「外来種キッチンカー」という業態で、アメリカナマズやブラックバスなどの外来種を調理し提供する活動を行う人物がいる。それが、さかな芸人ハットリさん(以下:ハットリさん)だ。
ハットリさんは、各地の公園や漁港、イベント会場などでキッチンカーを出店、外来種を美味しく食べてもらうことでその問題を考え、ゆくゆくは数を減らしていくことを目指している。
◆外来種の啓発のためにキッチンカーを開始
「茨城の霞ヶ浦で捕れるアメリカナマズをフライや磯辺揚げにして提供するものが、現在のメインのメニューです。淡水魚は水質がそのまま味に反映されることも多いのですが、霞ヶ浦は漁業も行われていて水質に問題はなく、味も好評、途中で売り切れることもあります」
というハットリさん。ちなみにかつては800円で提供していたが、好評につき、サイズを小さくして600円で販売、より多くの人に食べてもらえる工夫をしているそうだ。
「もともとは各地の外来種を引き取って、釣って食べられる釣り堀をやってみたかったんです」
と、ハットリさんは外来種の魚を生かした仕事を始めるきっかけを語る。しかし、そこには大きな問題があった。
「外来種の中でも法的に規制のあるブラックバスなどの特定外来生物は無許可で生きたまま移動させることができません。それで悩んでいたときに、友達から『キッチンカーとかいいんじゃない?』とアドバイスを受けました」
キッチンカーで外来種魚料理を提供するのはあくまでも手段、ハットリさんには外来種に関する知識の普及や啓発を行いたいというやりたい思いがあった。
「たとえばブラックバスは釣り人からすると釣って楽しく、キャッチ&リリースしてその場にずっといてほしい魚である一方で、環境保全の観点から言うと、バスが日本の自然の河川や池にいること自体が環境的にも良くない。
減らさなければいけない存在のバスだけど、いて欲しいと望む人がいる。僕は環境保全をしている人と釣り人、どちらの立場にも友人やお世話になった人がいますし、どちらの気持ちもわかります。
そして両者の分断を目の当たりにすることも多くあったので、その橋渡しができる立場になりたい、落とし所を見つけたいと思うようになりました」
◆「劇団ひとりに憧れて」ピン芸人に
ハットリさんのキッチンカー人気は、物珍しさや味ばかりではない。ハットリさんの軽妙な話し方やキャラもその人気の要因のひとつだろう。
その名の通り、ハットリさんはピンのお笑い芸人である。魚の名前だけで替え歌を歌ったり、映画やアニメのワンシーンを魚の名前に置き換えて再現することなどが現在の持ちネタだ。
通常のお笑いライブにとどまらず、水族館や漁港、魚関連のイベントなどでも芸や魚クイズなどを披露し、SNSなども含めじわじわ知名度も上昇している。
しかし、ハットリさんはそもそも魚ネタをやるために芸人になったわけではない。劇団ひとりに憧れピン芸人になるも、なかなかブレイクすることができず、苦し紛れに舞台で披露したのがアマチュア時代、大学のダイビングサークルの飲み会での余興用だった魚ネタだったという。
「『スタンド・バイ・ミー』を『スズメダイ、スズメダイ』ってひたすら言い続けるという(笑)。これが意外とウケまして」
その後、ブログ上で「1ヶ月間どこまで北に向かって歩けるか」などチャレンジ企画をいろいろ行う中たどり着いたのが、千葉・館山で「1ヶ月間自分が釣った魚しか食べられない」という企画だった。
芸名も「ハットリ」から「さかな芸人ハットリ」へ、ジャンルに特化した名前へと改名した。
「このチャレンジが反応よかったので、もうこの流れに乗って行こうと。頭にメバルを貼り付けるようにもなりアップデートさせていきました。その後も魚の替え歌の路上ライブを築地市場で行い、投げ銭としてもらった現物の魚だけをを食べて生活するとか。
そして釣った魚を300種類食べるまで終われないというチャレンジでは北海道から沖縄まで7ヶ月間、日本全国を他の食べ物を我慢しながら300種類達成しました」
そのときの300種類の記録はそのまま図鑑化もされた。その流れで出会ったのが、外来種の存在だった。
◆外来種を“活用”する上でハットリさんが気を付けていること
「釣りをしながらの生活で、ブラックバスをはじめ釣り人による放流によって広まった外来種問題というものが常に付きまとうことを実感しました。
以前から外来種にまつわるさまざまな問題には興味もありましたので、外来種のことでも何か自分にできることはないかと、2年前に半年間毎日外来種の魚を食べるというチャレンジをしました。
その経験で得た、これは美味しく食べられる、臭みがあるけれどこう工夫したらいける、そして数がある程度確保できそうな種類は?という知識が今に生かされています」
キッチンカーの出店で大変なのは、いわゆる「仕入れ」だ。ちょっと考えてみればわかるが、ブラックバスやブルーギル、アメリカナマズといった外来種は豊洲市場などの魚市場には基本的には入荷しない。
ではどうするか。ハットリさん自身が釣ったり仲間にもらったりすることが「仕入れ」となる。
ハットリさんのスタンスとして常に気を配るのは、ハットリさんは外来種をビジネスとして扱う中で「活用で成功」したいわけではないということへの理解だ。
「外来種の活用はメディアなどでときどき町おこしとして取り上げられることもありますが、活用することがゴールだととらえられがちなんです。
これがヒットした、じゃあお金になるからもっと成功させようとなると、数を増やそう、養殖しようといった本末転倒なことが起こりかねないという危険をはらんでいるんです。産業化させないということを、常に注意しています」
◆自然は「一つの異なるピース」ですべて崩れてしまう
ところで外来種のどのような部分が問題視されているのだろうか。
「そうですね、漠然と外国から来た生き物がもともといた日本の生き物を駆逐していく悪い存在、といったイメージは持たれていると思います」
しかし、そもそも「外来種」という定義が我々が認識するものと異なっている部分があると、ハットリさんは言う。
「外来種とは、本来の生息地じゃない場所に人間の手によって移動させられた生き物を指すんです。ですから外国から来たものだけじゃなく、日本在来の生き物や植物も、本来の生息地以外の場では『外来種』となるんです。
全ての外来種が害があるわけではないのですが、害があるものは「侵略的外来種」とされ対策が必要になります。侵略的外来種を本来の自然の環境と違うところに人間が持ち込むことによって、元の自然の環境がガラッと変わってしまうということが問題なんです。
魚に関していえば、そこにもともといた魚が食べられてしまうこと、もともといた魚の餌やすみかを奪ってしまうこと、そして別の種と交雑してしまう可能性があるという点ですね。
自然界は、いろいろなパーツが複雑に組み合わさって形づくられているもの。それがひとつパーツが異なるだけで全てが崩れることもある。外来種問題とはそういう問題なのだと思ってもらえたらうれしいです」
◆アメリカザリガニも販売に向けて試行錯誤中
ハットリさんは、メジャーな存在で数も多い外来種の魚介類として、アメリカザリガニの処理の仕方に知恵をめぐらせている真っ最中だ。
「アメリカザリガニは美味しいのですが、食べられる部分が非常に小さくて(笑)。殻を剥くなどの手間などもかかりますし、パウダー化させて、たとえばフライドポテトなど、味付け用の調味料のような方向を試行錯誤しているところです」
キッチンカーの活動における悩みは、「淡水魚は季節に左右されやすい」ことだという。
「寒くなると活動が弱まって釣れにくくなるので、今季のアメリカナマズも今冷凍庫にあるぶんを提供したらもう来シーズンまで終わりです」
この先はシーズンオフの期間に突入しそうだ。
◆外来種がいなくなって「企画を辞めること」が一番の目標
ではわれわれが外来種問題に対して簡単にできることはあるのだろうか。
「さきほど言ったように、外来種とは人が動かした生き物のことを指します。生き物はむやみに移動させないこと。そして、一度飼ったものは最後まできちんと飼うこと。
僕はそんな外来種という存在や定義を、食べることや替え歌、ネタを通して、外来種そのものが悪者ではない、興味を持って知ってもらえればというそういうスタンスで活動しています」
もし外来種問題が解決に向かっていけば、今のメインネタのひとつ「外来種替え歌」ネタも、いずれはその存在とともにピンとこないネタになるかもしれない。
「それはもう、うれしいですよ!キッチンカーも、外来種がいなくなって『企画を辞めること』が一番の目標です」
とハットリさんは笑った。
「在来種、固有種がこれだけ戻ってきたよという歌に変えて広めていけたら、それはもう、素敵なことですよね」
<取材・文/太田サトル>
【太田サトル】
ライター・編集・インタビュアー・アイドルウォッチャー(男女とも)。ウェブや雑誌などでエンタメ系記事やインタビューなどを主に執筆。