証券会社で働くAさんは、常にトップクラスの成績をあげる敏腕営業マンです。廊下ですれ違いざまに同僚たちが声をかけますが、Aさんは軽く会釈するだけで足を止めません。彼の頭の中は、すでに今日の商談でいっぱいのようです。
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しかしその日の午後、会社中に衝撃が走りました。Aさんが新入社員のBさんとホテルに入ったという目撃情報が社内に広まったからです。Aさんには妻と2人の子供がいることは、誰もが知っていました。
翌日、人事部にはAさんの不倫行為について調査を求める内容の匿名投書が送られ、さらにこの騒動を知ったAさんの妻が会社に電話をし、夫の不倫について説明を求めました。どうやらAさんは妻に不倫について説明しておらず、しかも家に帰らずホテル暮らしをしている様子です。
そんな状況のAさんですが、相変わらず営業成績を上げ続けていました。「不倫騒動で仕事に支障がないのか?」と同僚たちが彼に尋ねると、プライベートと仕事は別だと答えます。しかし、Aさんの不倫相手とされているBさんは、この一件以来会社に顔を出していません。この状態に人事部はどのように対処するべきか苦慮していました。
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Aさんは会社の看板営業マンであり、簡単に解雇するわけにはいきません。しかしこのまま放置すれば、会社の評判にもかかわります。Bさんの長期欠勤についても問題となっており、彼女の同僚たちはBさんの心労を心配しながらも、仕事に支障が出ていることに困惑しています。また、Aさんの妻からの抗議は続いており、会社の対応の遅さに苛立ちを隠せない様子です。この状況が長引けば、会社の評判にも大きな影響を与えかねません。
このような状況になっても、不倫と仕事は本当に別なのでしょうか。Aさんは会社から罰せられないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いてみました。
ー不倫をした社員は会社から罰せられるのでしょうか
基本的には、個人的な問題で会社は社員を罰することはできません。仮に社員が逮捕されたとしても、示談になったり冤罪であったりする場合もあるので、懲戒処分は不適当です。
一方で、就業規則の服務規程には「会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと」と書かれているのが一般的です。Aさんの不倫により、相手のBさんが出勤できなくなっていたり、社内の風紀が乱れてしまっています。であれば、服務規程に反しているとして、何かしらのペナルティが与えられるかもしれません。
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ー不倫だけでは懲戒事由にならないのですね
実際に、旭川地裁平成元年(1989年)12月27日判決では、不倫が原因で会社が下した懲戒解雇処分が無効と判断されています。妻子ある同僚と不倫をした女性が対象だったのですが、素行不良ではあるものの、企業運営に具体的な影響を与えたわけではないというのが判決理由です。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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