年を重ねると気になるのが糖質と塩分。両方ともとりすぎてしまうと、腎機能の低下や糖尿病など深刻な病気へとつながりかねない。「糖質オフや減塩などをうたった食品は増えているし、健康意識は高まっているのに病気の人は減らない。なぜならそこには落とし穴があるからです」と管理栄養士で料理研究家の麻生れいみさん。外食シーンが増える12月は「特に注意して」と話す。
「糖分には気をつけているのに、体重が増える」「塩分を控えているが、血圧が高いことを医師から指摘された」 食事に注意を払っていても血糖値や血圧の数値がなかなか改善しない……。
「そんな声をよく聞きますが、では実際に食べているものを記録してもらって確認してみると、しっかりと糖分も塩分もとっていることがわかります」
そう語るのは管理栄養士で料理研究家の麻生れいみさん。意識していないのに、食べているとはどういうことなのか。
糖分、塩分を考えれば和食はヘルシーではない
「いわゆる、隠れ糖質、隠れ塩分というものです。例えば、ケーキやジュース、白米は糖質とわかりやすいけれど、ポテトサラダは糖質の塊だとは思わないですよね。どちらかというとヘルシーなイメージかと思いますが、根菜には糖質がしっかり含まれます。
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そして最近の“タン活”ブームでちくわ、チーズ、ハム、魚の缶詰といったタンパク質豊富な食材も人気ですが、塩分が意外なほど含まれています」
麻生さんは特に、和食に注意したいと話す。
「一般的に和食は健康的だという認識があるかもしれません。ところが、隠れ糖質のオンパレード。煮物をはじめ、和食の調理には砂糖、みりん、日本酒など、糖質の高い調味料がかなり使われています。
食材そのものはシンプルでも、味つけで糖質過多になってしまっているのです。和食には根菜類がよく使われていることも気をつけたい点です」
さらに和食は糖質だけでなく、塩分過多、タンパク質不足にもなりやすいという。
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「糖質というと甘いものを思い浮かべがちですが、お米も小麦粉もそば粉も『ほぼ糖質』でできています。和食の代表格のおすしも、お米に糖質が高いのはもちろん、すし飯にする三杯酢、巻きずしの卵やかんぴょうにも砂糖が使用されています」
糖質を控えるためのポイントは、シンプルな料理、つまりはできるだけ加工が少ない料理をとるようにすること。
「居酒屋さんなどでよくあるメニューをイメージするとわかりやすいでしょう。具体的な料理としては、刺し身の盛り合わせやカルパッチョ、冷ややっこなど。今の季節なら湯豆腐もいいでしょう」
中華料理はとろみに注意
とはいえ、外食は味つけが濃いめなメニューが多いため、やはり注意が必要。
「例えば、天ぷらは天つゆに糖質がいっぱい。おでんも同様につゆは気をつけて。はんぺんなどの練り物は、案外糖質も塩分も多い。がんもどきや卵は低糖質なのでおすすめです」
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和食に隠れ糖質が多いのに対し、イタリアンなど洋食のほうが糖質は避けやすい。
「イタリアンはオリーブオイルでシンプルに調理された料理が多い印象。最近ではフレンチも健康志向の高まりから、ハーブやスパイスで素材を活かした料理が増えているようなので、避けやすいといえるかもしれません」
ちなみに、中華料理はとろみに注意。
「天津(てんしん)麺や天津丼といった天津系やあんかけ類には、糖質の片栗粉が使われています」
そもそも、糖質を避けるべき理由は、ご飯やパン、パスタといった炭水化物、つまりは糖質が多く含まれる食品を食べることで血糖値が急上昇し、それを下げるべく、インスリンが急激に放出されるから。
インスリンは余った糖を中性脂肪に変える働きがある。お腹まわりのぜい肉は、糖質が引き起こすインスリンの放出こそが原因ともいえる。
「血糖値の乱高下をグラフにすると、まるでスパイク(とげ)のよう。この“血糖値スパイク”は、肥満以上に深刻です。血管にダメージを与えて動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めることになるからです」
血糖値の急激なアップダウンは、眠くなったりイライラするなどメンタルを不安定にすることも。イライラ解消のために、脳はさらに糖質を欲しがるという悪循環に陥る。
「お惣菜でもつい同じものを買ったり作ったりということはありませんか。それは使われている食材や調味料の糖質には中毒性があることが原因という場合もあります」
「糖質オフ」はマジックワードにあらず!
ちなみに、パーティーや忘・新年会の多い年末年始。アルコールに関しては?
「焼酎やウイスキーといった蒸留酒を選んで。醸造酒であれば日本酒よりワインを。甘口よりも辛口を選ぶようにしたほうがよいでしょう。要注意なのは、昨今よく目にする“低糖質”や“糖質オフ”。糖質オフをうたうビールの、ラベル表示を見てください。
糖質のg数は100mlでの表示が多い。缶ビール1本は350〜500ml。1本飲んだら、それなりの量になるはずです。“糖質○%オフ”という表示も、比較対象商品に比べて低減されているだけで、低糖質とは限りません」
最近続々と登場している「カロリーオフ」をうたうマヨネーズやドレッシングも、同じ理由で油断できない。
「こうしたものは確かにカロリーこそオフですが、糖質は多めです。むしろ普通のマヨやドレッシングのほうが、糖質に関しては少ないぐらい」
「糖質0」と「糖類0」、に関しても、正しく理解されていないのではと懸念する。
「糖質0は、糖類(砂糖など)や多糖類(でんぷんなど)、糖アルコール(キシリトールなどの甘味料)など、一切の糖質が使われていないもののこと。一方、糖類0は、糖類や多糖類こそ含まれませんが、糖アルコールが使われている可能性があるんです」
「0」「オフ」という表示を鵜呑(うの)みにして1日何本も飲んだり食べたりしていれば、想像以上に多くの糖分を摂取することになりかねない。
「こうしたものを選ぶのならば“低”や“オフ”よりも“0”を。“糖類0”より“糖質0”を選ぶなど、賢く選択することが大切です。“糖類0”は砂糖が使われていないだけで、実は他の糖分がいろいろ入っていて、糖質ゼロとは限らない!ということ。お酒だけでなく、スイーツも糖質オフなどありますが、表記はよく見ておくべきでしょう」
糖類は朝昼しっかり夜は控えめ
日本人において米は主食だが、3食食べるのは糖質過多になりがちなのだとか。
「厚労省による日本人の食事摂取基準を見てみると、糖質の最低必要量は約100g/日と推定、と記載されています。ご飯にすると、お茶わん1杯で57.0gぐらいです。普通の食事をしている日本人なら、糖質がこれ以下ということはまず起こらない。
肉や葉物、それらを調味する調味量にも、糖質が含まれています。栄養士として指導していて、1食につき糖質10g以下になっている人はほとんどいません。それほど糖質は、知らないうちにとれてしまうものです」
さらに、ダイエットにおいては活動量が多い朝昼と、活動量が減る夜とでは、糖質のとり方を変え、朝昼はしっかり、夜は控えめを心がけたほうがよいという。
そして隠れ糖質以上にマズいのが、隠れ塩分。
「調味にみそやしょうゆが欠かせず、漬物や干し物がつきものの和食は、食材ベースで塩分が過剰になりがち。諸外国と比べても、日本人は塩分をとすぎであることがわかっています。
塩分をとりすぎると血圧が高くなり、排泄器官である腎臓にも負担がかかりますから、脳卒中や心臓疾患、腎臓障害といった命に関わる症状を引き起こすことになりかねません」
昨今の食生活の変化が、そんな塩分の摂取をさらに加速させている。
「鍋料理を作るにも鍋用調味料を使うことが増えていますし、ポン酢も市販品を使うのが当然になっていますよね。こうしたものは味を良くし、保存性を高めなければいけませんから、家庭で料理するよりも塩分過多になりがちです」
和食の隠れ塩分が動脈硬化を促進する
ちなみに厚労省の基準では、日本人の1日の塩分摂取量の目安は男性で7.5g未満、女性で6.5g未満。とはいえ、高血圧や慢性腎臓病(CKD)の重症化を防ぐためには、男女とも6g未満にすることが推奨されている。日本人の平均塩分摂取量は男性が10.5gで女性は9g。
「毎日の食生活から減塩を心がけてください。家庭で使われている調味料は隠れ塩分の巣窟です。食塩→しょうゆ→ポン酢しょうゆ→ソース→ドレッシング→ケチャップ→マヨネーズ→酢の順番で、“塩分多め”から“少”になっていきます。
日頃からこうした調味料を減らすことを心がけましょう。100円ショップで売っている、しょうゆを霧状に振りかけてくれる“しょうゆスプレー”を1本持っていると便利かも。塩味の物足りなさを補うには、香味野菜やスパイスを活用するといいですよ」
例えば人気メニューの豚のショウガ焼き。下味と調味にショウガをたっぷりと加え、仕上げに七味唐辛子をプラスすれば、しょうゆはぐっと少なくなり、おいしさもキープ。だしを強めにきかせたり、オリーブオイルの活用も減塩に効果的。
「オリーブオイルは血糖値も上げませんし、油分が満足感を上げてくれるので食べる量そのものを抑制してくれます」
では減塩タイプの調味料や加工食品は……?
「高血圧や腎障害などの症状が出ている人が活用するのはいいでしょう。ただし、塩分が少ないからといってかけすぎてしまったり、物足りず他の塩分の濃いものをとってしまうということも少なくない。やはり薄味に慣れ、素材そのものの味を味わうことが大切です」
ちなみにスナックフードなどでもしょっぱい味つけを好む人は、ストレス過剰の傾向があると麻生さん。
「副腎の機能が弱っている人も、しょっぱい味つけを好む傾向がありますね。副腎機能の回復にはビタミンとミネラルが欠かせません。ミネラル不足から塩分を好む傾向が出ているのかもしれませんから、野菜を多めにとるようにしてください」
和食に含まれる隠れ塩分を避けようと、食生活の洋食化を図ろうと思っても、ここにも隠れ塩分が跋扈(ばっこ)している。
「まずはパン。発酵を促進するのに塩分が欠かせません。一見ヘルシーに見えるシリアルやグラノーラも、意外なほど塩分が含まれています」
塩分が多いものといえばチーズやハム、ベーコン、練り物。保存性を高めるために、塩分を欠かすことができないからだ。
要注意はコンビニ弁当
そして、より注意すべきはコンビニ弁当。
「女性の塩分摂取量の目安が1日6.5g未満ということは、1食の摂取量が2g程度ということです。兵庫県立消費生活総合センターの調査によると、コンビニ弁当の塩分は平均で3.5g。これ一つで目標量の3分の1を軽く超えます。おにぎりも0.7〜2gは含まれており、1個で摂取量に到達してしまいます」
どうしても手軽なコンビニ食に偏ってしまいそうなら、惣菜系のレトルト食品の活用もいい。レトルトを半量にし、カット野菜を添えるか、あるいは炒めてかさを増すといいと麻生さん。
「年末年始は食事のコントロールが乱れがちですが、だからこそ糖分や塩分の量を把握して少しでも気をつけたいですね」
お話を伺ったのは……麻生れいみさん●管理栄養士、医療栄養学修士。『20kgやせた!糖質オフ入門 最新版』(宝島社)、『麻生れいみ式ロカボダイエット』(ワニブックス)他、著書累計119万部突破。NHK『あさイチ』などメディアにも多数出演。テレビ番組内で芸人ゆりやんレトリィバァのダイエットを指導し、10日間で8.3kgの減量を成功させる。
取材・文/千羽ひとみ