10月から放送を開始した秋ドラマが続々と最終回を迎えた。今クールも、今後の日本のドラマ界を背負ってくれそうな活躍を見せた若手俳優は多い。中でも、今後の活躍にひときわ注目したくなる、フレッシュな男性俳優3人について語りたい。
◆小林虎之介/繊細さと爆発力を持つ
まずは『宙わたる教室』(NHK総合ほか)で柳田岳人役を務めた小林虎之介(26歳)。本作は定時制高校を舞台に、さまざまな事情を抱える生徒たちの挑戦を描いたドラマだ。
柳田は日中はゴミ収集の仕事をし、仕事の後に学校に通っている高校生。文字の読み書きに困難を抱える「発達性ディスレクシア」という学習障害のために、勉強についていけず、周囲に馬鹿にされた過去を持つ。本作は理科教師の藤竹(窪田正孝)が主人公ではあるが、そんな柳田を軸にストーリーは展開されていく。
1話で藤竹は柳田のディスレクシアの可能性を指摘し、「一度ちゃんと診断を受けてみませんか?」と提案。続けて「柳田くんはとても聡明な人だと僕は思います」と優しく声をかける。すると柳田は「怠けてたわけじゃねぇ、努力が足りなかったわけでもねぇ」と泣きながら吐露する。その様子から、これまで頑張りが報われず、いかに諦め続けてきたのか、という柳田のしんどすぎる過去が感じ取れた。
◆感情を揺さぶるシーンにはいつも柳田が絡んでいた
また4話では、物理学の本を熱心に読んでいることを、最年長生徒の長嶺省造(イッセー尾形)に知られる柳田。長嶺に対して「笑いたきゃ笑えよ」と噛みつくと、「何で笑うんだね?」「この本を見てわかるのは『中身を知りたい』『何としてでも理解したい』という君の情熱だけだよ」と返される。これに柳田は照れながら「うっせえよ、じじい」と悪びれるしかなかった。その不器用さに思わずニヤニヤさせられ、柳田の茶目っ気を感じざるを得ない。
感情を揺さぶるシーンにはいずれも柳田が絡んでおり、柳田岳人という役を小林が務めあげていたことがうかがえる。爆発力が求められる演技から繊細な演技まで、幅広い表現力を見せた小林の今後に期待感を持たずにはいられない。
◆坂東龍汰/難しい役を演じきる力
次は『ライオンの隠れ家』(TBS系)で、アート事務所でアーティストとして活動する自閉症スペクトラム症(ASD)の青年・小森美路人役を務めた坂東龍汰(ばんどうりょうた/27歳)。とにかく、自閉症スペクトラム症という特性をもつ、この難しい役を見事に演じきったところがすごい。
SNSでも坂東の演技には賞賛の声が圧倒的に多い。当然、本作では自閉スペクトラム症の監修として伊庭葉子氏が制作に携わっているとはいえ、ここまで絶賛されることは珍しく、坂東の演技力を称えるしかない。
◆底知れぬ演技力を感じっぱなし
また、本作の魅力の一つとして決して“美路人の物語”にしていないことが挙げられる。発達障害をもつ人物が登場する作品は、その人物を中心に進行していくケースが珍しくない。しかし、本作では各登場人物の背景や心情を掘り下げ、美路人はあくまでその中の1人として扱われている。決して目立ちすぎず、かといって美路人というキャラを埋もれさせずに印象に残る演技を見せ続けており、坂東の底知れぬ演技力を感じっぱなしだ。
ちなみに、個人的には劇中でちょくちょく描かれる、美路人が自身の部屋を仕切っているカーテンを開け閉めする際のスピード感がたまらなく印象的だった。そういった細かいところにも愛らしさを覚えさせられるのも坂東の魅力なのかもしれない。
◆木原勝利/あまりに怖すぎる男
最後は『3000万』(NHK総合ほか)で、坂本を演じた木原勝利(きはらまさとし)。まず最初にことわっておきたいこととして、そもそも木原は現在43歳だ。加えて、長らく舞台を中心に活動しており、映画にも出演している。俳優としてのキャリアは十分ではあるが、ここ数年でテレビドラマ出演が目立つようになったため、今回はかなり強引ではあるがフレッシュな俳優と括らせてもらいたい。
木原自身にも、木原のファンにも申し訳なさを覚えながらも、今回「今後の活躍に期待したい俳優」に木原を加えた理由は、やはり坂本というキャラの存在感がすさまじかったからだ。坂本は闇バイトの指示役という悪いやつ。再三に渡って主人公の佐々木祐子(安達祐実)を追いつめる姿はあまりにもスリリングだった。
◆狂気的な演技だけではなく、マイルドな役も見てみたい
特に印象的だったのが2話。強盗で得た3000万円を持ち逃げしたソラ(森田想)の捜索に難航している実行犯の蒲池(加治将樹)と長田(萩原護)を引き連れて、ショッピングモール内を歩く坂本。多機能トイレの扉を開けて「入って」と微笑む。戸惑いながらも2人は坂本と一緒に多機能トイレに入ると、その直後に嫌な打撃音と蓮池の苦痛の声が聞こえる。するとトイレの扉が開き、坂本は涼しい顔を浮かべて右手の拳から出ている血をハンカチでふき取りながらトイレを出る。
トイレ内の映像はなく、ただただ多機能トイレの扉が映されているだけ。中の様子はわからないが、何が行われていたのかは確実にわかる。あえて見せない演出により、坂本というキャラの怖さを示すシーンだった。とはいえ、坂本よりもガタイの良い蓮池がビビるのも納得できるほどの“強キャラ”もとい“恐キャラ”としての佇まいを木原の表現力があったからこそ、坂本の怖さが何倍にも増長されたことは言うまでもない。今後もドラマで木原の狂気的な演技だけではなく、父親役のようなマイルドな役も見てみたい。
冬ドラマ以降も今回取り上げた3人の俳優の活躍には熱視線を送りたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki