お笑いコンビ・霜降り明星のせいやが初の半自伝小説『人生を変えたコント』(ワニブックス)を25日に発売する。自身が高校時代に経験した「ある日、突然はじまった」壮絶ないじめを赤裸々に明かし、いじめから何とか抜け出そうと生み出した1作のコントについてつづった内容。同書から、「大阪市市立ホシノ高校1年生のイシカワ」が語った、いじめの影響で円形脱毛症の治療を進める中で起こった家族とのエピソードについて、一部抜粋し紹介する。
【写真】赤字がびっしり…せいやの執筆風景■「オカンの泣き顔を初めて目にし」動揺
週2でオカンと病院に行き、血を抜いてもらったり、いろんな検査を受けたりしたのち、薬を渡される。それは頭の細胞が毛根を刺激することで、毛根が死んでしまうのを防ぐために塗る薬だ。皮膚を無理やり“かぶれ”させてグジュグジュに荒れさせることで、攻撃性のある細胞の気をそっちにそらすというものだった。
この薬で厄介なのは自分で塗れないこと。だから、風呂場で毎日、オカンに塗ってもらっていた。自分がこんな若さでハゲてしまったショックももちろんあったが、「人生ゲームだとしたら今、絶対に止まりたくないマスだよなぁ」と笑いながら家族にも気丈に振る舞っていた。
しかしある晩、オカンに風呂場で薬を塗ってもらっているときに、ぽたぽたと涙が頭に落ちてきた。オカンが泣いていた。生まれて初めて見るオカンの涙だった。いつも明るく強気でツッコんでくるオカンが「なんであなたがこんな目にあわなきゃいけないの!?」と叫んだ。オカンの泣き顔を初めて目にし、頭皮で涙を直に感じたイシカワは動揺した。そして気づいたらイシカワの目からも涙が溢れ出ていた。
悔しくて、悔しくて涙が止まらなかった。今まで見て見ぬふりをしていたつらい感情がすべて溢れ返ってきた。いつもは底抜ぬけに明るいオカンの涙で、今まで頑丈に閉めていた心のフタみたいなものが外れた。妹たちもオトンも心配していた。素直な気持ちも溢れ返ってきた。そこで初めて、自分の気持ちに素直になれた。
当たり前のように殴られて、脱毛症になって、でも持ち前の明るさで笑っていた。笑って笑って……笑えなくなっていた。オカンが泣いている。これは笑えない。家族の前で初めて大声で泣いた。初めて泣きながらオカンに言った。
「なんでこんな目にあわなアカンねん。髪の毛が抜けて、友達もできへん。そんな悪人みたいな人間じゃないのに、俺が何をしたんや。なあ、俺が何をした、オカン。俺、何した!?」。悔しくて涙が止まらなかった。
オカンは「だから、学校も行かんでええやん」と言ったが、イシカワは「違う、それは違う。ここまでされて負けたみたいで嫌や。学校は絶対に行く」と言った。
なぜこのごく普通の親子が泣かされなければいけないのか。ひととおり泣いて、気づけば、涙はもう出なかった。イシカワはオカンに「俺、悲しくないねん。悔しいねん。だから泣くのはもうええ。こっからはどうにかする」と言った。
2つ下の妹は心配していたが、6つ下の妹は兄の決意表明に「いつものお兄ちゃんや!」とむじゃきに合いの手を入れてくれて、家族の雰囲気はとても良くなった。
イシカワはその晩、真剣に今置かれた状況をどう打破できるか考えた。そしてもし打破できたら、この経験を生かし、教師になろう。そして、この話を生徒たちに伝えるために本を書こう──そんなことを思いながら眠りについた。