があったら今度は格之進がもっと若い世代に、モータースポーツの夢のある世界を見せてほしいな、と思います」