10月末、東京都港区にあるアークヒルズにてメルセデス・ベンツ日本による『AMG ONE』の納車セレモニーがとり行われ、丸の内ビルディングに本社を構える収益不動産のプロフェッショナル企業『株式会社ルーフ』の代表取締役であり、WEC世界耐久選手権やヨーロピアン・ル・マンで活躍するジェントルマンドライバー、木村武史がF1テクノロジーが盛り込まれたスーパースポーツを受け取った。
経営者である一方でレーシングドライバー、そしてスーパーカープロジェクト『カーガイ』の主宰としてモータースポーツ界でも活躍する木村は、納車式が終わった後、関係者を助手席に乗せて周辺を一周する粋な“六本木タクシー”をスタートさせたのだが、これまでのWEC富士などでの取材の縁もあり、業界2年目の新米オートスポーツweb編集部員である私(自家用車所有経験なしの20代)が、なんと畏れ多くもAMG ONEの助手席を体験させていただいた。クルマも持っていない20代男子なりの“助手席体験”をお届けしたい。
■夢のF1エンジンを、好きな時に好きなだけ。
この納車式(式の様子はこちら)は、最後にメルセデスAMG ONEへ木村夫妻が乗り込んで走り去るというドラマチックなフィナーレとなったのだが、その数分後、会場にあのF1サウンドが戻ってきた。
そちらを見ると、「やばいよ! レーシングカーだ。GT3だよこれ!」とはしゃぐ木村の声があった。助手席から降りてきた木村夫人も「こんなクルマ乗ったことないよ!」と大興奮。そのままお話を聞いていると「横に乗ってみたら? 絶対その方がいいよ!」とトントン拍子で話が進み、木村さんからも「乗ってみなよ!」と笑顔でひと声いただいたことから、なんと流れで乗らせていただくことになった。
おそるおそるお値段●億円のハイパーカーに近づき、ななめ前開きのドアをくぐって助手席へ(もちろんこんなドア形式も初めて)。いざ乗ってみると、座面が低いことはもちろん、かなりシートが寝ており、走り出す前からすでに視線が普段と違い過ぎる……。ちなみに車高は、エアサスペンションを調整して車内から調整可能だそうだ。
隣の運転席を見ても、田舎の若造にはまったく馴染みのないボタンとディスプレイがたくさん光っており、すでに緊張感マックス。助手席で縮こまっていると、さすがはレーシングドライバーの木村さん。納車すぐのクルマにもかかわらずすんなりとボタンを操作し、まずはEVモードで走り出した。
スルスルと動き出したメルセデスAMG ONE。この状況ではメチャクチャ静かで乗り味の良い電気自転車だ。しかし木村さんが「じゃあ、行くよ〜」とつぶやきながらスイッチを切り替えると、背後で猛獣が鳴いたかのような迫力でF1サウンドが響いた。
この音! F1のオンボード映像などで聞く“あの音”そのまま! と助手席で喜んでいると、およそ乗用車とは思えない駆動力で坂を登り始めた。あっという間に坂を越えて交差点に入っていくと、公道ですら分かる、信じられないほどの安定感で曲がっていく。
少しも怖さを感じさせないスムーズな動きに『これが数億越えのクルマの走りなのか!』と20代の若造には知らない世界が見えてきた。いつか頑張れば自分もこんなクルマに乗れるのだろうか。そしてこの素敵すぎる走りはなんなのか。ボディの軽さ? 空力? いやいやこんな公道では空力は関係ないはず……。トータルのバランス? いったいどんな魔法がかかっているのか、市販車の経験に乏しい自分には感覚で分かることは何ひとつなく……。ただただ楽しくて仕方ないばかり。
運転席からは「スゴくない!?」と木村さんが笑顔で語りかけてくる。だが、コクピット内はすぐ背後で動いているF1エンジンのメカノイズで満たされており、まるで川を挟んだ向こう岸の人と話すかのようにお腹から声を出さなければ会話ができないので、私は「はい!」とひと言しか返せなかった(AMG ONEには、会話用のマイクおよびイヤホンも付属しているそう)。
その後もいくつかコーナーを抜け、感じたことがないクイックさと加速感を感じていると、一時停止標識で止まった際に、木村さんはおもむろにステアリング上のボタンを操作し、駆動をEVモードに切り替えた。たちまち車内には静寂が訪れ、ここが六本木の街なかであったことを思い出す。
「このギャップがヤバいよね〜」と木村さん。EVモードの間に、動きの軽さや加減速のクイックさについてひと盛り上がりし、「こんなクルマ乗ったことないよ」と、数々のスーパースポーツを所有する、あのカーガイ木村武史でも感動を更新するほどのクオリティなのだと知った。
その後はふたたび、ミッドシップに鎮座する“F1エンジン”をポチっと起動し、納車式会場へと戻る。ここで自分は、このF1エンジンの気軽なオン/オフが猛烈にうらやましくなった。このクルマは『もしF1エンジンを乗用車に積むことができたら』という夢がカタチになった一台。F1エンジンを扱うための特別なプロセスはなにひとつなく、オーナーがボタンひとつで自由に切り替えることができる、そんな『カーガイドリーム』を体感した瞬間だった。
あっという間に納車式会場のアークヒルズに到着し、数分間の“夢の時間”は終了。木村さんへ感謝を伝えてクルマを降りようとすると、ななめ前に開くはずのドアが信じられないほど重い(笑)。もしこれから先、AMG ONEに乗る機会に恵まれた人は、びっくりするほどドアが上がらないのでぜひ注意してほしい。分厚いドアこそ重たかったが、ふと特別な乗り味を思い返したときには少し体が軽くなる。