ドラマ&映画【推しの子】公式サイトより 実写ドラマ版『【推しの子】』が好評を博している。現在はAmazonプライムビデオの視聴ページでは5点満点中3.6点、Filmarksドラマでは5点満点中3.7点と、レビューサービスの平均点だけを見れば「まあまあ」の評価と思われるかもしれない。
だが、原作漫画とアニメ版が社会現象的な人気を得たため、厳しい目を向けるファンもかなり多い上に、後述するように「【推しの子】の実写化」そのものに「分が悪い」理由があることを踏まえれば、大検討といえるスコアだろう。
筆者個人は、この後に公開される映画版の出来栄え次第では、漫画の実写映画化史上でもトップレベルの傑作になり得るとさえ思う。その理由を記していこう。
◆実写版発表時の評価は低かった
実写ドラマ&映画【推しの子】の2024年1月の主要キャストおよびキャラクタービジュアル発表時の評判は決して芳しくはなかった。
キャストそれぞれに「ピッタリかも」などと期待の声も寄せられてはいたが、原作漫画の表紙を再現したキャラクターに「コスプレ感バリバリ」な印象を抱く人もいた他、「【推しの子】の実写化だけはやめてほしかった」と、そもそもの企画を受け入れられない意見も多かった。
その実写化を受け入れられない理由の1つには、劇中で「人気漫画が異なる媒体で制作される際の『原作改変』の問答」が繰り広げられていることもあるだろう。たとえば「人気漫画の実写化で炎上は免れない。宿命だよ」「別に展開を変えるのは良いんです。でもキャラを変えるのは無礼だと思いませんか? うちの子たちはこんな馬鹿じゃないんですけど」といったセリフがあり、今回の実写ドラマにもその言及がある。
さらに、原作者の赤坂アカは、実写化の発表時に「(原作は)漫画作品の実写化についても触れています。良い事ばかりを言っていません。批判的な事も言っています」「キャストの皆様にも制作陣の皆様にも『本当に大丈夫ですか?』と聞きたくなる気持ちでした」といったコメントも寄せており、まさに同じような不安を抱くファンも多かった。それらがすでに、【推しの子】の実写化そのものの「分が悪い」理由だ。
◆現実にあり得るキャラクタービジュアルの追求も
だが、続いて特報や予告編が公開されると好意的な意見も増えていき、さらに本編では特にキャストに称賛の声が相次いだ。
特に「唯一無二で完璧で究極のアイドル」という設定の高すぎるハードルを越えなければならない「星野アイ」役の齋藤飛鳥と、コミカルな表情や時には暴言を放つ様も愛らしい「有馬かな」役の原菜乃華には、原作のイメージにピッタリな演技や存在感に絶賛が寄せられている。
さらに、最初に解禁されたキャラクタービジュアルとは違い、実際の本編ではコスプレ感を覚えるところはほとんどなかった。
WEBサイト「ドラマ&映画【推しの子】Behind The Scene」掲載の井元隆佑プロデューサーへのインタビューでは、「ウィッグの着用ではなく、皆さんに地毛を染めてもらうこと」を早々に方針として出して、「世界観を守りつつ、現実にいてもおかしくないキャラクタービジュアルを目指し何度も髪色や髪型、衣装においても協議を重ねながら取り組んだ」ことなどが語られている。
原作漫画は作画担当の横槍メンゴによるかわいらしい絵柄とキャラクターも含めて人気を得ており、だからこその生身の人間が演じる実写化はやはり分が悪かったといえる。それを覆すかのように、キャストの奮闘はもちろん、メイクや衣装や小道具など、実写というアプローチに合わせたビジュアルにこだわり尽くしたことも、間違いなく高評価の理由だろう。
なお監督のスミスはマキシマム ザ ホルモンやフレデリックのミュージックビデオや、漫画の実写ドラマ化作品では『ぼくは麻理のなか』や『ケンシロウによろしく』での実績もある。そのケレン味のある演出や、映像そのものの美しさに魅了された。
◆二宮和也がラスボスを演じる説得力
さらに、キャスティングそのものが絶賛されたのは、12月5日に7〜8話の配信スタートと共にSNSでも発表された二宮和也だ。二宮が演じるラスボス的な役回りの「カミキヒカル」は、実写ドラマ版での登場シーンはまだごくわずかではあったが、その少ないセリフからも原作にあったサイコパス性が醸し出されており、本格的に物語に割り込んでくるであろう実写映画版への期待を高めることができる。
また、主人公の2人である「星野アクア」役の櫻井海音と「星野ルビー」役の齊藤なぎさもまた、役にピッタリなキャスティングおよび演技が称賛されており、2人ともがなるほど「齋藤飛鳥と二宮和也の子ども」に見えるほどのルックスの美しさと、絶対的なアイドルの資質を感じさせる様は、もはや奇跡的にも思えた。
◆新たな驚きと感動のあるアレンジも
脚本に原作者の意向が反映されていることも重要だ。井元プロデューサーによると、赤坂アカは脚本開発をはじめ、さまざまなタイミングで意見を言い、時にはメタフィクション的な表現を面白がって、自身からさかんにアイデアを出していたそうだ。前述した原作で問われた「原作改変」を、実写ドラマという媒体で示すことで、むしろ真正面から向き合うという構図もある。
ドラマ独自の構成の上手さにも感服した。原作漫画を大胆に刈り込みタイトに仕上げつつも、絶対的に大切な部分は外さない取捨選択、提示するエピソードの順番の変更、またドラマ独自のシーンなどが、キャラクターの心理描写をより鮮烈にし、原作やアニメを楽しんだ身としても新たな驚きと感動があったのだ。
例えば第7話にて、ルビーがとあるショッキングな事実を知る過程が、過去のエピソードの挿入もあってより切実に胸に訴えてくるものになっている。さらに第8話での、原作では有馬かなのことが良くも悪くも嫌いになってしまいかねないエピソードが、ほとんど大筋を変えないまま、彼女へのヘイトを溜めすぎないような調整がされており、かつ今後のキャラクターの関係性を追いたくなる改変として、大いに肯定したくなった。
また、劇中で作られる映画「15年の嘘」の設定にもとある大きな改変があり、現時点では賛否を呼んではいる。しかし、ドラマから続いて劇場公開される映画では、きっとその意図もわかることだろう。
◆映像作品の新境地を目指している
井元プロデューサーは、原作の魅力を最大限表現するためには「ドラマだけでも、映画だけでも足りないというのが課題」とも語っている。配信ドラマと映画のフォーマットを組み合わせてストーリーを構成したのは、「映像作品の新境地にたどり着けるのではないか」という考えの元だったそうだ。
さらに(原作では第1巻に当たる)冒頭部を「配信ドラマ1話」と「映画版前半」に構成する、大胆な座組を試みているという。なるほど、それも井上プロデューサーの言う「配信ドラマと映画という新たな挑戦だからこそできた新たな仕掛け」なのだろう。
いずれにせよ、12月20日公開の映画『【推しの子】 The Final Act』がとても楽しみだ。映像作品の新境地どころか、漫画の実写映画化の歴史を変える作品になることを期待している。
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF