2024年放送の連続ドラマも、いよいよ放送を終える時がやってきた。秋ドラマは、タイトルの深い意味に「なるほど」と唸りたくなる作品が多かったように思われる。そこで今回は、毎クール全ての作品をチェックしているドラマニアな筆者が「勝手にベスト3」と題して、中でも特に印象に残った3作品をふり返っていこう。
第1位
時代を越えて顔を出す“光”とは…?
「海に眠るダイヤモンド」
神木隆之介さんを主演に迎え、戦後復興期から高度経済成長期の“何もないけれど夢があり活力に満ちあふれた時代”にあった家族の絆や人間模様、青春と愛の物語を紡いでいくと同時に、現代の“一見して何でもあるけれど若者が夢を持てない時代”を描き、過去から現代に通じる希望に焦点を当てたヒューマンラブエンターテインメント「海に眠るダイヤモンド」。
何より素晴らしいのは、回を追う毎にタイトルである“ダイヤモンド”に込められた意味が変化していくことだろう。物語の舞台である端島は、古くから炭鉱の島として知られており、生活の基盤には常に石炭があった。しかしある日、坑内で火災が発生――止む無く深部区域の水没放棄が決定し、端島にとって最も大切な“ダイヤモンド”は海の底へ沈むことになってしまう…。
本作ではこの一件がストーリーの大きな軸となっているが、毎話、登場人物たちにとっての“光”が少しずつ失われていくことでタイトルのダブル、トリプルミーニングになっている。海で失われた尊い命、手放す選択しかできなかった夢、心の中だけにしまってきた愛しい想い…。だけど、それらは記憶の奥底で眠っていただけで、現代を生きる若者たちの手によって、再び紐解かれることとなる。
歴史に忠実な部分と、散りばめられた余白のバランスがとにかく良いドラマ。「こんな奇跡があったら素敵だな」と思わせてくれる珠玉の一作として、ぜひ多くの人に見ていただきたい。
第2位
“ザ・クズヒーロー”に沼落ち!?
「あのクズを殴ってやりたいんだ」
本作、通称「あのクズ」は、結婚式当日に彼氏に逃げられてしまった主人公・ほこ美(奈緒)が、人生どん底のタイミングで金髪の謎の男・海里(玉森裕太)に出会い、その出会いをきっかけに「もうクズな男に泣かされるのは嫌だ!」と自分を変えるためボクシングを始めるガチンコボクシングラブコメディだ。
初回の放送時、まるでシンデレラの王子様のように颯爽と登場した海里だったが、実は市役所勤務のほこ美にお金を貢がせることが目的で…。悪びれることなく、ほかにもたくさんの恋人がいるという“ザ・クズヒーロー”設定が斬新で目を惹かれた。
その後、彼が元・ボクサーであることを知ったほこ美は、ヤツを殴るため、ボクシングを始める。如何なる時も真っ直ぐ純真な気持ちで接してくる彼女に、少しずつ氷った心が溶かされていく海里。しかしながら、2人の幸せをあらゆる手段で邪魔する敵がすぐそばに潜んでいて…。
最終的に「みんなどこかしらクズな部分があるからこそ、人間って面白いのかもしれない」と思わせてくれる結末が面白かった。ラスト10秒、画面から2人がフェイドアウトした後の会話で、タイトル通り、ほこ美が海里をドカッと殴っている音がしたのが粋で、とても爽快な気持ちで見終えることができたのではないだろうか。
第3位
複雑にねじれた大人たちの愛の物語
「わたしの宝物」
夫以外の男性との子どもを、夫との子と偽って産んで育てる“托卵”を題材に、大切な宝物を守るため、嘘を突き通すことを決意した一人の女性(松本若菜)とその夫(田中圭)、そして彼女が愛した彼(深澤辰哉)のもつれあう感情を描いた大人の恋愛ドラマ「わたしの宝物」。ドロドロの不倫ドラマとはひと味違う感触が、今クール、とても良い意味でとても心に引っかかった一作だ。
中でも今回SNSを中心に注目度の高かったキャラクターが、主人公・美羽(松本若菜)の夫、宏樹(田中圭)だった。彼は物語の冒頭、妻に対して仕事のイライラを過度にぶつけてしまうモラハラ夫であり、妻に自身の子を妊娠したと告げられた時も「父親の役目はできない」と突き放していた。
いざ我が子をその手に抱くと、少しずつ父親として、さらには夫としての自覚を持ち始める。本来であればとても嬉しい変化なのだが、彼が「今までごめん」と頭を下げるほどに、本当の父親ではないという厳しい現実が視聴者たちの心をチクリと刺す。
大切な宝物を守るため、真実を隠そうとすればするほどにすれ違ってしまう思い――大人だからこそ複雑さを増していく展開が、ヒリヒリとして面白かった。最後にそれぞれが選んだ結末とは…? 結末への感想を誰かと話したくなるドラマと言えるだろう。
以上、いかがだっただろうか。次回は、2025年最初のクールとなる冬ドラマのおすすめをご紹介予定。お楽しみに!
(YUKI)