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「AIエージェントはこれからあらゆる業界に広がっていく」
NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CTO(最高技術責任者)の西原基夫氏は、同社が2024年11月27日に玉川事業場(川崎市中原区)で開催した証券アナリストや機関投資家、メディア向けの研究開発・新事業戦略説明会「NEC Innovation Day 2024」でこう強調した。
人間に代わって業務を行う最新技術「AIエージェント」は、エンタープライズIT業界で、今最もホットな話題だ。果たして、どれほどのインパクトをもたらすのか。従来のITシステムとの違いや、実装に当たってユーザー企業が押さえておくべきポイントとは。NECの説明会で明らかになった同社の見解を踏まえて考察する。
●NECが目指す「AIエージェント」の全貌
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西原氏はNECが目指すAIエージェントについて、「複雑で高度な業務ワークフローをタスクに分解し、人間と柔軟に協働しつつ、欠けている機能は動的に設計、実装し、さらに自律的かつ持続的に成長していくAIシステム」と説明し、企業にとっては「進化し、成長し続ける『動的なITシステム』と捉えればいい」とも語った(図1)。
企業における現状のITシステムと、AIエージェントはどう違うのか。同氏は、「現状のITシステムは、予め決められた仕様を実現できるが、提供する価値は変化しない。これに対し、これからのITシステムは、提供する価値が拡大し続け、自律的に進化する」と説明し、他の点も含めて図2を示した。
その上で、冒頭の発言にあるように「AIエージェントがこれからあらゆる業界に広がっていくのは間違いない」として図3を示した。また、そのために必要な技術基盤や取り組みとしてAIエージェントをはじめ、AIモデルの強化、マルチモーダルへの対応、AI規制への対応、環境に配慮した生成AIといった点を挙げた。
西原氏に続いて登壇したNEC Corporate SVP 兼 AIテクノロジーサービス事業部門長の山田昭雄氏は、「さらなる業務改善への活用に向けたNECの生成AIの3つの進化」について説明した。同氏は2023年まで西原氏の下でAI技術の研究開発責任者を務めていたが、とくに生成AI事業を迅速に立ち上げるために2024年からAI関連事業の責任者になった、同社のAI分野のキーパーソンである。
山田氏はNECの生成AIにおける3つの進化として、「高度な専門業務の自動化に対応するAIモデルの強化」「自動化実現のための『NEC AI Agent』の提供」「適用業務を拡大するマルチモーダルへの対応」を挙げた。このうち2番目が、AIエージェントの話だ(図4)。
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●NECの生成AIにおける3つの進化とは
以下、同社の取り組みのポイントを紹介していこう。
1. AIモデルの強化
NECが独自に開発した生成AI「cotomi」を強化した。
山田氏によると、「世界最高水準の日本語処理性能をさらに向上させ、高度なワークフロー自動化に対応させた。医療や金融などの高精度および高速性のニーズに向けてこの12月より順次提供する」とのことで、今回の説明会に合わせて発表した。
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ポイントとしては、「世界最高水準の(日本語処理の)精度(注)と速度をさらに強化するとともに、根拠を提示することで信頼性を向上させた。また、自己学習でプロンプト作成の負担を軽減する。性能はそのままで電力効率を2倍に改善した」といった点を挙げた。
(注)「Japanese MT-Bench」を使ったNECの社内再現評価による。
2. 「NEC AI Agent」の開発
第一弾としてエンタープライズサーチの自律実行を可能にするAIエージェントサービスを2025年1月から順次提供すると発表した。
ポイントとしては、「細かな指示なしで業務プロセスを自律的に遂行するとともに、タスクフローの最適化で正確な業務の推進を実現できる」といった点を挙げた(図6)。
山田氏は図6右側について「AIエージェントに『お客さまへの提案書を作ってほしい』と依頼すると、お客さまの課題は何かを調べ、他社の動きをチェックし、社内にあるアセットを調べるなど、総合的な観点から情報を集めて提案書を作ってくれる。これまで人間がやっていたことをAIエージェントが実行する形になる」と絵解きした。
3. マルチモーダル対応の拡大
マルチモーダルの資料をRAG(検索拡張生成)で最大限に活用する機能を2025年1月から提供開始すると発表した。
ポイントとしては、「図表の構造をも理解することでテキストの流れを正しく理解し、図表に含まれる暗黙のルールを読み取り、正確な情報を抽出する」といった点を挙げた(図7)。
さらに、山田氏はAI規制への対応について、「世界的に強化されるAI規制に確実かつ迅速に対応していく。日本でも経済産業省から『AI事業者ガイドライン』という形でAIサービスにおけるガイドラインが示されている。当社ではその全ての項目に対して、技術あるいは開発プロセスの仕組みによって対応することで、お客さまにサービスを安心して使ってもらえるようにする」と説明した(図8)。
こうしたNECの取り組みから、AIエージェントが企業にもたらすインパクトを感じられただろうか。筆者は、企業そのものが「AIロボット化」していくようにも感じた。この点についてはさらに考察を重ねたい。
●NECは「AIマネジメント」をどう考えているのか?
筆者は企業のAI活用において、このところ「AIマネジメントの必要性」を訴えている。多くの企業が今、生成AIおよびAIエージェントの活用に向けて動き出している。さまざまなAIが社内に混在するようになり、やがてデータの管理や活用も含めて収拾がつかなくなる可能性が高いのではないかというのが筆者の問題意識だ。
この点では「AIガバナンス」が論議に上がっているが、AIの活用に向けた論点から、筆者は「AIマネジメント」と表現している。
そこで、今回のNECの説明会でも質疑応答で、「企業の中でさまざまなAIが使われるようになると、それらを使いこなせるのかと懸念している。企業内でのAI活用についてガバナンスを含めてきちんとマネジメントするような機能や仕組みが必要になってくると考えており、それこそがITサービスベンターの役目だと思うが、NECはどう考えているか」と聞いてみたところ、山田氏は次のように答えた。
「ガバナンスがAI事業を推進する上でキーになることは強く感じている。組織や個人がAIを受け入れる際に、人間はどういう役割を果たすのか。どこを人間がやり、どこをAIに任せるのかを明確にすることが重要だ。NECは自社においてさまざまな場面でAI活用の実証実験を実施しており、それを通じていろいろな意見が出ている。ここで得られた知見をお客さまと共有しながら、ここは人間がやる、ここはAIがやるというのを決めていくのが基本的な考え方だ。その上で、パートナー企業と一緒に模索しながらソリューションを提案するのが、われわれの役目だと考えている」
西原氏も「AIの技術はITシステムと違って役割が決まっておらず、非常に柔軟だ。確率によって答えを出すAIワーカーと捉え、そのAIワーカーがいかに人間と連携するかを考えるべきだ。それぞれの業種の中で全体のガバナンスや監査の仕組みを踏まえて考える必要がある。現在の規範ではいかに安全に使うかが重視されているが、もう一歩踏み込んで、AIワーカーと人間が共存する中で監査の形をどうするかといった概念も出てくるだろう」との見解を示した。
AIマネジメントについては、NECも試行錯誤を重ねているようだ。両氏のコメントについて一言申し上げておくと、人間とAIの役割分担をどうするかはまさしく経営判断だ。AIマネジメントにおける監査の形も経営の在り方を示すものだ。そのことを経営者は肝に銘じてAIの活用を進めてもらいたい。
○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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