12月22日に放送され、令和ロマンの史上初の2連覇という大きな盛り上がりを見せた『M-1グランプリ2024』(テレビ朝日系)。審査員の大幅刷新も大きな注目を集めていました。
その中で唯一の女性審査員である「海原 やすよともこ」(以下、やすとも)の海原ともこさんに対して関西人とそれ以外の人々における評価の差が話題となっています。
◆「後の人のことは考えてない」トップパッターに97点
漫才コンクールとして最も大きな注目度がある『M-1グランプリ』。今年もX(旧Twitter)ではM-1関連のさまざまなトレンドワードがタイムラインを賑わせており、中でも議論を呼んでいたのが、昨年に引き続き審査員を務めた海原ともこさんです。
今年の審査では、他の審査員と比べて高めの点数だったともこさん。特に多くの審査員が後のコンビを考慮してトップバッターには点数を低めにしがちなところ、ともこさんは1番目の出番となった令和ロマンに「後の人のことは考えてない。1回1回なんで」というコメントとともに97点といきなり高く採点。
その後も2組目のヤーレンズに対しては「もっとしょうもないのが見たかった」と口ごもりながら伝えたり、純粋に面白いと思ったコンビに忖度なく高得点をつけたり、「漫才の作りはよくわからないけどめっちゃ面白かった」とコメントしたり、独特の感性で審査をしていました。
他の審査員が専門的な視点やネタや技術の分析をしていたが故に、ともこさんの視聴者目線の採点が目立っていた印象でした。
この採点やコメントについて、Xからは「こんなざっくりとした審査するなら審査員に向いてない」、「海原ともこって人、採点が適当」、「そもそもこの人誰なの」といった批判が多く投稿されていました。
関西では絶大な人気と知名度を誇っていますが、それ以外の地域では、ともこさん自体をよく知らない人も多い現状が浮き彫りになりました。
◆「ともこ姉さんをバカにする奴は許さない」関西人の怒り
こうしたともこさんへの批判ポストに対して、関西在住者や出身者を中心に擁護の声も殺到する事態に。
「ともこ姉さんをバカにする奴は許さない。やすともは関西若手芸人の母親のような存在」、「姉妹で話しているだけで超絶面白い漫才になる天才だから構成がわからなくていい」といった意見であふれていました。
実際に姉のともこさんと妹のやすよさんで結成された「海原 やすよともこ」は、関西では知らない人がいないほどの知名度と実力を誇る姉妹コンビ。
2人は昭和に活躍した女性の漫才コンビ「海原お浜・小浜」の小浜を祖母に持ち、「海原かける・めぐる」のかける(1977年に解散し引退)を父に持つという漫才サラブレッド姉妹です(ちなみに相方の「めぐる」は池乃めだかさん)。
30年以上前から数々の漫才コンクールで受賞してきた実力派で、2020年からは大阪の漫才劇場「なんばグランド花月」で大トリと取る新看板に中川家とともに就任しています。
やすともは漫才の実力だけでなく、関西方面を中心に多数のレギュラー番組も持ち、親しみやすさと人望の厚さから視聴者からも多数の芸人からも慕われている存在。
特に芸人と一緒に関西地方のショッピングモールで買い物をするロケ番組「やすとものどこいこ!?」(テレビ大阪)では、若手芸人の悩みを聞くなどやすともの人望を厚さが垣間見えるだけでなく、番組内でやすともの2人が紹介した商品が飛ぶように売れるなどその影響力は絶大であることも有名です。
このようにやすともは関西で圧倒的な知名度と実力を誇るだけに、Xで散見されたともこさんへの批判に多くの関西人が怒りをあらわにしたのも当然のことかもしれません。
◆関西と関東で違う「しょうもない」のニュアンス
さらに容姿いじりや自虐、下ネタなどで笑いを取ることも多かった女性芸人の中で、やすともは昔からこうした笑いではなく、しゃべくりでのし上がってきたことも特徴です。
12月10日に放送された『女芸人No.1決定戦 THE W 2024』(日本テレビ系)では、最終決戦に残ったにぼしいわし、紺野ぶるま、忠犬立ハチ公3組がすべて下ネタだったことで「女性芸人って下ネタでしか笑いが取れないのか」と波紋も呼んでいました。
こうした昨今の女性芸人を取り巻く状況を鑑みても、やすともが漫才師としての評価が高いために昨年から審査員を務めているのも関西人からすると納得の事実。
「上沼恵美子の次にこの席に座れるのはハイヒールかやすともだけ」、「しゃべくり漫才で爆笑を取って劇場のトリを務める女性芸人が他にいるか」、「やすともを知らない人がM-1の審査員について評価するな」という、ともこさん批判への反論も多く散見されました。
また今回のM-1ではヤーレンズに対する「しょうもないのが見たかった」、マユリカに対する「しょうもないことの連続で面白かった」と「しょうもない」というワードを多用していたともこさん。これに対して「しょうもないなんて失礼」という意見も多く見られました。
しかし「しょうもない」という表現が、関西のお笑いにおける最大の賛辞であり、そのニュアンスが全国区の視聴者には伝わっていないことから批判にも繋がったのでしょう。全国放送の漫才コンテストだからこそ生まれてしまった、関西と関東の温度差の違いも浮き彫りになりました。
◆海原ともこ審査で番組や賞の格を上げている
上沼恵美子さんが長らく担ってきたM-1グランプリの女性審査員。上沼さんが審査員引退後は「唯一天下を取った女性ピン芸人」とも評される山田邦子さんが2年連続で審査員を務めました。
去年は、ともこさんと山田邦子さんが審査員席に並ぶ大会史上初の女性審査員2人体制でしたが、そこに来て今年は山田さんが外れて、ともこさんが唯一の女性審査員となりました。
番組制作側としては「誰か1人は審査員に女性を入れなくては」という思いがあるのかもしれませんが、そもそも、やすともの漫才における貢献度や実力は性別関係なく評価されているのです。審査員として参加することで、番組や賞そのものの格を上げていることは間違いないと言えるでしょう。
ちなみに妹のやすよさんについては、「ともこは言葉にどもりながらも傷つけずに評価を伝えられるけど、やすよはただ『私はおもんなかった』と辛辣なコメントで場を凍りつかせそうだから向いてない」という愛のあるポストも。
◆ともこの審査に共感の声も
ともこさんの、漫才ネタの構成や作りよりも、純粋に面白いかどうかで1回1回そのコンビを審査する姿勢については「共感した」という肯定的な意見も多かったです。
来年以降もともこさんが審査員をするのかはわかりません。しかしともこさんを批判していた人は、「女性だから」という理由抜きで漫才レジェンドとなっている実力者であることを知ると、また今年のM-1への見方が変わるかもしれません。
<文/エタノール純子>
【エタノール純子】
編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。エンタメ、女性にまつわる問題、育児などをテーマに、 各Webサイトで執筆中