松下洸平、読者の前でエッセイ発売の想いを明かす『フキサチーフ』 トークイベント現地レポート

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2024年12月17日 15:00  リアルサウンド

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エッセイ『フキサチーフ』(KADOKAWA)発売記念イベントに出席した松下洸平 撮影/林将平

 俳優・ミュージシャンとして活躍する、松下洸平の初エッセイ集『フキサチーフ』(KADOKAWA)の発売を記念して、12月16日に東京・渋谷にあるHMV&BOOKS SHIBUYAにて、プレミアムトークイベントが開催された。


【画像】撮り下ろし!松下洸平 トークイベントの様子はこちら


 『フキサチーフ』は、雑誌『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)にて2021年4月号から2024年1月号まで掲載された連載エッセイに加えて、2篇の書き下ろしを収録したものだ。母親が運転していたハイエースの話、祖父と3000冊以上にも及ぶ本の仕分けをした話といった家族の思い出。何者にもなれていないころのほろ苦い記憶に、お世話になった人との心温まる交流。さらには、大好きなさくらんぼの種を取って一気に頬張ってみた話やスマホの変換機能で未知の漢字を探す話など、松下らしい穏やかな視点で思い出と日常が紡がれている。


■開演前のハプニングが発生するも、穏やかな時間が流れる


 そんな松下の綴った日々を抱きしめるかのように、会場に集まったファンたちは『フキサチーフ』を愛しそうに抱えていた。イベント開始までの間、お気に入りの章を読み返している姿も。そして、いよいよ開始時間……となったのだが、なかなかイベントは始まらない。この日は、会場に駆けつけることができなかった読者のためにライブ配信を実施していたのだが、それが繋がらないというトラブルが発生したのだ。「ファンは鏡」という言葉を聞いたことがあるが、朗らかな松下のファンもその例に違わず、突然のトラブルに対してもむしろ笑顔がこぼれるような穏やかな時間が流れた。


 そして約15分ほど遅れてスタートすると、満を持して登場した松下に大きな拍手が上がる。「お待たせしました! 大丈夫ですか? この後、予定のある方いますか?」なんて開口一番で気遣う言葉が出てくるのも、松下の人となりがうかがえる。


 まずはマスコミ向けのフォトセッションが始まり、ニコッとカメラに向かってポーズを取るも、スタッフから『フキサチーフ』を持つように指示が入る。「あ、忘れてた!」とチャーミングなリアクションを取る松下に会場からは笑いが起きるのだった。


 「本を指さしてください」というカメラマンからのリクエストに、『フキサチーフ』を指差す松下。そんな一挙手一投足に「わぁ!」とやわらかな歓声が上がる。何が起きたのかと少し驚きながらキョロキョロとする松下のピュアな動きもまたファンを喜ばせる部分だろう。


■表紙のこだわりポイントを熱弁! しかし完成した本を見ると…


 そのまま松下が「お元気ですか?」と問いかけると、「元気でーす」という声が返ってきた。「良かったです、待っている間は何をしていたんですか?」「読んでました!」とのやりとりが会場の温度を高めた。


 MCから『フキサチーフ』のこだわりについて問われた松下は、紙質について「数え切れない種類から選んだんです」という。「持ったときにほっこりする気持ち」を大切にしようと、ザラザラとした触感で温かみのある色の紙を選んだのだそう。だが、あまりにも候補となる紙が多すぎて「最後は自分で何を選んでるのかわからなくなった」と本音をこぼして笑いを誘う。


 また、挿絵や表紙カバーについても松下自身が描いているという話になると、「『僕、自分で書きます』って言ったのはいいものの、『あれ、絵ってどうやってかくんだっけ?』ってなった」というこぼれ話を披露。とはいえ、もともと「ペインティング・シンガーソングライター」として活動もしていた松下。描きながら、すぐにその感覚を取り戻したそう。


 ちなみに、この表紙に描かれた道は実際に歩き探して見つけ出した場所なのだという。どこの地域にもありそうな住宅街で、車が1台通るのがギリギリの絶妙な道幅の坂道。理想的な道をやっと見つけたと嬉しそうに語る表情に、その場にいたみんなが頬を緩ませた。だが、いい気分で描き始めたところ「このへんとかめっちゃ難しくて〜」と半べそをかきそうな声で、表紙の右上部分を指差す。


 さらに、帯が付くことを意識して全体の構図を考えていたのだが、描き進めるうちにその存在を忘れてしまったそうで、「道の、ここの、これ! ボコッとしたやつ! これめっちゃ時間かかった! でも、これ、帯をつけたら……きれいに(見えない)」と左下の白い段差スロープを指しながら嘆く。しかも帯で隠れてしまうだけでなく、折りこまれている部分にまでかかっているので、帯を取っても見えにくい事態に。


■執筆時間は1回の連載で3〜4時間「大量の直しが…」


 だが、どんなに悲しいことや悔しいことがあってもネガティブなままにしないというのが、松下のエッセイからも読み取れるモットーだ。「考え方を変えれば、どこを開いても楽しいということなので」とポジティブにまとめてみせるのだった。松下は、エッセイを書きながら「自分って何なんだろう」と向き合うことができたと続ける。そして「自分が何者かわからなかったこともあった」とも。


 そんな紆余曲折を経て「今みなさんが見てくださっている僕が完成形? っていうのかな? これ以上にもこれ以下にもなれないというか。このまんまの自分なんだなって思います。もうちょっとクールなのにも憧れたんですけどね、こんな感じになりました」と笑いを交えながらエッセイを執筆してきた3年半を振り返った。


 連載時は、「書くぞ」と決めてから3〜4時間で1本を書き上げていたそう。多忙なスケジュールをこなしながらの連載。とりあえず締切に間に合わせようと「書くだけ書いて提出しようとしたときには大量の直しが入ってきた」とも。しかし、家族の話など、かねてから書きたかったテーマのときは「すぐに書けました」と得意げに。ところが自分で言っていて恥ずかしくなったのか「言っちゃいましたね」とクシャッとした笑顔がこぼれるのだった。


 他にも、お気に入りの章について問われると「麤(そ)」という漢字を見つけたときのことをピックアップ。「鹿鹿鹿って書いてある漢字があって。『こんなにたくさんの鹿に会ったのは、修学旅行で行った奈良公園ぶりだった』みたいな。うまいこと言うよねー?」と自画自賛した上に、客席に向かって同意を求めて笑いに包まれる。


■3年半の連載から書籍化を迎えて「誰かの背中を押す日が来るなんて」


 そんな終始和やかな雰囲気で進んだトークイベントは、あっという間に終演時間に。「終わりだって! 早いね」と残念そうに口を尖らせて寂しそうな表情を浮かべるが、やはりここでも悲しい気持ちのままでは終わらせない。


「僕が日記のように残していったものが、誰かの背中を押す日が来るなんて思ってもみなかったので、すごく嬉しいです。書いてよかったなと思いますし、 改めて本を作るにあたって協力してくださったみなさん、本当に感謝しています。僕自身も、例えば10年後にこの本を見返したときに懐かしんだり、この本に助けられることもあるかもしれません。一生懸命がむしゃらに頑張っている自分がここにいるので。僕にとってもそういう大切な1冊になってると思いますので、みなさん自身の心の中にもお守りのようにして、何かで悩んだり、悲しい気持ちになったときに読んで、もう1日頑張れる力をお届けできればいいなと思ってますので、大事にしてください」とメッセージを届けると、名残惜しい気持ちを振り切るように「またね!」と明るく挨拶を告げた。
 
 そして、ゆっくりと客席に向かって一礼。そんな律儀で、丁寧で、ほのぼのと温かい、最後まで松下らしさ全開の微笑ましいトークイベントだった。 
 
(取材・文/佐藤結衣)



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