12月22日に静岡県小山町の富士スピードウェイで開催された2024年KYOJO CUP最終戦。レースでは斎藤愛未(Team M 岡部自動車 D.D.R VITA)が自身初となるKYOJO CUPのタイトルを獲得するとともに、夫である坪井翔と世界初となる“同シーズン夫婦王者”に輝いた。
ポールポジションに斎藤、2番グリッドにランキング2位の翁長実希(Car Beauty Pro RSS VITA)が続くという直接対決になった2024年のKYOJO CUP最終戦。決勝スタートでは斎藤がやや出遅れると、翁長が横に並びかけTGRコーナーに向けてインを取る。このままトップに立つかと思われたが、ブレーキをロックさせてしまった翁長がコースアウト。レースに復帰するも直後のコカ・コーラコーナーで単独スピンを喫し最後尾まで後退する一方、斎藤は独走ポール・トゥ・ウインでチャンピオンを決めるという、明暗が分かれる結果になった。
■斎藤愛未「今まででいちばん嬉しい“おめでとう”を貰った」
2024年シーズンは第2戦、第3戦、第4戦の3連勝に加え、最終戦での優勝で年間を通して力強い走りを見せた斎藤。表彰式を終えた斎藤に、自身初となるKYOJO CUPのタイトル、そして夫婦チャンピオン獲得について聞くと「四輪で初のチャンピオンが獲得できてうれしいです」と笑顔をみせた。
「今年の目標は夫婦でダブル優勝をすることだったのですけど、それは達成したので『次はお互いにチャンピオンを獲れたらいいね』という話はしていました。まさか本当に実現するとは思っていなかったので、この後が逆に怖いですね。うまくいきすぎていてちょっと怖いです(笑)」
「でも、世界で初めての(同シーズン)夫婦チャンピオンと言ってくださる方がかなりいるので、今後はもっと夫婦で仕事が増えたらいいなと思います」
その斎藤は、KYOJO CUP最終戦の前日に行われたFCR VITAでスタートをうまく決められなかったことから、翌日のKYOJO CUP決勝の走り出しはとにかくミスをしないよう意識を集中させていたという。レース中はミスをしないよう気を配りつつ“置きにいかない走り”に努め、冷静に周回を重ねていった。
しかし自身初、そして夫婦タイトル獲得を目前に控えたファイナルラップでは『緊張したのでは?』と当時の心境を振り返ってもらったが、意外にも「緊張はしなかった」という答えが返ってきた。
「最後にバックマーカー(周回遅れ)が何台かいたので、そのクルマを『うまくパスしよう』という意識に変わったので、あまり緊張しませんでした。でも、そのことがなかったら(精神的に)けっこう危なかったかもしれないです」
レース終了直後の公式映像では、クルマから降りた斎藤のもとにチーム監督の三浦愛、斎藤の夫である坪井が駆け付け、笑顔をみせる斎藤に対し、涙をこらえきれなくなった坪井が抱擁を交わす場面が映し出された。その際に斎藤は坪井から、心からの祝福を受け取っていた。
「(坪井は)すぐに自分のレースに行ってしまったので、あまり多くは話せていないのですけど『本当におめでとう』の一言にすべてが詰まっていた気がします。私のなかではけっこう重い意味のある、いちばん嬉しい“おめでとう”でした」
自身初となる四輪レースのタイトル獲得がかかった重要な一戦であったにも関わらず、冷静にレースウイークに臨んでいたように見えた斎藤。そのことを改めて夫の坪井に聞くと、やはり落ち着いていたようで「意外といつもどおりに過ごしていましたね」と妻の様子を振り返る。
「『腰が痛い』と言っていたので少し気がかりでしたけど、それ以外は至って冷静でした。ただ、シミュレーターを入念にやったりしていたので、少なからず緊張していたり、今までとはちょっと違う雰囲気もあるのかなとは思っていました」と坪井。
「とはいえ、正直に言うと『もう少し不安定になるのかな』とは思っていました。コントロールして自分自身を落ち着かせようとしていたのかもしれませんが、客観的に見ていると『本当にこれから初チャンピオンを獲る人なの?』と思うくらいの落ち着きぶりでした」
「彼女(斎藤)からすると、僕が緊張しすぎていて『何でこいつはこんなに緊張しているんだろう』と逆に緊張が解けたのかもしれませんね」
チェッカーを受けるまでの間も斎藤を見守っていたという坪井。その斎藤がトップチェッカーを受けたときの自身の心境は「めちゃくちゃうれしかった」と言う。
「自分のレースで自分がチャンピオンを獲得する以外に、これだけ嬉しいことがあるのかと初めて感じたくらいの嬉しさでした。(斎藤が)チェッカーフラッグを受けた瞬間は、涙を抑えるのに必死でした」
「四輪で初チャンピオンの可能性があるレースで落ち着いていることができる、そういった彼女の強さを見ることができました。レーサーにとって初チャンピオンは一生に一度しかないので、(第2戦での)初優勝を含め、2024年は彼女にとって素晴らしい一年になったので嬉しいです」
坪井は最後に「チャンピオン獲得のお祝いをしてあげたいですね。食べるにしても、どこかに出かけるにしても、何でもいいので聞いて、本人が欲しいものをプレゼントしたいと思います」と語り、改めて妻である斎藤のチャンピオン獲得を祝福していた。
■最後の1周まで「あと1台、もう1台」の気持ちで追い上げた翁長実希
喜びに溢れる斎藤に対し、スタート直後の1コーナーでコースアウト、復帰後のコカ・コーラコーナーで単独スピンを喫した翁長に笑顔はなかった。決勝ではポールスタートの斎藤に並ぶ好ダッシュを見せたが、タイヤが温まりきっておらずブレーキロック、そのままオーバーランしてしまったとレースを振り返る。
「オーバーランの後は6番手くらいでレースに復帰したのですが、かなり前が詰まっていたのでコカ・コーラコーナーの途中でステアリングを切ってしまい、オーバーステアが出てスピンをしてしまいました」と翁長。
「(1コーナーで)ロックアップしてしまったときは『この後にミスなく追い抜いていけばまだチャンスはある』と思っていたのですけど、コカ・コーラコーナーでオーバーステアが出たことは正直想定外でした。しかし、ミスがあってのスピンであるという部分は、しっかりと受け止めなければならないと思います」
わずか30秒ほどの出来事で2番手スタートから最後尾まで順位を落とした翁長。その後は怒涛の追い上げをみせたものの、2024年の最低順位となる15位でレースを終えた。翁長はチャンピオンの可能性がなくなったことを理解しつつも、最後までトップを狙って走り続けたと、時折声を震わせながら心境を語る。
「スピンした瞬間、チャンピオンの可能性がなくなったということは理解しました。でも、自分には1台ずつ着実に追い抜いてベストな走りをすることしかできなかったので、切り替えて集中しました。ミスをしたことで焦り、他のドライバーを危険にさらすような運転だけは絶対にしたくありませんでした」
「チャンピオンの可能性はないにしても、走っている最中はトップを狙っている気持ちだったので、最後の1周まで『あと1台、もう1台』と思いながら順位を上げていきました」
最終戦にして今季最大のドラマが生まれ、2024年シーズンの幕を閉じたKYOJO CUP。新型フォーミュラ車両『KC-MG01』が導入され、さらにハイレベルな戦いが繰り広げられるであろう2025年シーズンも競争女子たち、そして白熱のタイトル争いを繰り広げた斎藤と翁長の戦いに注目したい。