朝ドラを支える「チャーミングな50歳俳優」、仏頂面なのにずっと魅力的なワケ

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2024年11月24日 09:10  女子SPA!

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『おむすび』©︎NHK
 橋本環奈主演の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)は、北村有起哉推しで見ると面白い。何度でも口酸っぱく、強調しておきたい。

 舞台が福岡の糸島から神戸編になっても、変わらず北村有起哉が面白い。というか、その顔、その存在、その演技がどんどん豊かに、微細になっている。

 イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が、舞台が移る神戸編でも北村有起哉尽くしの本作を解説する。

◆大宴会で泥酔する聖人

 福岡のギャル連合ハギャレンに加入した主人公・米田結(橋本環奈)が、第4週第20回で、地元の糸島フェスティバルにメンバーたちと出場して、パラパラを披露する。実行委員長である父・米田聖人(北村有起哉)にギャルであることを隠している結は、ひやひやしながらパラパラを踊った。

 その夜、結の実家で、打ち上げの大宴会が開かれる。大いに飲んで笑って、盛り上がるところへ、聖人が帰ってくる。北村有起哉があの固有の仏頂面を浮かべ、どうも心穏やかでないことがすぐにわかる。

 結がギャルであることを聖人は知っている。ハギャレンのカリスマ総代だった結の姉・米田歩(仲里依紗)のような不良になってしまうのか。心配で心配でたまらない聖人は、この大宴会で泥酔する。歩を不良にしてしまったと思い込んでいる過去を激しく後悔して乱れに乱れるのだ。

◆チャーミングな仏頂面俳優の見せ場

 それ以前から、聖人は結の動向を過剰に心配する。高校生活が始まり、書道部とギャルを両立しようとする結の帰りが遅いと、そわそわそわそわ。門限の19時を過ぎたものなら、もういてもたってもいられない。

 第2週第7回では、最寄駅まで迎えにいった聖人に結が「そんなにうちのことが信じられんの」と感情的になるひと幕がある。過剰な心配は、心配される側の負担になる。聖人はなんとか黙って見守ろうとはするのだが。

 続く第8回で、結が帰宅する場面が印象的だ。居間の床に座り、救急箱をいじっている聖人が、帰ってきた結をちらっと見る。聖人は「おかえり、な、なさい」とぎこちなくつぶやくしかない。このつぶやきが、チャーミングな仏頂面俳優である北村有起哉の慎ましい見せ場になっているのがたまらない。

◆不変の顔スタイルを洗練

 ぎこちないんだけれど、台詞としてつぶだつ。ほとんど無表情に近い仏頂面が、実に複雑で豊かな感情をぐるぐる醸す。ほんといいんだよなぁ、北村有起哉の顔って。

 映画俳優としての初期出演作『のど自慢』(1999年)で、ちょい役高校生を演じていた坊主頭の頃から、まるで変わってない。いつ、どこでも、不変の顔スタイルを洗練させてきた。

 表情ばかりが演技の華ではないことも教えてくれる。顔そのものが、画面の基礎になるみたいな。『おむすび』を見るということは、北村有起哉のこの顔を毎朝楽しみにすることとイコールではないか。

◆激似でキャラ立ちする名場面

「おむすび、恋をする」と題された第7週で、結は鬼怒川のカッパ、あるいは福西のヨン様こと、他校の球児・四ツ木翔也(佐野勇斗)に恋をする。甲子園出場を目指す翔也のため、書道とギャル活動に加えて弁当作りに励む。

 するとやっぱり聖人が心配し始める。弁当を渡す相手が恋人なのかどうかと、内心ぐるぐるスイッチがオンになる。第31回、聖人による面白場面が描写される。

 台所にいる結に対して聖人は居間の扇風機を背にスイカを食べている。弁当が渡されるのが彼氏か気になる聖人が、口をはさもうとして、妻・米田愛子(麻生久美子)にとめられる。ぎこちない動きで後ずさるとき、なんともまが抜けた調子で扇風機に尻をぶつける。

 その顔と所在ない動作が、『古畑任三郎シリーズ』(フジテレビ、1994年)の今泉慎太郎(西村雅彦)と激似でキャラ立ちする名場面だ。

◆神戸編でも北村有起哉尽くし

 第8週第36回から舞台は、糸島から神戸に移る。聖人が床屋を営んでいたこの神戸編でもひたすら北村有起哉尽くしで、本作を楽しめる。床屋の上階に引っ越してきた場面でも、糸島と変わりなく、いや仏頂面がどんどん豊かになっている。

 ドラマ展開とともに、仏頂面の表情に微細な変化をつける北村有起哉レパートリー。存在すべてが豊かな俳優だ。商店街を盛り上げたいと奮起する聖人の名場面が、さらっと置かれてしまうのもさすがとしか。

 米田一家が糸島に移り住むときにわだかまりを残してきた渡辺孝雄(緒方直人)の靴店前を通りがかる第37回の夜の場面。カメラは暗い店内に置かれている。ドアのガラス枠に縁取られた聖人が写される。枠にちょうど立ちどまり、おさまるタイミング、店内をのぞく演技といい、ほんと映画っぽい間合いなんだよなぁ。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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