新宿駅前の路上ライブで書類送検されたアイドルは過去にも。意外と知らない「路上ライブと法律の関係」

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2024年12月19日 20:50  All About

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先日、路上ライブでアイドルグループのメンバーらが書類送検されたというニュースがありましたが、そもそも路上ライブは違法なのでしょうか。また、道路使用許可を取れば合法的に路上ライブができるとしても、その道路使用許可は取れるものでしょうか。
先日、アイドルグループ「CiON」が新宿駅前で路上ライブを行ったことに対して、道路交通法違反(道路不正使用)で新宿警察署がメンバーらを書類送検したというニュースがありました。

CiONはメジャーデビュー直前でしたが、この書類送検を受けて、現在まで活動を自粛しています(書類送検とは、検察官に起訴・不起訴の決定を求める手続きをいい、起訴されると刑事裁判になりますが、CiONは11月29日付で不起訴処分となっています)。

路上ライブの歴史は古く、ゆずやコブクロといった路上ライブ出身の人気ミュージシャンも多数おります。そのため、音楽の一つのジャンルといって差し支えないほどに音楽界に定着しているので、路上ライブによってアイドルグループのメンバーが書類送検されたというニュースに驚いた人もいるでしょう。

しかし、こうした路上ライブによる書類送検は今回が初めてではなく、実はかつて新宿駅前の路上ライブで同様に書類送検されたアイドルグループもいました。

そもそも路上ライブは“違法”なのでしょうか。

路上ライブの違法性

結論から言うと、全ての路上ライブが違法というわけではありません。

道路に人が集まり交通に著しい悪影響を及ぼすような路上ライブを、道路を管轄する警察署の許可を得ずに行う場合に、道路交通法違反となります(道路交通法77条1項4号)。裏返すと、法律上は、交通に著しい悪影響を及ぼさないのであれば警察署の許可は不要であり、違法ではないということになります。

都内の主要な駅前での路上ライブは、この「道路に人が集まり交通に著しい悪影響を及ぼす」ことに該当し得るため、道路使用許可を得ずに行えば違法となってしまう可能性が高いのです。

では、人が集まらないような所であれば路上ライブができるのかといえばそうともいえず、あまり人がいないような場所で路上ライブをやっていたとしても、現実としては、警察に見つかれば大体注意をされて中断せざるを得なくなる場合がほとんどです。

なお、警察官からやめるように注意されているにもかかわらず、路上ライブにより大きな音を出し続けると、交通への影響の有無を問わずに軽犯罪法1条14号違反(公務員の制止をきかずに楽器等の音により近隣に迷惑をかける行為)として罰せられる可能性があります。

では、道路使用許可を取れば合法的に路上ライブができるのでしょうか。

路上ライブで道路使用許可が取れるのか

実際、書類送検されたアイドルグループ・CiONの路上ライブの件でも、「道路使用許可を取らないのが悪い」「道路使用許可を取ればよいのだ」というコメントをSNSなどで見かけましたが、新宿駅前の路上ライブに対して道路使用許可が下りることはまずないといっていいでしょう。

さらに言えば、東京都内全域において、路上ライブに対して道路使用許可が下りることは通常あり得ないといえます。

筆者は、弁理士資格のほかに行政書士資格も有しているため、道路使用許可などの申請代行を行うことがありますが、これまで何度も路上ライブの道路使用許可について警察署に問い合わせたことがあるものの、どこに聞いても路上ライブに対して道路使用許可を出すことはあり得ない、といった答えが返ってきます。

新宿駅前を管轄する新宿警察署にも問い合わせたことがあるのですが、やはり「新宿駅前だけでなく、東京都内全域において路上ライブで道路使用許可を取ることはできないはずだ、前例もおそらくほとんどないだろう」とのことでした。そしてこれは、路上販売や大道芸も同様であるとの回答でした。

よって、実際問題として、「道路に人が集まり交通に著しい悪影響を及ぼす」かどうかにかかわらず、警察は路上ライブに対してほぼ一律的に道路使用許可を出さない、という運用になっているのではと考えられます。

なお、道路使用許可が実際に取れるケースとしては、「テレビなどのロケ撮影(駅前等の人通りが多い所では体制をきちんと整える必要がある)」「チラシ配り(場所はかなり限定的)」「自治体が開催するイベント」などが挙げられます。

都内の主要な駅前での路上ライブは道路使用許可が取れないため、件のアイドルグループのように道路交通法違反として書類送検される可能性があるのですが、では、どのような場合に逮捕・書類送検にまで至るのでしょうか。

以前、新宿駅前の路上ライブで書類送検されたあるアイドルグループの事例が参考になります。

10年前にも新宿駅前での路上ライブで書類送検されたアイドルグループがいた

新宿駅前の路上ライブで書類送検されたアイドルは過去にも

実は、10年前の2014年10月にも、新宿駅南口の歩道で路上ライブをしたことで道路交通法違反により書類送検されたアイドルグループがいます。

当時書類送検されたのは、「フレア・ラ・モードAce」というアイドルグループのメンバーとマネジャーらです。

彼女らは、新宿駅前で路上ライブを度々行っていたため、新宿警察署から厳しく注意を受け、今後新宿駅前の路上で演奏しない旨の誓約書まで書いたのですが、それでもマネジャーが今後も路上ライブを続けると警察に話したため、悪質性が高いとして書類送検に至ったといいます。

このように、繰り返し注意を受け、それでもなお路上ライブを続けるような場合に、書類送検にまで至ってしまうと考えられます。

以前、路上ライブの逮捕や書類送検について警察署に確認した際の回答としては、すぐにその場で逮捕するようなことはなく、悪質性が高いと考えられるものに対しては後日書類送検する場合があるとのことでした。

新宿駅前での路上ライブで書類送検された事例の共通点

新宿駅前の路上ライブで書類送検されたのは、どちらもアイドルグループであるという共通点があります。また、どちらも東日本大震災やコロナ禍により催し物が少なくなった後、それらが回復してきて徐々に催し物が多くなり、路上ライブも以前のように活気づいてきた時機での書類送検という、タイミング的な共通点もあるように見受けられます。

この2つの共通点から考えられるのは、警鐘を鳴らすような意味合いで、路上ライブが活気づいてきたタイミングで目立つグループが書類送検の対象になりやすいのではということです。

現在、千葉県の船橋市や柏市では路上ライブの公認制度を導入しており、所定の条件を満たせば合法的に路上ライブができます。こうした合法的に路上ライブができる場所が増えれば駅前での無許可の路上ライブも減っていく可能性があるため、今後はこのような公認制度が普及するとよいのではと考えます。
(文:藤枝 秀幸(弁理士・行政書士))

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