14日に行われた「明治安田 presents 中村憲剛 引退試合」に北海道コンサドーレ札幌の新指揮官に就任した岩政大樹氏が参加。試合後にメディア取材に応じた。
現在42歳の岩政氏は現役引退後、上武大学サッカー部監督として指導者のキャリアを始めると、2022年に古巣の鹿島アントラーズのコーチに就任。レネ・ヴァイラー監督の解任を受けて、同シーズン途中からトップチーム監督の座に就いた。翌2023シーズンはリーグで5位、YBCルヴァンカップではプレーオフステージ敗退、天皇杯では3回戦敗退という結果に終わり、同年限りで契約を満了。退任後、2024年1月からベトナムのハノイFCで指揮を執ったあと、同年9月から今季終了まで東京学芸大学蹴球部のコーチを務め、今月12日に札幌の新指揮官に就任することが発表された。
札幌の新監督となった岩政氏は、就任時に攻撃的なフットボールを継承することを宣言し、『ここにしかない文化でここにしかないフットボールを作り上げたい』と意気込みを語った。では、具体的にどのようなフットボールを目指すのか。岩政氏は、鹿島の監督時代にもよく使用していた『絵/画(選手同士で共有するプレーのイメージ、選手から見える景色を合わせる)』という言葉を用いて説明した。
「『絵』はあります。“色が見える”監督にはみんなあると思います。それは言葉で説明する必要はなく、ピッチで練習をして、選手がプレーしたときに、こっちだよ(導く)というだけなので、それが見えるときまでお楽しみです。多くの監督は『攻撃的なサッカーをしたい』と言いますが、どれだけの監督が攻撃的なサッカーを作れたのかという話で、オリジナルなところが有るか無いかです。有れば、指摘ができますが、無ければ、『球際を戦え!』、『走れ!』、『負けるな!』で終わってしまい、攻撃的にはならないわけです。ミシャ監督(ミハイロ・ペトロヴィッチ前札幌監督)には、『こういうときにこういうことをすべきだ』という『絵』があるから選手たちに伝わる。具体性があるから、選手たちに伝わり、攻撃的なスタイルに繋がるわけです。攻撃的に戦うためには、監督に選択肢がないといけない。ピッチ上で『絵』が見えれば、どういう局面でも選手たちに指摘ができます。いつ、どこで、選手に伝えるかは指導という側面になりますが、まずは『絵』がないと攻撃的にならないと思います」
鹿島と札幌では当然、所属する選手の個性が異なる。目指す方向性や構築するスタイルは変化するのだろうか。岩政氏は「試合を見たほとんどの方は全く違うことをやっているように見えると思います」と明かしたうえで、「ただ、自分の中では、鹿島で見えたものの延長線上に今の『絵』があります。それが分かる人にはわかるかもしれないですが、実際に見える配置とか選手の繋がりとか、起こっている現象については、全然違うものになるはずです。それがなぜ出来るかというと、いろいろな側面があって、まずは“自分の中で『絵』が出来上がった”のが一つです。そして、クラブによって、そういうサッカーを望むクラブとそうでないクラブがあるので、そこに合わせたり、変えるまでの時間は、クラブによって変わると思います」と回答した。
鹿島時代は自身の目指す『絵』を選手に浸透させるまで時間を要し、最後まで望み通りの結果を得ることはできなかった。ただ、一人の指導者として貴重な経験を得られたことは間違いない。元フットサル日本代表監督の鈴木隆二氏らを自らの希望で鹿島のコーチに招へいし、グループ戦術を全体トレーニングに取り入れるなど、同期間で積極的に新たな要素も学んだ。
「自分の中で『絵』が出来上がる」過程で同コーチらの影響もあったのか、あらためて岩政氏に尋ねると、「間違いなく彼らの影響は受けています。そのために彼らを呼びましたし」と語り、「鹿島の1年半だけを切り取れば、リーグ戦で5位という結果に終わりましたし、ピッチ上でみせたサッカーもオリジナルと呼べるものではなかったと思います。失敗とは言い切れないですが、成功とは呼べない期間だったと認識しています。ただ、あそこでコーチを呼べたことで見えたことはありましたし、自分は特に攻撃面でアイデアをもらいたかったので、それは彼らのおかげですし、直接本人たちにも伝えています」と述べた。
そして、札幌でも「ミシャ監督のアイデアを汲んだコーチたちに色々と聞きながら、汲み上げられるのものがあると思うので、僕もさらにもう10年くらいはどんどん成長できるようにしたいです」と、指導者としての貪欲な成長意欲を語ってくれた。
大学サッカーを経て、鹿島やハノイで経験を積んだ岩政氏。自身初のJ2での指揮、新天地の札幌でどんなフットボールを見せるのか注目が集まる。