F1での4年目を過ごした角田裕毅と彼を取り巻く環境について、F1ライター、エディ・エディントン氏が執筆する連載コラム。今回は、2024年シーズン終盤のパフォーマンスを振り返るとともに、レッドブル首脳陣たちの思惑について記した。
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角田はやれるだけのことをやった。彼らは、最初にニック・デ・フリースを連れてきて、その後にはダニエル・リカルドを呼び戻した。しかしデ・フリースは解雇され、リカルドも、かつてのレッドブル傘下のドライバーと同じように広大な荒野へと送り出された。そして、クリスチャン・ホーナー代表の金の卵、リアム・ローソンが登場した。彼を2024年にRBで走らせた目的は、Aチームのセカンドドライバーのオーディションをすることだった。
そのオーディションの結果はどうだったか。角田とローソンがともに走った6戦において、角田は8ポイント、ローソンは4ポイントを獲得した。しかし、レッドブル首脳陣は2025年に向けてセルジオ・ペレスを降ろして、マックス・フェルスタッペンのチームメイトとして選びたがっているのは、ローソンの方であるといわれてきた。
■マシンのパフォーマンス低下とともに崩壊したペレス
ホーナーは簡単にシーズン途中でドライバーを解雇するから、近々発表されるレッドブルのセカンドドライバーが2025年シーズン最後まで走る保証はない。ピエール・ガスリーとアレクサンダー・アルボンに何が起きたのかを思い出してみてほしい。さらに、レッドブルの内戦においてホーナーが勝利を収めて以来、ジュニアチームにおいても、シーズンをフルで走り切ったセカンドドライバーはいない。
リカルドがレッドブルを離脱し、ルノーに移った時(私が見たなかで、最も感心しない移籍のひとつだった)、チームはピエール・ガスリーを昇格させた。その少し前に彼らは、カルロス・サインツをレッドブルの枠から手放した。サインツはルノーからマクラーレンに移り、その後、フェラーリに加わり、活躍した。一方でガスリーはわずか半年でレッドブルから降格されて、アルボンと交代させられた。アルボンは1年半持ちこたえたが、その後、外され、そうしてペレスがやってきた。
レッドブルが圧倒的な強さを持つマシンを走らせていたシーズンにおいては、ペレスは非常に良い仕事をした。しかし2024年のRB20がフィールドで最速のマシンではなくなった瞬間から、完全に崩壊してしまった。
■レッドブルがフェルスタッペンのチームメイトに望むこと
私はこの業界に長くいるので、F1の内側も外側もすべてを知り尽くしているが、それでも時折、解明できない謎に突き当たる。そして、そのひとつが、これだ:レッドブルはフェルスタッペンのチームメイトを探し続けるなかで、なぜ角田を無視し続けてきたのかということだ。
論理的に考えれば、レッドブルにとっての最善の方法は、ペレスに涙が出るほど莫大な違約金を支払った後で、角田を昇格させて、少なくとも1年の時間を与え、フェルスタッペンと比べて悪くない走りができるかどうか証明するチャンスを与えることだろう。フェルスタッペンのサポートをさせたり、フェルスタッペンのライバルたちの邪魔をする役割を果たせるかどうかを確認するのだ。
レッドブルは、フェルスタッペンに匹敵するドライバー、あるいはフェルスタッペンに勝てるドライバーなど必要としておらず、望んでもいない。彼らが何よりも避けたいのは、チームで最も重要な人物であるフェルスタッペンの気持ちを不安定にすることだ。それができるドライバーはほんの一握りしかいない。おそらく、ルイス・ハミルトン、シャルル・ルクレール、フェルナンド・アロンソぐらいだろう。だが、そこまでのレベルのドライバーでなくても、完全に燃え尽きて士気を失ったペレスより良い仕事ができるドライバーは大勢いる。
■2024年シーズンに角田が成長したことは間違いない
角田もそのなかのひとりだ。2024年に彼が成し遂げたことを振り返れば、確かにいくつかミスを犯したが、以前よりははるかに少なくなったし、コミュニケーションの面でも大幅な改善が見られた。感情の爆発も確実に減り、リカルドとローソンより多くのポイントを稼いだ。
ただひとつ言えるのは、太陽の色についてすら意見が一致しないホーナーとヘルムート・マルコが、角田については、これまで同じ見解を持っていることだ。彼らにとって角田は、“ホンダの協力を得るために起用したドライバー”であり“今後もずっとホンダのドライバー”なのだ。
このコラムを執筆している時点では、レッドブル・レーシングはフェルスタッペンとローソンのペアを形成し、レーシングブルズのラインアップは角田とアイザック・ハジャルになる可能性が高いと考えられている。ハジャルに2025年FIA F2でのシートがないということは、彼がF1に昇格される予定であることを意味する。
角田が2025年もレーシングブルズで走ることが確定した場合、私からは、『新しい友人を探しなさい』というシンプルなアドバイスを贈りたい。2026年に備えて、あらゆるチームの扉をたたき、今よりも良い、新しい場所を見つけるのが最善の策といえるだろう。
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筆者エディ・エディントンについて
エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。
ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。
しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。
ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。