妻がお酒好きで……
「僕はまったくの下戸なんですが、妻はとにかくお酒が大好き。普段から飲み会が多いのですが、それでも月に数回にとどめてもらっています。だけど12月は別。連日のように忘年会があり、妻の顔の広さに驚くとともに、こっちの負担も考えてくれと悲鳴を上げています」そう言うのはダイスケさん(38歳)だ。3歳年下のカナさんと結婚して4年、2歳半の子がいるのだが、「12月だけは覚悟しておいて」と言われたそう。そしてその言葉通り、連日の忘年会となっている。
「とにかく僕が保育園に迎えに行くしかないんですが、どうにもならないときは電車で30分の距離に住む母に頼むこともあります。専業主婦だった母はもともと、カナがフルタイムで仕事をしているのをあまり快く思ってない。
今や世の中は変わって、ふたりで働いていたって経済的には余裕があるわけじゃないと説明したけど、なかなかわかってもらえない。子どもを育てて、家計をやりくりするのが妻の務めと言い切っちゃうタイプなので……」
共働きの妻が気に食わない母
だから母には頼みたくないのだが、仕方なく頼むことも増えてしまう。そうすると母は、カナさんに嫌味を言う。カナさんは不機嫌になり、ダイスケさんに余計な心労が増えるという図式になる。それが分かっているだけに、「あんまり飲み会入れないで」と懇願しても、カナさんは「不義理はできない」と言うだけだ。「飲まない僕だって避けられない忘年会はあるし、それなりに楽しい。飲みたい上に、人脈の広い彼女にとっては、『この時期の飲みニケーションが、来年の仕事に影響するのよ』というんですよね。本当かどうか分からないけど、営業職にある彼女は本気でそう思ってるみたい。だから社外の忘年会がほとんどらしいです」
酒に強いため泥酔状態で帰宅して困らされることはないのだが、いつもより大声で饒舌(じょうぜつ)になるから子どもを起こしてしまうこともしばしば。
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それが心労のタネですけどと、ダイスケさんは苦笑した。
飲めないくせに忘年会で調子に乗る夫
飲めないならアルコール以外で付き合うのが今どきのありようではあるが、飲めないくせに調子にのって飲みまくる人もいる。「うちの夫がそうです。お酒には弱いのに、勧められるとついつい飲んで、ヘロヘロになってタクシーで帰宅。まだ電車があるんだから、電車で帰ってこいと言っても、なぜかタクシー。挙げ句、一緒にいる人たちを送って最後に自宅へ。タクシー代は誰からももらってないって。飲むとすぐ気が大きくなるのが悪い癖なんです」
ユリカさん(40歳)はため息をつく。毎年、この時期の夫の散財には困っているそうだ。少人数の忘年会と称した飲み会では、すぐ全部自分で払ってしまう。周りは喜んでまた誘ってくる。太っ腹を決め込んで、「あんまりおごられると気を遣う人もいるから」という理由で、参加者からは1000円を徴収して、残りは自分で払うらしい。
「バカですよね、給料安い上に、社会保険やら税金やらでもっていかれるのに。夫が酔っ払おうが翌日つらかろうが、それはどうでもいいけど(笑)、小遣いが足りないと手を出されるのが困る。今年は絶対に、お金は渡さないと言ってあります」
来年は下の子の小学校受験が控えている。上の子が失敗しただけに、今度はリベンジだとユリカさんは張り切っているが、夫はそれには大反対。小中学校は地元でいいと言う。
子どもの受験間近で、飲み歩く場合ではない
「子どもの受験に関しては、まったく意見が合わなくて。その話題が出ると冷戦状態になる。ただ、下の子には万全の準備をしてきているから、なんとか合格させたい。夫も私の気持ちがわかっているなら、この年末、飲み歩いている場合じゃないんですよ」お互いへのわだかまりがあるからこそ、ユリカさんは散財する夫に冷たく、夫はなおのこと鬱憤晴らしに飲み会を入れてしまうのかもしれない。
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子どもたちが小さいうちは仕方がないし、あまりお金も遣いたくないし。そう言うと『世の中、金で買えないものがある』と夫は言いますが、私はそんなことないのになあと思います」
なかなか意見の合致を見ることがないユリカさん夫婦だが、子どもの小学校受験は親の忘年会にまで影響を与えるようだ。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))