新規事業というと、大きな需要を掘り起こし、全国展開するビッグビジネスをイメージする人も多いかもしれません。しかし、現実にはそのような事業を生み出せる可能性は大きくありません。むしろ小さな市場に目を向け、安定的な需要を獲得することも成功の道です。
それを体現しているのが、地方にある定食店です。
失礼な言い方ですが、地方の定食店は、これといった特徴がなく、味もサービスも普通の店がほとんどです。都市部のチェーン店のほうが味も店内の雰囲気も良いかもしれません。
しかし、それでも常連らしき人たちでにぎわっています。重要なのはこの事実です。地方の定食店がにぎわっている理由の一つは、周辺に競合となる店が少ないからです。
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市場動向を見ると、地方は市場が縮小傾向です。人口が減っていますし、若い人を中心に都市部に人が流出していますので、大きな需要の獲得を目指すうえでは条件が悪いといえます。
●地の利を生かす低コスト運営
ただ、地方は人や企業が少ない分だけ都市部よりも競合が少なくなります。市場が縮小しても、飲食のように生活と密着する需要がゼロになることもありません。
そのため、定食店のような生活密着型の小規模な事業は成り立ちます。地方に行くほど店が減り、中食ニーズに応えるコンビニの数も減るため、商圏内の飲食市場がブルーオーシャンになりやすいのです。
経営面では、店の運営コストが低いことがポイントです。小さな市場は収益が少なくなるため、その中で生き残っていくためには店舗のランニングコストを抑えることが重要です。
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例えば、人件費や家賃などのコストをいかに安くできるかが重要で、それらが安いほど利益は残りやすくなります。
定食店は、大体2〜3人の店員で切り盛りしていますので人件費の総額は安いはずです。労働単価についても、各都道府県の最低賃金(厚生労働省)を見ると、東京周辺、大阪、愛知などでは1000円を超えていますが、地方は1割ほど安い900円前後が中心です。
店舗の賃料も都市部と比べて大幅に安いですし、店舗兼住宅の持ち家である場合はさらにコストが安くできます。これらは地方の店の優位性です。
さらに、近隣に競合が少なければ店舗改装の必要性も低くなり、そのための費用も最低限に抑えられるでしょう。
●リピーターが事業の生命線
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集客の面では、地方は人が少ないわけですので、新規の利用者を増やすのは難しいといえます。そのため、いかにリピーターを増やすかが重要です。
駅前の店なら会社員や学生、住宅街の店なら近隣住民、街道沿いならトラックやタクシーのドライバーなどを囲い込むことによって収益が安定します。
また、飲食店が豊富にある都市部と比べると、地方はリピーター獲得の競争が緩くなります。飲食できる店が少ない、またはその店しかないため、食べたい人はそこに通うしかなく、必然的にリピーターになるのです。
これも地の利であり、飲食店以外にも同じことがいえます。地域に病院が1つしかなければ、住民はその病院に通います。車の修理工場もスーパーマーケットもあらゆる業種において、消費者にとって「ここに頼むしかない」という状況であれば、リピータを維持でき、収益が安定します。
新たな市場への進出を目指す事業者側から見ると、そのようなブルーオーシャンを見つけられるかどうかが重要です。
日本全体の人口は今後も減少しますし、地方から都市部への人口流入も続くでしょう。しかし、人が多ければ事業が成功するわけではありません。
重要なのは市場で勝ち残ることで、中長期で安定的に事業を続けていくためには、競合が少なく、価格競争が起きにくい地方に目を向けてみるのも一つの手です。
猛者がシェアを奪い合う都市部の市場よりも、競合が少ない地方のほうが新規参入に有利な場合もあるのです。
●著者プロフィール:菅原由一(すがわら・ゆういち)
SMG税理士事務所・代表税理士。現在は、東京・名古屋・大阪・三重に拠点を置き、中小企業の財務コンサルタントとして活躍。YouTubeチャンネル『脱・税理士スガワラくん』は登録者数80万人を突破し、TV、専門誌、新聞、各メディアで取り上げられ注目を集めている。
※この記事は、菅原由一氏の著書『タピオカ屋はどこへいったのか? 商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ』(KADOKAWA、2024年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
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