72種類の拷問 10万人が“行方不明” シリア「絶滅収容所」の生存者を独自取材 証言から浮かび上がった残虐な拷問の実態【news23】

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2024年12月12日 15:11  TBS NEWS DIG

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「絶滅収容所」との異名を持つシリアのセイドナヤ政治犯刑務所。アサド政権崩壊後、多くの収容者が解放されましたが、この場所で“行方不明”となっている10万人の市民のほとんどは、命を落としている可能性が高いとされています。私たちは、4年前から複数の生存者を独自取材。証言から浮かび上がった残虐な拷問の実態とは…

【写真で見る】72種類の拷問 証言から浮かび上がった残虐な実態

生存者が語る「残虐な拷問」

アサド親子による、半世紀もの独裁政権のもと運営され、実態は闇に包まれていたセイドナヤ政治犯刑務所。その詳細が今、少しずつ明らかになってきています。

人道支援団体「SSJ」山田一竹 代表
「一言で言えば、もう本当に地上の地獄。刑務所というよりは、絶滅収容所です。入った時点で、ある意味死ぬ。拷問した後の遺体が記録されてきた数多くのファイルが存在する」

2013年に亡命したシリア人警察官、コードネーム=シーザーが秘密裏に持ち出したことで、「シーザー・ファイル」と呼ばれるようになった、極秘資料があります。そこには、拷問の末殺害されたとみられる6786人の遺体の写真が含まれていました。

人権団体はこの資料を元に、ある報告書を作成しました。報告書には、アサド政権による残虐な拷問の実態が克明に記されていました。

『目はえぐられ…』拷問は72種類 生存者たちの証言

アサド政権下の刑務所で、いったい何が起きていたのか。私たちは4年前から証言を集め始めました。

2022年7月、スペイン・マドリードのアトリエで絵を描く男性。
シリア人アーティストのナジャフさんは2011年、シリアの首都ダマスカスでデモに参加したことで、拘束されました。

投獄された先で待っていたのは、壮絶な拷問でした。

拘束されていた ナジャフさん
「電気ショックによる拷問が行われていた」

家族が全財産を金に換え、看守を買収したことで何とか救出されたナジャフさん。凄惨な記憶をたどりながら、当時の様子を絵に描き起こし、証言活動を続けています。

拷問によって死亡した仲間を運ぶ役割もさせられました。

ナジャフさん
「仲間の遺体を運ぶとき、遺体は大きく変形しているから、この人物が私の親戚の一人か、友人の一人かということを考えなくてはいけない」

なかでも壮絶だったのが、椅子を使った拷問でした。

ナジャフさん
「拷問で亡くなった人たちの多くは、ドイツの椅子と呼ばれている拷問によって亡くなった。他にも頭を殴打したり首を折ったり。取調官が首を折るんです。この拷問は音はせず、椅子の下にいる誰かが窒息して、足が地面にぶつかる音だけが聞こえた」

人権団体が集めた証言によると、シリアの極秘刑務所で行われた拷問は、分かっているだけで実に72種類あったといいます。

10万人“行方不明” 「絶滅収容所」の実態

報告書
「拘束された多くの人は目がえぐりとられていた」
「皮膚を焼いたあとに、野蛮な方法でその皮を剥がされた」
「針やネジなどを鼻や唇、耳、背中、手や足の裏などいたるところに刺された」

今回解放されたセイドナヤ刑務所。愛する家族や友人の姿を探す多くの人が集まりましたが、行方不明となっている10万人の市民のほとんどは、命を落としている可能性が高いとされています。

ナジャフさんのように生還できたのは、奇跡に近いのです。

多くのシリア難民が集うトルコ南部の町に住む老夫婦は、東部の町デリゾールで息子のオクバさんが逮捕されました。

息子が逮捕 アリさん
「(オクバは)仕事に行く途中に捕まったんだ。突然いなくなった。捜したけれど見つからなかった。警察なのか軍なのか。拘束されることはよくあるから、すぐに帰ってくると思っていた」

両親は、息子がいつか必ず帰ってくると待ち続けましたが、その時は訪れませんでした。オクバさんの幼い娘も、父が帰ってこない理由をどこかで理解しているのだといいます。

息子が逮捕 ヤスミーンさん
「パパがいなくて嫌だから、穴を掘ってぬいぐるみを埋めたの。『パパが刑務所から出てきたら掘り出して遊ぶの』『ぬいぐるみが掘り出されないということは、パパは死んだということなの』と言っているわ」

両親は「遺体でもいいから返還してほしい」と政府に求めましたが返答はなく、アサド政権が崩壊したいま、息子が奇跡的に生きているのか、埋葬されているのかも分かりません。

住んでいる街を明かさない条件で、取材に応じてくれたヌーラさんも幼い子供とともに拘束されました。

子どもと拘束 ヌーラさん
「私が検問所で拘束されたとき、息子は3歳でした。『鞄の中を出せ、なんだこれは、コーヒーを飲むのか』と聞かれました。何も悪いことはしていないのに。『誰から頼まれた、武装勢力に持っていくのか』と言われました」

ヌーラさんは自宅用に買ったコーヒーを、武装勢力に渡そうとした疑いで、突然拘束されたのです。

子どもと拘束 ヌーラさん
「椅子に身体を打ち付けられ、後ろで手を縛られて何度も平手打ちをされました。あまりに痛くて叫び、涙が出てきました。そして部屋に戻されました。息子が私の姿を見て泣くのです」

――何をされた?

ヌーラさん
「言えません。ムスリムの女性に対する罵倒です」

気丈に、笑顔で答えるヌーラさん。しかし、性的暴行を受けた心は、深く傷ついていました。

解放されたあと、ヌーラさんは行方不明だった弟を探すため、人権団体に接触。そこで見たシーザー・ファイルの一つの写真にくぎ付けになりました。

ヌーラさん
「前歯は虫歯があり欠けていたのと目を見て分かりました。特徴的な歯でしたので間違いなく弟の顔です」

家族が拘束され、拷問の果てに変わり果てた姿で、遺体すらも戻ってこない。これがアサド政権下での、シリア国民の日常となっていました。

人道支援団体「SSJ」山田一竹 代表
「全ての破壊行為の責任を負うアサド元大統領が、訴追されて裁かれない限り、被害者やサバイバー、遺族の方たちの痛みや苦しみ・怒りというのは、消えません。なので、そういった意味でも正義の追求というのは、今後シリアでは最も重要な課題になると思います」

処刑・拷問 アサド政権なぜ弾圧?

小川彩佳キャスター:
かくも人は残忍になれるのか、という見ていて息が詰まるような実態の数々でした。

藤森祥平キャスター:
この時代に、ナチスの強制収容所のような現実が広がっているわけですね。

トラウデン直美さん:
言葉がないんですけれども、なぜここまで増長してしまったのかがやはり一番大きな点だと思いますし、止められないものなのか、なぜ繰り返してしまうのかと感じます。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤 伸輔さん:
国連のグテーレス事務総長が、シリアの状況を「この世の地獄だ」と表現したことがありましたが、今の映像見てるとまさしく地獄だと思わざるを得ない。しかもそれは、自然にできたものではなくて、アサド政権を中心とした人間が作った地獄というところに改めて非常にショックを覚えます。

小川彩佳キャスター:
なぜアサド政権は、ここまでの残虐性を出してしまったのでしょうか?

23ジャーナリスト 須賀川 拓さん:
やはり多くの方が疑問に残ると思います。「なぜ周りが止められないのか?」これには、いろいろな背景が複雑に絡み合ってると思いますが、あくまでも可能性論として、いくつか挙げられるものがあると思います。

まず、このアサド政権は、自分の敵を全て弾圧してきたわけですが、彼はイスラム教の少数派の「アラウィー派」だったことが関係しています。自らが少数派で権力を持っているということは、「自分が弾圧される側に回るかもしれない」という強迫観念っていうのは常にあったのではないかと私は思ってます。

あと、このバッシャール・アサド大統領は、元々ロンドンで眼科医をされていました。政治とは全く無縁な生活を送っていましたが家族の事情で、本国に戻されました。しかし、父親も残忍な独裁者であったので、自分が最初に触れて、全てを学ぶ人が独裁者。しかも極めて残忍な人だったというのが大きなポイントではないかと思っています。

トラウデン直美さん:
それを聞いてさらに、元々ロンドンで生活していて外の世界を知っていたわけなのに、どうしてあそこまで残虐に慣れてしまい、このようなことになってしまったのでしょうか。

23ジャーナリスト 須賀川 拓さん:
これには、根源的な部分があると思います。

例えば、今回の制度やセイドナヤ刑務所のような場所で最初から何百人も処刑を始めたら、政権内でも「おかしいんじゃないか」と思った人はいるかもしれません。しかし、徐々にその残忍・残虐度合いが上がっていくと、やはり人間は麻痺してしまう。

これまでの歴史を見ていくと、ナチス・ドイツも一番最初に強制収容所ができていたら、もしかしたら誰かが止めたかもしれない。しかし、麻痺してしまっていました。本当に独裁者が生まれる過程を、私達は今まさに目撃したんだなと思います。

小川彩佳キャスター:
異常性の中に入っていくと、少しづつその異常性が認識できなくなってしまうのですね。

国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤 伸輔さん:
アサド政権の残忍性・残虐性というのは、刑務所の中だけであったわけではないです。

例えば、国民に対して何十回何百回と化学兵器を使っています。サリンとか塩素ガスのようなものでも多くの市民がなくなっています。さらに、反体制派あるいは武装勢力との戦闘のときには『樽爆弾』というのを使っていました。ドラム缶に爆薬と金属片・釘や破片のようなものをたくさん詰めて、それをヘリから落とす。

このように、刑務所の外でも自国民に対して非常に残虐なことをやってきて、それが長年にわたって続いてきたことが、今回の反体制派いわば士気を高めたような部分があります。

私も本当に驚きましたが、10日ほどの短い間に政権が崩壊するに至ったのも、そういった流れの残虐行為に対する、市民や反体制派の反発心・士気が影響したんだろうなと思います。

小川彩佳キャスター:
まだその残虐性の一端というのが見えたという段階に過ぎないわけですね。

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〈プロフィール〉
トラウデン直美さん
環境問題やSDGsについて積極的に発信 
趣味は乗馬・園芸・旅行

堤 伸輔さん
国際情報誌『フォーサイト』元編集長
政治から社会問題まで幅広い報道に関わる

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