名門トリプルエイト・レースエンジニアリング(T8)のウィル・ブラウンとブロック・フィーニー(レッドブル・アンポル・レーシング/シボレー・カマロZL1)の僚友同士が、ともに初のドライバーズタイトルを賭けて争った2024年RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップの最終戦『Adelaide 500』は、週末オープニングヒートをフィーニーが制したものの、終盤にフォード勢をパスしたブラウンが2位に入り、ここでタイトル争いは決着。自身初戴冠をワン・ツーフィニッシュで祝ったブラウンが、明けた波乱満載のレース2で完勝劇を演じ、自らのチャンピオン獲得に華を添える今季5勝目でシーズンを終えている。
名物市街地サーファーズ・パラダイスで10月末に争われた第11戦を経て、迎えた今季最終戦はアデレード市街地が舞台に。そのレースウイークを前に、来季ブロディ・コステッキ(エレバス・モータースポーツ/シボレー・カマロZL1)からシートを引き継ぐ予定のクーパー・マレーが、もうすぐ父親になるジャック・ルブロークの代役として一足早い最高峰デビューを飾ることが発表された。
「彼は準備万端だ。今週末はどんなことがあっても準備してきたと思うし、チャンスを得てすぐにシートも取り付け、どのドライバーよりも戦闘態勢だよ。才能があることはわかっているし、それを控えるように言うつもりはない。彼には、表に出て、挑戦して、我々の代表として活躍するよう言うつもりだ」と語ったのは、ルーキー抜擢を決めたエレバスのCEOを務めるバリー・ライアン。
すでにチームとの新契約を締結済みだった23歳のマレーも「今週末はジャック(・ルブローク)の代わりに9号車の“お守り”をして楽しみたい」との意気込みを語った。
「とても興奮しているが、何よりもまずジャックとマッケンジーに赤ちゃんが無事に生まれることを祈りたい。ふたりにとってとても喜ばしいことだからね」と続けたマレー。
「すでにこのクルマでは3回ほど走ったし、人間工学的にも慣れて快適に過ごせている。マスターシリンダーなどブレーキパッケージが(下部のスーパー2とは)少し異なるけど、慣れなければならないのは小さな数%のみだ。来年に向けてできる限り学びたいが、明日は気温37度で250km……すでに11戦を終えたドライバーたちと違って、厳しい戦いになるだろうね」
■タイヤ交換が遅れるもブラウンがチャンピオンに
こうして迎えた今季最終ラウンドは予選からドラマチックな展開となり、オープニングセッションからリッチー・スタナウェイ(ペンライト・グローブ・レーシング/フォード・マスタング)、キャメロン・ヒル(マット・ストーン・レーシング/シボレー・カマロZL1)、さらにデビッド・レイノルズ(チーム18/シボレー・カマロZL1)らが高速ライトハンダーのターン8出口で壁に激突し、セッションが中止される事態に。
これによりバリアが損傷し、サーキットの夜間外出禁止令が出る前に修復ならず。ウィル・デイビソン(シェルVパワー・レーシング/フォード・マスタング)やチャズ・モスタート(ウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッド/フォード・マスタング)らが、予選トップ10シュートアウト進出を逃す結果となる。
明けた土曜に設定されたグリッド決定戦では、僚友トーマス・ランドルを従えたキャメロン・ウォーターズ(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)が今季7度目のポールポジションを獲得し、フォードが最前列を独占。一方のフィーニーは2列目3番手、ブラウンはその背後の5番手でレース1を迎えることに。
シグナルが消えると、ランドルが最高の蹴り出しを決めてウォーターズの前に出て、そのままオープニングスティントのリードを守っていく。その背後では前方のマット・ペイン(ペンライト・グローブ・レーシング/フォード・マスタング)を早々に仕留めて4番手としたブラウンが、タイトル候補であるチームメイトにプレッシャーを掛けていく。
トラックポジションを獲得するためにT8陣営はフィーニーが先に動き、アンダーカットを狙って真っ先にピット作業へ。首位ランドルと2番手ウォーターズが次のラップで飛び込むも、ここでシボレー陣営の1台に先行を許してしまう。一方、先頭集団では最後の作業となったブラウンは、停車時にロックしてわずかにポジションを外れ、タイヤ交換の遅れを招き痛いロスを喫する。
やはり2回目の給油が長引くことがわかっていたフィーニーは、トップのアドバンテージを広げようと懸命なプッシュを見せると、今度はフォード陣営が先に仕掛けるも挽回ならず。ブラウンはふたたび4台の最後で2回目のピットストップを行い、3番手ランドルの背後へと復帰していく。
ここで奇襲を仕掛けたブラウンは、ターン9のはるか後方からインサイドへ大胆な飛び込みを見せ、ここで表彰台圏内の3番手へ。さらにポールシッターのテールへ迫ると、一気に追い抜いてT8のワン・ツーフォーメーションを完成させることに。これで2022年に続きアデレード市街地での2勝目を飾り、自らの仕事を完遂した勝者フィーニーに対し、ポイントスタンディングで圧倒的なリードを確保したブラウンが、晴れて2024年のRSCチャンピオンに輝いた。
■最終ヒートはオープニングから荒れ模様
「本当に暑かったから、無事に終わって良かったよ」と安堵の表情を浮かべた新チャンピオンのブラウン。「最高の1日だったし、ブロック(・フィーニー)は素晴らしい仕事をした。ピットではステアリングがロックして大変だったけど、大勢の人たちの前でチャンピオンシップを勝ち獲ることができたのは最高だ」
「今夜は外に出てビールを飲みたいが、それはできない。まだ明日もレースがあってお行儀良くしていないとね(笑)。プレッシャーが少し和らぐから、最後のレースを楽しみたいと思っているよ」
すでにチームタイトルも手中に収めたT8陣営は、今季最終ヒートで“手加減なし”の勝負を容認し迎えたレース2は、スーパーポールでモスタートやランドルを抑えたフィーニーがポール発進の権利を確保する。
するとオープニングラップから荒れたレース展開を示唆する流れとなり、まずニック・パーカット(マット・ストーン・レーシング/シボレー・カマロZL1)とペインのマスタングがクラッシュしてバリアにめり込み、早々のコーションが発動。再開後の9周目には3番手争いの渦中で新旧王者対決が勃発し、背後のコステッキがわずかに接触してブラウンがスピン。これで昨季王者にペナルティ裁定が言い渡される。
さらに終盤まで優勝争いを繰り広げたモスタートとフィーニーにもドラマが発生し、残り16周で首位浮上を狙った2番手のT8カマロZL1は、ターン6でWAUのマスタングに接触。これでピット作業時のアンセーフリリースに加え、モスタートをスピンさせた過失によりさらに15秒のタイム加算を受け、事実上の勝負権を失うことに。
なんとか復帰したマスタングの25号車もダメージは避けられず、新王者ブラウンを抑え切ることは叶わず。2019年のTCRオーストラリア王者でもあるブラウンが、今季23戦で18回の表彰台を獲得した安定感も発揮し、新チャンピオンとして初の勝利を手にした。
「まだ実感が湧いていなかったが、このドライブの後、少しチャンピオンになったような気がするよ」と笑顔を見せたブラウン。「序盤でスピンを喫したことが信じられない結果だ。恐らくブロディ(・コステッキ)にヒットされたんだろう。これで僕たちの1日は終わりだと思ったよ。ブロックにとっては不運だったし、何が起きていたのかは分からないけれど、今年を締めくくるには最高の方法だ。素晴らしいレースだったよ」